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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
ティラノサウルス召喚!
16/30

暴走

 ある日の授業中、オレは実験室でジータを召喚し、魔力制御の訓練をしていた。


「ギギギ……!」


 ジータの荒々しい魔力は相変わらずで、オレは紋章の刻まれた手で必死に押さえ込んでいた。

 ほんの少しの気の緩みで、魔力が暴れ出しそうな感覚が手のひらに伝わってくる。


「ふーむ……」


 魔道具のメーターを覗き込んでいたラホール先生が、眉をひそめた。


「ラホール先生、どうでしょうか……?」

「うむ、キミの魔力制御は不安定すぎる。少しの乱れで魔力が暴走する可能性が高いな」


 暴走、か……。ジータの力が制御不能になったら、一体どうなるか。考えただけでゾッとする。


 その時――一瞬、気が緩んだ。


「うっ!?」


「ギャアアアアオ!!」


 紫のオーラがジータの体を包み、突如として周囲の魔道具がバチバチと火花を散らし始める。


「な、何だ!?」


 クラスメートたちが騒然とする中、次の瞬間――。


 バシュッ!!


 学園中の魔力灯が、一斉に落ちた。


「魔力灯が落ちた!?」


「おい、真っ暗だぞ!」


「ラホール先生、何が起こったんですか!?」


 暗闇の中、クラスメートたちが不安げに声を上げる。


「キミとジータの魔力の乱れが、学園全体の魔力循環に影響を及ぼした可能性が高い……」


 ラホール先生の声が響く。


 オ、オレのせいなのか……?


 動揺するオレの腕に、突然何かがしがみついてきた。


「きゃあっ!?」


 柔らかくて、温かい感触。さらに、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐる。


「な、スカーレット!?」


「な、何よ……!? こういう時はそばにいた方が……安全じゃない……?」


 声が震えてる。こんなに密着してきて、本人は無自覚なのか?


「いや、それはいいけど……当たってるぞ」


「~~~~っ!?」


 暗闇の中で、スカーレットの気配が一瞬ビクリと跳ねる。


「ち、違うのよ!? これは……その……不可抗力で!」


 スカーレットのしがみつく力がさらに強くなり、ますます柔らかい感触が……いや、違う、今はそれどころじゃない!


 その時――


 ドォン!!


「きゃっ!」


 大きな衝撃音が響き、スカーレットが再びしがみつく。


「ラホール先生! 校内のゴーレムが暴走しています!」


「何だと!?」


 職員の叫び声に、クラス全体が凍りつく。


「ゴーレムが!? どうしてこんなことに……!?」


「ま、まさかスタンの魔力暴走が……?」


「こ、こっちに来るんじゃ……!?」


 オレのせいで、学園中の魔力制御が乱れたのか!?


「ラホール先生! オレ、行ってきます!」


「待て、スタン・レクシー君! 無闇に動くのは……」


 ――行ってしまったか。


 ラホール先生の制止を振り切り、オレは暗闇の中を駆け出した。


「ジータ、行くぞ!」

「ギャオオッ!」


 小柄なティラノサウルスのジータが力強く吠え、オレの隣を走る。


「ちょっと、スタン! 待ちなさいよ!」


 スカーレットの声が背後から飛んできた。


「オレらのせいでこんなことになったんだ! オレがなんとかしねぇと!」


「スタン……。ったく、しょうがないわね!」


 スカーレットがオレの手をグッと握る。


「スカーレット?」


「アンタだけじゃ不安なのよ! だからアタシも行く!」


「スカーレット……」


「か、勘違いしないでよ!? 緊急事態だからよ!!」


「……ああ!」


 オレたちは校庭に向かって全速力で駆ける。そこには――


 巨大なゴーレムが十体近く、校舎の影に蠢いていた。


「ゴーレムがあんなにたくさん……!」

「あいつら全部が暴れだしたら、学園がとんでもないことになる!!」


 オレたちは校庭へ駆け込み、巨大なゴーレムたちを目の当たりにした。

 その体躯はオレたちの三倍以上。まるで石の巨人がズラリと並んでいるようだった。


「ゴルルル……」


 こちらに気づいたゴーレムの眼光が、不気味な赤い光を帯びる。


「ゴルルオオオオオオ!!」


 十体のゴーレムが一斉に腕を掲げ、地響きを立てて襲いかかってくる!


