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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
サマー・ハーバーでのデート
20/43

スカーレットの誘い

 医務室から男子寮へ戻ろうとすると、ちょうど校舎の影でスカーレットが腕を組んで待っていた。

 深紅の瞳がじっとこちらを見据えている。……何か言いたげだ。


「イリヤはどうだった?」

「ああ、ちゃんと目を覚ましたよ」

「そう、それは良かったわ」


 スカーレットは素っ気なく返事をしたかと思えば、ジト目でオレをにらんでくる。


「……また不埒なことはしてないでしょうね?」

「してねえよ! オレを何だと思ってるんだ、お前は!?」

「さあねっ。でも何もなかったようで安心したわ。ええ、そうね」


 なんだ、その納得いかなそうな態度は……。

 とりあえずスカーレットの機嫌を損ねる前に、さっさと男子寮へ戻ろうとした――のに。


 ふと、袖をくいっと引っ張られる。


「ねえ、スタン。……明日、ひま?」

「明日って休日だよな。特に用事はねえけど?」


 オレがそう答えると、スカーレットは一瞬キラッと瞳を輝かせた。


「それじゃあアタシとデートしなさい!」

「で、デート~!?」


 思わず声が裏返る。


「アンタの特訓に付き合ってやったんだから、それくらいはお返ししてくれてもいいでしょ!?」

「オレとデートなんて、お前本気か!?」

「何よ! アタシだって、どーでもいい男にデートなんて申し込んだりしないわよ!」

「それって……」

「別にっ! 勘違いしないでよ!? アンタなんかに恋愛感情持ってるとか、そういうんじゃないんだからね!?」


 華奢な腰に手を当てて、ぷいっとそっぽを向くスカーレット。

 でも、その耳はほんのり赤い。


「ギブアンドテイクってやつよ!」


 そう言われたら断る理由はない。


「……まあいいけどさ。オレでよければ付き合ってやるよ」


「ホントに!?」


 さっきまでのツンツンした態度はどこへやら。

 スカーレットは一番星みたいにキラキラした目でオレを見る。


「それじゃあ、明日の朝、校門で待ち合わせね! 絶対に遅刻しないこと!!」


 そう告げると、スカーレットは鼻歌まじりに去っていった。


 ……まあ、スカーレットらしいといえばらしいけどさ。


 そんなことを考えながら待ち合わせ場所の校門を下見に行ったら、ちょうど外出しようとしているレン先輩の姿を見かけた。


「あれ、レン先輩?」


 オレが何気なく声をかけると、レン先輩は軽く手を上げて振り返る。


「やあ、スタン。こんなところで会うとは奇遇だな」

「レン先輩こそ、今から外出するんですか?」


 オレが問いかけると、レン先輩はほんの一瞬躊躇うような間を置いて、神妙な顔で答えた。


「ああ、少し学園の外を調べに行く。最近、妙な動きがあるようでな」

「妙な動き?」


 その言葉にオレは思わず眉をひそめる。


 レン先輩はしばらく沈黙したあと、ふっと視線を落としてから、静かに口を開いた。


「召喚獣狩り……知ってるか?」

「いえ、知らないですけど……なんか物騒な言葉ですね」

「……知らないなら、それでいい。できるだけ関わらないほうがいい」


 そう言いながら、レン先輩は一瞬だけ 警戒するように 周囲を見回した。まるで誰かに聞かれていないか確認するような動作だ。


(なんか……気になるな)


 何か言いたいことがあるようで、でも言えない――そんな雰囲気を感じる。


 けど、これ以上突っ込むのはまずい気がするぜ……。


 そう思っていたら、レン先輩がふと考え込むような仕草をしてから、思い立ったようにオレに問いかけてきた。


「――そういえばスタン、君は明日、外出する予定があるのか?」

「……あー、その、スカーレットとデートに行くことになって……」


 戸惑いながらも説明すると、レン先輩は意外そうに目を細め、それからふっと笑った。


「なるほど、あの娘とデートか。君もなかなかやるな」

「そんなんじゃないですよ? あっちは恋愛感情ないって言ってますし……」


 オレが慌ててそう言うと、レン先輩の微笑みが少しだけ意味深なものに変わった。


「……彼女は本当に、ただの友人として誘ったのかな?」

「え?」

「いや、何でもない」


 レン先輩はそれ以上何も言わず、ただ じっとオレを見つめる。


 なんか、言葉にしないで察しろみたいな顔してるな……。


「ギブアンドテイクって言ってたし……まあ、そういうことでしょ」

「……ふむ」


 オレが軽く流すと、レン先輩は肩をすくめて、いつもの落ち着いた微笑みを取り戻した。


 そして、ふっと表情を引き締め、真剣な口調で告げる。


「念のために警戒はしておけ。女の子を守るのも紳士としての役割だ」

「……え?」

「……そして、最近は学園の外が危険なことも、覚えておくといい」


 その言葉を最後に、レン先輩は校門をくぐり、外の街へと向かっていった。


 ……なんだよ、妙に意味深なことばっか言って。


 胸の奥に、微かな不安が残る。

 でも――明日はスカーレットとのデートだ。こんなことを考えてても仕方ない。


 オレは軽く頭を振って、その不安を振り払おうとした。


 ……その時だった。

 校門近くの植え込みの陰から、微かな声が耳に届いた。


「……そろそろ、本部に報告する頃合いか」


 静かな声。だが、どこか耳馴染みのある声――ユリウス……?


