生徒会長の一声
白いリボンで一つに結んだ長く艶やかな黒髪をなびかせながら、生徒会長のレン・オーガスト先輩がスカーレットとシルヴィアの間に割って入る。
「スカーレット・フレアー! シルヴィア・スノウ! 君たちはやりすぎだ!」
鋭い一喝に、スカーレットとシルヴィアは一瞬押し黙る。
有無を言わせぬ気迫――さすがは生徒会長だぜ……!
だが、沈黙を破ったのはスカーレットだった。
「邪魔しないでよ、生徒会長! まだ決闘は終わってないんだから!」
「スカーレットの言う通りですわ! どちらが強いか、ハッキリさせるところでしたのに!」
シルヴィアも抗議するが、レン・オーガスト先輩は一歩も引かない。
「それは周りを巻き込んでまでやることか? よく見ろ!」
指し示された校庭を見て、思わず息をのむ。
そこには、戦いの余波で荒れ果てた光景が広がっていた。
焦げ跡だらけの地面、吹き飛ばされた植え込み、逃げ遅れた生徒たちの呆然とした表情――。
「これは……」
さすがのスカーレットとシルヴィアも、言葉を失ったようだった。
「始末書を書いてもらう。生徒会室に来い」
「……分かったわ」
「……分かりましたわ」
しぶしぶ従おうとする二人。だが、オレはいてもたってもいられず、思わず声を上げる。
「待ってください、生徒会長!」
レン・オーガスト先輩の冷静な視線が、オレに向けられる。
「何だ?」
「こうなったのは、審判として途中で止めなかったオレの責任なんです! 二人だけを罰するのはフェアじゃありません!」
「「スタン(くん)……」」
スカーレットとシルヴィアが驚いたようにオレを見る。
だが、レン・オーガスト先輩は冷徹に言い放った。
「それならば君も来い。始末書を書いてもらおうか」
「……分かりました」
こうして、オレも二人とともに生徒会室へと向かうことになった。
「……どうしてスタンがアタシたちを庇うのよ? アンタはただ審判をしてただけじゃない」
廊下を歩きながら、スカーレットが小声で問いかけてくる。
オレはうつむき、ぽつりと答えた。
「だからこそだよ。オレの一声で、お前らを止められたはずだった。でも……オレには、それができなかった」
「スタン、アンタ……」
スカーレットが珍しく、言葉を詰まらせる。
そんなやりとりを交わしながら、生徒会室へと到着し、オレたちは大人しく始末書を書く羽目になった。
しばらくして、ようやく書き終わり、退室しようとしたところで、レン・オーガスト先輩がオレを呼び止める。
「スタン・レクシーだったな。君だけ少し残ってくれないか?」
「あ、はい……」
何の用だ?
少し緊張しながら、オレは生徒会長の前に立つ。
「君も確か、召喚学科の生徒だったな」
「そんなことまで知ってるんですね」
「生徒会長だから生徒全員の顔と名前を知っていて当然……というのは冗談だ。実際は君が最近何かと話題に上るから知っていたんだよ」
「そうですか、あはは……」
どうやらオレは生徒会でも悪目立ちしていたらしい。
なんか恥ずかしいぜ……。
「それで、オレに何の用ですか?」
「――レン、私のことはそう呼んでくれて構わない」
「分かりました、レン先輩」
オレがそう呼ぶと、レン先輩はなぜか満足げに鼻を鳴らした。
「本題に入ろう、スタン。近頃、生徒会でも君が話題になっていると言ったな。なんでも未知の召喚獣と契約した、と」
鋭い視線を向けるレン先輩に、オレは背筋がゾクッとする。
そんなことまで知ってるのかよ……。
「それで私は興味が出たんだ。君の実力がどれほどのものかと」
「オレのですか? ジータじゃなくて?」
「ああ。未知の召喚獣を従えるということは、少なからず何かを持っているということに他ならない」
「いやいや、買いかぶりすぎですよレン先輩。オレはまだジータと心を通わせられてないですから……」
オレが謙遜するも、レン先輩は手を組んで真剣な表情で告げる。
「いいや、それは君がまだ自覚していないだけだ。スタン、君と手合わせをしたい」
「手合わせ、ですか」
なんだろう、この流れ、つい最近も見たぞ?
「……ジータはともかく、オレなんかとやってもつまらないですよ」
「そんなことはないさ。召喚者は憑依武装が使えるだろう?」
「そういえばそうでしたね。オレ、最近になって召喚に成功したばかりだからすっかり忘れてました」
憑依武装——それは召喚獣をその身にまとう術だ。
「その様子では、やり方も身についていないようだな。すぐにとは言わない、明日返事を待っているぞ」
「……分かりました、失礼しました」
生徒会室を退室したオレは、その足で午後の授業に戻る。
だけど、その後オレはずっと上の空で、気がつくと今日の授業は終わっていた。
「よう、スタン!」
「おわっ!? いきなり何すんだよっ」
いきなり肩を叩いてきたのは、クラスメートのダリオだ。
「スタン、おまえどうしちまったんだよ? 午後からずっと上の空じゃねえか」
「いやー、実はな……」
オレがレン先輩のことを話すと、ダリオは目を見開いて驚く。
「おいおい! それってすげーじゃん!!」
「そうなのか!?」
「ああ! 生徒会長っていったら、剣士学科でもトップクラスの成績を誇るって話だぜ? そんな相手と手合わせできるなんて、羨ましいぜ、ちくしょー!」
「そっか……。なあダリオ、悪いんだけど憑依武装のやり方教えてくんない?」
オレが手を合わせて頼み込むと、ダリオは微妙な顔をする。
「……なんだよ?」
「いやー、俺が教えてやってもいいんだけどな……ほら」
ダリオが親指で差した方向に、席に着いているスカーレットが何やらウズウズした様子でいた。
「スカーレット?」
「な、何よ!? 憑依武装くらいアタシが教えてあげてもいいって言ってるの!」
「ホントか!?」
オレが食い気味に身を乗り出したら、スカーレットは腕を組んでこう言う。
「ええ! そいつよりもアタシの方が適任だと思うの。……べ、別に深い意味はないわよっ! ただ、アンタには生徒会長だろうと負けてほしくないだけなんだから!」
「はいはい。ありがとな、スカーレット」
「ふんっ、だ!」
こうしてオレはスカーレットから憑依武装を教えてもらえることになったんだ。