「来るぞ!?」


「こうなったら、全部ぶっ潰すだけよ! ――我、汝を呼び求む。業火の息吹を操る赤竜よ、顕現せよ!」


 スカーレットの詠唱が響き、展開した赤い魔法陣からレッドドラゴンのドレイクが姿を現す。


「グウウウウウウウウン!!」


「スタン! アンタもジータに命令するのよ!」


「お、おう! ――ジータ!」


「ギャーオ!!」

『あいつらを倒してしまっていいんだな?』


 余裕の口ぶりでうそぶくジータを、オレはゴーレムたちに向かわせる。


「ギャーオ!!」


 ジータが突進し、ゴーレムの腕に鋭い牙を突き立てようとする――が。


 ガキンッ!


「ギャウウ!?」


 ジータの噛みつきが、まるで通じない。石の肌が硬すぎるのか、それとも……!


「ゴルルオオオオオオ!!」


 次の瞬間、ゴーレムが豪腕を振り下ろした。


「わわっ!?」


 オレはとっさにジータを抱え込み、側転するように回避。

 直後、ゴーレムの拳が地面に叩きつけられ、校庭の土を深々と抉った。


「すっげえパワーだなー、おい!」


「スタン! ゴーレムの弱点は右胸の紋様よ! ――ドレイク、そこを狙ってぶっ潰しなさい!」

「ゴオオオオオオン!!」


 スカーレットの指示に応え、ドレイクが猛然と突進する。

 狙いすました一撃が、ゴーレムの右胸を貫いた。


「ゴルル……!」


 紋様を破壊されたゴーレムは、赤い光を失い、轟音とともに土くれへと崩れ落ちた。


「やった!」

「スタンも授業で習ったはずよ!」

「そうだったっけ……?」

「んもー、スタンってば……」


 スカーレットの呆れた声が聞こえるが、今はそれどころじゃない。


 弱点さえ分かれば、勝ち目はある!


「ジータ! ゴーレムの右胸の紋様を狙え!」

『若輩の分際で我に命令するな!』


 悪態をつきながらも、ジータが跳躍してゴーレムの胸に噛みつこうとする――だが。


「クゴゴゴ……!」


 牙が通らない!


「なんだってんだよ……!?」

「ゴーレムは土の密度を自在に変えられるのよ! 攻撃が通じにくくなってるのかも!」

「くそっ、なら――」


 オレは即座に判断し、右手を高く掲げる。


「古の暴君よ、破壊の刃となれ!」


 詠唱に応じ、ジータの姿が片手持ちの斧へと変化する。


「行くぞ、ジータ!」


 全身の魔力を解放し、オレは跳躍する。狙うはゴーレムの胸元――紋様の刻まれた急所!


「――暴君破砕牙(ティラノバイト)!!」


 紫色の魔力が斧に宿り、オレの渾身の一撃がゴーレムを捕らえた。


ズガァン!!


「ゴルルル……!」


 紋様を破壊されたゴーレムは、呻くように揺らぎ――


 崩れ落ちる。


「おっしゃあ!」


「――スターーーーン!!」


 スカーレットの悲痛な叫びが、オレの背筋を凍らせた。


 気づけば、オレは巨大なゴーレム四体に完全に包囲されていた。


「ゴルルル……!」


「へ?」


 その瞬間、背筋に戦慄が走る。


 ――囲まれている。逃げ場がない。


 たとえ一体なら何とかできても、四体同時に襲われたら……。


「や、やべえ……!」


 今、攻撃されたら間違いなくオレは死ぬ――。


「ゴルルオオオオオオ!!」


 咆哮と共に、四体のゴーレムが豪腕を振り下ろす。


 巨大な石の拳が、まるで四本の隕石のように振り下ろされるのを見て、オレは反射的に目をつぶった。


 ――終わった。


 そう思った、その刹那――。


「――星降る神光ディヴァイン・スターマイン!!」


 どこからか届いた呪文の詠唱。


 直後、天が裂けるように無数の光の矢が降り注いだ。


「ゴルルオオオオオオ!?」


 夜空を埋め尽くすほどの輝きが、無数の神の槍となってゴーレムたちの急所を貫く。


 轟音と共に、包囲していたゴーレムたちは次々と砕け散り――、瞬時に土くれへと還った。


 辺りに漂う光の残滓が、まるで降星の余韻のように揺らめく。


「……助かったのか?」


 土煙が晴れた頃、オレはゆっくりと顔を上げた。


 そこに立っていたのは、とんがり帽子をかぶり、魔法の杖を掲げた紫髪の少女だった。


「大丈夫ですか?」


 涼やかな声が響く。


 オレの命を救ったのは――魔術学科の天才、イリヤだった。

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