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召喚無双の最強暴君(ティラノサウルス)  作者: 月光壁虎
ティラノサウルス召喚!
15/43

対談

 レン先輩に勝ってからというもの、オレはなんだか学内で注目される存在になっていた。


「見て、あいつ、生徒会長に土をつけた一年生よ」

「しかも、生徒会長に不埒な真似をしたって話……」

「あいつ、淫獣だわ……!」


 ……その割には、耳に入るのが陰口ばかりってのは腑に落ちないけどな。


 確かにオレはレン先輩に勝った。だが、その過程で誤って"アレ"をしてしまったのがまずかったらしい。  

 生徒会長に勝った英雄のはずが、学園の一部では"不埒者"扱い。どんな冗談だよ。


 そんなオレの前に、ひょっこりと歩み寄ってきたのはスカーレットだった。


「アンタも大変ね」

「全くだよ、スカーレット。勝ったオレがなんで陰口叩かれなきゃいけねえんだ?」

「さあねっ。自分の胸に手を当てて考えてみなさい」


 スカーレットはそっけない態度でそっぽを向く。


 最近ずっとこんな調子だ。

 前はもっとストレートに感情をぶつけてくる奴だったのに、最近は微妙に距離を取られてる気がする。

 いや、もしかして、これは"意識して"のことなのか?


 そんなことを考えていると、不意に凛とした声がオレを呼んだ。


「やあ、スタン」

「あっ、レン先輩。おはようございます」


 オレが頭をペコリと下げると、レン先輩は穏やかな微笑みを浮かべた。


「朝からいい返事だ。生徒会の皆にも見習ってほしいくらいだ」

「そ、そうですかね……? ところで、レン先輩、こんなところで何の用ですか?」


 オレがキョトンとしていると、レン先輩は手を差し出し、さらりと提案をしてきた。


「君と話したいことがあるんだ。今日の昼、食堂のテラス席で待ち合わせできるか?」

「はい。オレはいいですけど……」


 と、その返事をした直後、周囲の囁きが耳に入る。


「――見て、あいつ、生徒会長を籠絡してるわよ?」

「しかも、クラスの美少女を侍らせてるって噂じゃない?」

「見境なさすぎて引くわ~」


 ……おい、ちょっと待て。話がどんどんおかしな方向に行ってないか?


