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短編集

才能

作者: 豆苗4


 才能がある者が才能の存在を認めないことは、才能がない者が才能の不在を認めることよりもずっと残酷だ。才能のない者に対する礼節を著しく欠いている。才能の無さを自覚することは確かに残酷であるが、そこに至るまでの苦闘の日々を思い浮かべるとある種の清々しさすら覚えるだろう。才能を認めないのはむしろ見苦しい。何をもってそのような言動をしているのか。その背景は容易に想像つくだろうが、それでも溢れんばかりの才を汚すような振る舞いは断じて慎むべきである。無数の屍の上に立ってまでなお更なる高みを目指すというのだろうか。踏みしめる大地などもう足元にしか残っていないというのに。恨めしそうな顔で天を見上げるのはよせ。転げ落ちる心配などないのだ。堂々と胸を張れ。誰もあなたの道ゆきに疑義を唱えることなどしないのだ。ありもしない影に怯えることはない。潤沢な才が枯渇する前に懸命なる判断を。


 ひとつ言えることがあるとすれば、才能は枯渇する。無限に思えるようなあの才能が。そう確かに枯渇する。あなた自身の敬意なしには。才を認めないということは自分で自分の首を絞めているようなものだ。天碔の才。才能とは天からの贈り物である。才能を認めるということは自身の努力を否定しているように聞こえるかもしれないがそれとこれとは全く違う。完全に別問題だ。どうして一緒くたになることがあろうか。敬意こそがすべての糧。駆動するスイッチ。青白いエネルギー。くれぐれも才に溺れてはならない。多いに越したことはないが少しだけでも構わない。ヒビの入った盃からこぼれる液体を愕然と眺めることになる前に。ほろ苦い後悔で身を滅ぼす前に。さあ。四角いクラッカーに乗せてパクッと食べてしまえ。


 才能は車の燃料に相当する。潤沢な内は、気にもしない。むしろ車の性能だとか燃料の容量だとか才能の優劣をつけることに躍起になっている。そんなことをしなくてもどこまででも走り続けられるのに。喉から手が出るほど欲しい者はごまんといる。燃料さえあれば。どんなにボロボロの車だろうが、車のスピードが遅かろうが、車が凹んでようが、タイヤが一個抜けていようが、道がぬかるんでいようが、エンジンが無かろうがお構いなし。才能とはそういった類のものだ。ない者が思わず羨んでしまうような圧倒的なものなのだ。そしてある日突然枯渇する。これこそが才能が才能たる所以なのだ。


 才能とはモノではない。性質でもない。いわば亡霊のようなもの。そして才能と向き合うのに必要なことは風雪に耐えうる純粋な忍耐、そしてほんのちょっぴりの勇気だ。どうか忘れないで欲しい。才のある者も、そして才のない者も。それらは本当に紙一重なのだから。




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