 ハッとして振り返る。けれど、そこには誰の姿もない。

 ただ、微かに風が草を揺らしただけだった。


「……気のせい、か?」


 胸の奥に残る微かなざわつきを、オレは深呼吸で押し殺した。




「――やっべ! 約束の時間までもう十分しかねえ!?」


 翌朝の起き抜けに時計を確認し、オレは飛び起きた。


 いつもより早く寝たはずなのに、昨日の疲れがたたったのか、完全に寝坊した。

 しかもスカーレットは「絶対に遅刻するな」と念押ししていた。


 ……もし遅れたら、消し炭にされる。


「うおおおおおっ、間に合えぇぇ!!」


 適当に私服に着替え、ベッドから飛び降り、廊下を駆け抜ける。


『フン、人間というのは時間にルーズな生き物よな』


 ジータの冷ややかな声が頭に響く。


「うるせぇ! お前のせいで魔力削られてんだから、むしろお前の責任だぞ!」

『貴様の不摂生が悪いのだ』


 うぐっ、何も言い返せない……。

 そんなジータのツッコミを無視しつつ、オレは校門まで全速力で走った。


「スカーレット、待たせた――おわっ!?」


 オレは勢い余って、スカーレットの目の前で派手にずっこけた。


「スタン!?」


 ズザザザァァァァ!!


 勢いよく転がり、顔を上げた瞬間――目に飛び込んできたのは、純白の……。


「し、白……」


「……は?」


 サァァァァ……と、スカーレットの顔から血の気が引いていく。


 次の瞬間――


「マジ、最っ低ーーーー!!」


 ゴスッ!


「ふぎゅっ!?」


 怒り心頭のスカーレットに、顔面を思いっきり踏みつけられた。


 純白の何かは一瞬の幻だったのかもしれない。

 だが、オレの意識はそれどころじゃなく吹き飛ばされそうになっていた……。


 意識が戻った頃、オレの視界に映り込んだのは、心配そうに覗き込むスカーレットの顔だった。


「ん……あれ、オレ……?」


 ふと、後頭部に感じる柔らかな感触と、ほんのり伝わる温もり。

 さらに、スカーレットがこの距離で見下ろしてるってことは……。


 ――オレ、今、スカーレットに膝枕されてるのか……!?


「うおっ!?」


 飛び起きると、スカーレットは膨れっ面のまま腕を組んでいた。


「やっと気づいたみたいね」

「あ、ああ……」


 ……そうだ、オレはさっきスカーレットの前で派手に転んで――白い――なにかを――


「――いや、なんでもねえっ!」


 あぶねえ、思い出しかけた。


 ちらっとスカーレットを見ると、案の定、鬼の形相でオレを睨みつけていた。

 これ以上の追求は命の危険を感じるので、すぐに思考を切り替えることにした。


 そんなオレを無視して、スカーレットはすっと立ち上がると、くるりと軽やかに回って見せた。


「それで……どう?」

「どうって……何が?」

「はあ!? 決まってるでしょ! アタシの格好よ!!」


 あー、なるほど。おしゃれの感想を聞いてるのか。


 改めてスカーレットの姿を見る。


 純白の薄手ワンピース。


 いつもの活動的な制服姿とは違い、どこか儚げで上品な雰囲気を纏っている。

 普段の勝気な印象とはギャップがあって、控えめに言って――


「似合ってる。普段と違って清楚な女の子って感じだよ――痛てっ!!」


 褒めたのに、思いっきり足を踏まれた。


「一言余計なのよ、アンタは! ……悪かったわね、普段は全然清楚なんかじゃなくって」

「いやいやっ、普段は普段で気品があってキレイだとは思ってたぜ!?」

「……ホントに?」


 スカーレットがじっと上目遣いでオレを見つめる。

 その仕草が妙に可愛くて、思わずドキッとしてしまう。


 スカーレットって、やっぱりすげえ美少女じゃないか……?


「あ、ああ! オレはそんなことでウソついたりしないぜ!?」

「……そっ」


 スカーレットの頬がほんのり赤くなる。


 けど、すぐに「それならいいわ」と誤魔化すように言い、唐突にオレの手をぎゅっと握ってきた。


「さ、デートに行くわよ!」


「ちょっ、手!?」


 オレの戸惑いをよそに、スカーレットはぐいっとオレの腕を引いて歩き出す。


 こうして、まったく予想外の形で、スカーレットとのデートが始まったんだ――。

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