「最近こんな調子なんですよね……。オレ、何か悪いことしちゃったんでしょうか?」


 オレが肩を落として愚痴ると、レン先輩は少しだけ苦笑しつつ、毅然とした声で言った。


「気にする必要はないさ。スタンは何も悪くなんてない。私が個人的に君に興味があるだけだからな」


 その言葉に、胸のつかえがすっと消える気がした。やっぱりレン先輩は懐が広い人だ。


「それでは、またお昼に待っているぞ」


 一つに結んだ黒髪を翻し、颯爽と踵を返して去るレン先輩。


 その背中を、オレは憧れの眼差しで見送った。


「やっぱレン先輩って心の広い人だよな~、尊敬するぜ」


 ぼそっと呟いた瞬間、隣でスカーレットが思い切りオレの足を踏んできた。


「痛っ! いきなり何すんだよ、スカーレット!?」

「ふんっ、別に!」


 またしても膨れ面になり、プイッとそっぽを向くスカーレット。


 相変わらず、何を考えてるのか分からねーな……。



 午前の授業を終えたオレは、レン先輩が待つ食堂のテラス席へと足を運んだ。

 もちろん、いつもの牛乳数本も忘れずにだ。


 テラス席に向かうと、すでにレン先輩が席に着いており、こちらに気さくに手を振る。


「やあ、待ってたよ、スタン」

「レン先輩、お待たせしてすみません」


 オレが軽く謝ると、レン先輩は涼やかな微笑みを浮かべた。


「気にすることはないさ。私も今来たところだ」

「そうでしたか。それならよかったです」


 レン先輩と向かい合うように座ったオレは、早速瓶詰めの牛乳を取り出し、一気に飲み干す。


「プハーっ!」


 喉を鳴らして飲む様子に、レン先輩がくすっと笑う。


「気持ちのいい飲みっぷりだな。牛乳が好きなのか?」

「いや~、オレ、背が低いですからね……。カルシウム補給ですよ」

「はははっ、今のままでも十分可愛いと思うが?」

「男子に可愛いって、それ褒め言葉にならないですから!」


 とはいえ、レン先輩にそう言われて、悪い気はしなかったのは内緒だ。


「それで、レン先輩。オレに話って何なんですか?」

「それなんだがな……」


 と、レン先輩が切り出そうとした、その時だった。


「……いるのだろう?」


 レン先輩がふと視線をオレの背後へ向ける。


「え?」


 何のことかと振り返ると、物陰からそそくさと姿を現した二人の影。


「スカーレット、シルヴィア!? どうしてここに!?」


 突然現れた二人に驚くオレをよそに、シルヴィアが余裕の笑みを浮かべる。


「おほほっ、スカーレットがどうしても気になると申しますので……」

「はあっ!? 偵察しに行こうって言い出したのはアンタじゃない!!」


 すかさずシルヴィアに突っかかるスカーレット。


 オレは思わず頭を抱えそうになった。


 いや、なんでそんな茶番をしてるんだよ……?


 そんな二人を見ても、レン先輩は落ち着いたものだった。


「良かったら君たちも一緒にするといい。歓迎するぞ」

「ほ、本当でして!? そ、それではお言葉に甘えて……」


 レン先輩の寛容な態度に、シルヴィアがぱっと顔を輝かせる。


 一方、スカーレットは居心地悪そうに腕を組む。


「なんでアタシまで……」

「あら、嫌ならあなただけでも帰ってよろしいですわよ、スカーレット」

「はぁ!? そんなわけないじゃないの!」


 嫌味ったらしく言うシルヴィアに、すかさず噛みつくスカーレット。


 レン先輩を交えた昼食会は、どうやら波乱の予感しかしない――。


「さて、本題に入ろう。スタン、先日は見事な戦いぶりだった」

「いやいや、それほどでもないですよ、レン先輩。あと一歩間違っていたら、負けていたのはオレの方ですから」


「――分かってるじゃないの、スタン」

「スカーレットは黙ってろっ」


 横から口を挟んだスカーレットを軽く制すると、レン先輩はじっとオレを見つめる。


「君ほどの身体能力と反応速度があれば、剣士学科……いや、他の戦闘系学科でもトップを狙えたはずだ。なぜ、召喚学科を選んだ?」


 その問いかけには、確かな関心が込められていた。


 レン先輩も知っているのだろう。

 オレが召喚すらまともにできなかったことを。


 だけど、オレには召喚学科に入る理由があったんだ。


「……アリア・レクシー。レン先輩も知っていますよね」

「――ああ。一流の竜騎士として、今なお王国で活躍しているお方だろう」


 レン先輩の瞳が鋭くなる。


「……まさかっ」

「……ああ。オレの姉ちゃんなんだよ」


 その瞬間、スカーレットがガタリと立ち上がった。


「ちょっと待ってよ、スタン! アンタなんかが、あのアリア様と姉弟なわけ――!」


 驚愕のあまり、言葉を詰まらせるスカーレット。


 シルヴィアがすかさずフォローに入る。


「落ち着きなさいまし、スカーレット。家名が同じですことよ」

「言われてみれば……確かに、そうね……!」


 シルヴィアの言葉で納得したのか、スカーレットは静かに腰を下ろした。


 オレは、ゆっくりと続ける。


「アリア――姉ちゃんは、オレの憧れだった。どんな時でも前を向いて、強く、優しく……そして、誰よりも強大なドラゴンを従えていた」


 幼い頃、彼女が天を翔ける姿を見て、心が震えた。


 その背に乗り、共に戦場を駆ける未来を夢見た。


「だから、オレも同じ竜騎士になりたかった。それが叶うのは、この学園の召喚学科しかなかったんだ」


 レン先輩は静かに耳を傾け、微笑を浮かべた。


「なるほど……そういうことか」

「ま、ドラゴンっぽいジータと契約できてラッキーだったけどな」


『ふんっ、あのちんけなトカゲ風情と一緒にするでない』


 頭の中に響くジータの不平。


 ……相変わらず可愛げがねえな。


「そうか。君のことをまた少し知れて、私は嬉しいよ」


 レン先輩は、穏やかに手を差し出した。


「これからもよろしく頼む」


 オレもその手をしっかりと握り返す。


「こちらこそ、よろしくお願いします、レン先輩」

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