暴れ狂うティラノサウルス
自慢のブレスを防がれ、スカーレットの額に青筋が走る。
「上等じゃない! こうなったらアタシがこいつを討ち取ってやるんだから!! ……ドレイク、行くわよ!」
「グウウウウウウウウウン!!」
スカーレットの闘志に呼応し、ドレイクが主人を乗せたまま急降下してくる。
「ドルルルルル……!」
「おい、お前……!?」
一方、オレの召喚獣――ティラノサウルスは、余裕たっぷりに喉を鳴らし、どっしりと構えていた。
「おいおい、本当にあのレッドドラゴンとやり合うのかよ!?」
「こいつは見物だぜ!」
いつの間にか野次馬のクラスメートたちが群がっていたが、気にする間もなく巨体同士が激突した。
「うおおっ!」
衝撃の余波で、オレと野次馬たちは吹き飛ばされそうになる。
「食らいなさい、赤竜の爪!」
スカーレットの指示で、ドレイクの金色の爪が振り下ろされる――が。
「……受け止めた!?」
ティラノサウルスは、それを真正面から頭で受け止めてしまった。
「レッドドラゴンの爪を防いだだと!?」
「あの爪、ドラゴン種の鱗すら切り裂くって聞いたぞ!?」
こんな状況で解説ありがとうな、野次馬の皆さん。
オレは衝撃で立っているのがやっとだけどな!
「ギィオオオオオオオウウウウウ!!」
ティラノサウルスが咆哮し、強烈な頭突きをドレイクに叩き込む。
「ゴオオオオン!?」
「きゃあーーーっ!!」
吹っ飛ばされるドレイク。背から放り出されるスカーレット。
「スカーレット!」
咄嗟に駆け寄るオレ。
「大丈夫か!?」
「え、ええ……アタシは平気よ……」
どうやら怪我はない。ホッとしたのも束の間――。
スカーレットのスカートが、無防備にめくれていた。
「ピンク……」
「へ? ……っ!!」
思わず口に出した瞬間、スカーレットが顔を真っ赤にしてスカートを押さえる。
「この変態! 胸を揉むだけじゃなく、パンツまで見るなんて!!」
「違う、わざとじゃ――」
「言い訳無用! ……ドレイク!!」
怒りのスカーレットがドレイクを呼び戻す――が、それを許さない影があった。
「グオオエエエエエエエ!!」
ティラノサウルスが一気に間合いを詰め、ドレイクの喉元に喰らいつく。
「ちょっとドレイク! しっかりしなさい!!」
スカーレットの叱咤も虚しく、ドレイクは爪を振るって抵抗するも、ティラノサウルスの顎はさらに深く食い込む。
「ウルルルルル……!」
そして――ドレイクは陽炎のように消滅した。
「ウソ……!?」
スカーレットが力なく膝をつく。
「スカーレットのレッドドラゴンが負けた……!?」
「一体何なんだよ、あの化け物は……!?」
野次馬たちがざわめく中、ティラノサウルスの視線が今度は彼らに向いた。
「ギィオオオオオオオウウウウウ!!」
「に、逃げろーーーーーー!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うクラスメートたち。
だがティラノサウルスの興奮は冷めやらず、なおも暴れ狂う。
「グオオエエエエエエエ!!」
「おい! どうしたんだよ、お前!」
オレが必死に呼びかけるも、返ってきたのは咆哮による吹っ飛ばしだった。
「うわっ!!」
転がるオレ。
――次に狙われたのは、腰を抜かしているスカーレットだった。
「イヤ……っ、来ないでえええええええ!!」
「スカーレットーーーーーー!!」
ティラノサウルスが歩み寄る。
オレは――半ば無意識に、それを遮った。
「あんた……!?」
「おい、お前! もう戦いは終わったんだ、……大人しくしろぉ!!」
震える足を踏ん張り、叫ぶ。
ティラノサウルスが、ゆっくりと顔を近づけた。
猛烈な鼻息が吹きかかる。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「ほら、契約だ! ティラノサウルス!!」
オレがその名を叫ぶと――ティラノサウルスの声が、頭の中に直接響いた。
『ほう、この我を前にして虚勢を張るか……面白い』
意外にも、その声はどこか女性的だった。
驚きつつも、オレは契約の呪文を唱える。
「我、汝の力を望む。古の暴君よ、我に仕えよ!」
右手に、契約の証が刻まれる。
「契約に成功したんだ……!」
思わず膝をつくオレ。
右手に浮かぶ紋章――ティラノサウルスの横顔。
オレにもついに、相棒ができたんだ……!
感慨に浸るオレの肩を、後ろからチョイチョイと引く手があった。
顔を赤らめ、モジモジするスカーレットだった。
「スタン、だったわね。……助けてくれたのよね?」
「まあ、そうなるかな」
すると、スカーレットは消え入るような声で――。
「……ありがとう」
「それはどーも」
……あれ? スカーレット、結構可愛い……?
ドキドキしていると、彼女が拳を突き出してきた。
「今回は負けたわ。だけど次は負けないから!」
「お、おう」
拳を合わせるオレ。
ーーそのとき、背後からぼそりと声がした。
「……あれが古の召喚獣か。まさか、本当に実在したとはな」
ん、この声は……?
オレが振り向くと、銀髪の男子クラスメートがそそくさと目をそらす。
あいつ、ユリウスだったな。
普段は口数も少なく、目立つタイプじゃないけど……何か、ただの興味って感じでもなかった気がする。
オレの召喚獣を見て、なぜかどこか嬉しそうにも見えたのは――気のせいだろうか。
――そんなことを気にしたのも束の間。
授業中に派手にやらかしたオレとスカーレットは、実技の先生にこってり絞られることとなった。
『やれやれだな』
「……お前のせいだからな? ティラノサウルス」