氷と火
そう告げたシルヴィアの顔は、とても真剣だった。
「強くなるって……やっぱりスカーレットのことを意識してんのか?」
オレが指摘すると、シルヴィアはふっと小さく息をついてうなずく。
「やはりスタンくんにはお見通しなのですね」
「なあ、シルヴィア。昔はスカーレットと仲が良かったんだよな? スカーレットから聞いたぜ」
「ええ。あの頃は良かったですわ。スカーレットも素直で、一緒にいて楽しかった……」
「……やっぱスカーレットがレッドドラゴンを召喚した頃か? それで変わっちまったのは」
オレの確認に、シルヴィアは重々しくうなずいた。
「ええ。あの頃からスカーレットは変わってしまいましたわ。自分が最強だと思い込んで、傲慢に振る舞うようになった。……わたくしのワイズも侮辱されましたの」
そう語るシルヴィアは、スカートの裾をぎゅっと握りしめ、悔しそうに顔を歪める。
「だから、わたくしはスカーレットの鼻を明かすために、日々努力して強くなろうとしましたわ。でも、それも無駄になりそうですの……」
そう言ってシルヴィアは、オレをじっと見つめる。
「……オレが先にスカーレットのレッドドラゴンを倒したからか?」
「そうですわ。それでスカーレットの偉そうな鼻も折れたことでしょう。……いい気味だと思うと同時に、……少し、残念にも思いましたわ」
「なんか、すまねえな……」
オレが謝ると、シルヴィアは慌てたように手を振った。
「いえいえ! スタンくんは何も悪くありませんことよ!? ……ただ、今までの目標を見失ってしまったみたいで。それで、こうしてがむしゃらに強くなろうとしているのですの」
「そうだったのか……」
シルヴィアもいろいろと思い悩んでるんだな……。
「……なあ、シルヴィア。スカーレットと仲直りする気はないか?」
「仲直り、ですの?」
シルヴィアがキョトンとした顔をする。
オレは説明を続けた。
「オレ知ってるんだよ。スカーレットも今は反省してるみたいだぜ?」
「スカーレットが?」
「ああ。ジータに負けて変わったのは、お前だけじゃないさ、シルヴィア」
オレがニカッと笑って見せると、シルヴィアの表情がふっと和らぎ、穏やかな微笑みを浮かべた。
「そうでしたの……。考えてみますわ」
「ああ、前向きになっ。じゃあな、シルヴィア」
そう告げて別れたオレは、すっかり夕焼けに染まった空を見上げる。
「仲直り、できるといいな。あの二人」
『なぜそこまであの小娘たちに肩入れするのだ?』
ジータが近寄ってきて、オレを見上げる。オレは肩をすくめた。
「さあ、なんでだろうな。……けど、これも何かの縁だから放っておけないのかもしれねえ」
『ふんっ、そういうものか』
相変わらず偉そうに鼻を鳴らすジータを見て、オレも思う。
――オレもジータと心を通わせる日が来たりするんかな?
そんなことを考えながら、オレは男子寮へと戻った。
✳
そして翌日の昼下がり。オレはシルヴィアとスカーレットの二人に校庭へ呼び出された。
「あのー、二人とも? この雰囲気は一体……?」
そこにいた二人は、笑顔でありつつも、背後から凄みのあるオーラを放っていた。
オレ、何かやっちゃいました?
「スタン!」
「は、はいいっ!!」
スカーレットに名指しされ、オレは反射的に正座する。
「その……感謝してるわ。アタシのこと話してくれたの、スタンでしょ?」
「はい?」
オレがキョトンとしていると、スカーレットはムキになって言った。
「だーかーらぁ! アタシが仲直りしたいって、シルヴィアに伝えてくれたんでしょ!?」
「あー、そっちか」
合点がいって手をポンと叩いたら、シルヴィアもまた凄みのある笑顔を向ける。
「スタンくんのおかげで、こうして話し合う機会に恵まれました。感謝いたしますわ」
「それはどうもっ」
なんだ、二人とも仲直りできたんじゃん。
「「――それはそれとしてっ」」
改まった二人が、同時にお互いを指差す。
「アタシと!」
「わたくしと!」
「勝負よ!!」
「勝負ですわ!!」
……宣戦布告されました。
「仲直りしたんじゃねえの?」
「それとこれとは別よ!」
「この際どっちが強いか、ハッキリさせますわ!」
二人はバチバチと火花を散らす。
あー、どっちもやる気満々だな……。
「お、何かやってんじゃん!」
「何だ何だ!?」
一学年の実力派美少女二人がにらみ合っているとあって、どこからともなくギャラリーが集まってきた。
「それではいくわよ!」
「いきますわ!」
二人は右手をかざし、紋章が光る。詠唱が始まった。
「「我、汝を呼び求む――」」
「業火の息吹を操る赤竜よ、顕現せよ!」
「白き翼はためく雪原の賢者よ、顕現せよ!」
赤と青の魔法陣が展開し、そこから威風堂々たるレッドドラゴンのドレイクと、厳粛端麗なる雪梟のワイズが姿を現す。
「グウウウウウウウウン!!」
「ポッホーウ!!」