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夢破れる

少しづつ書いて行きます。

 「我が侯爵家において・・・」


 我が家お抱えの史官何度も聞いた話を受け流す。貴族の生活は堅苦しく、辛いものが多い。帝国唯一の辺境伯と聖俗合わせて7の選帝侯の内一つを兼ねる本家は、格式張った儀礼がとても多いのだ。


 嫡出の4男であり末っ子私出会っても、礼儀作法を確りと学び自らの家の歴史に精通していなければならないのだ。上3人の兄達はみな揃いも揃って優秀である。それに対し私ときたら、一応数学者としての名声をある程度得ているだけであり、特に大きな功績を残していない。一応三圃式農業や四圃式農業の農業書を記したが、三圃式農業ならともかく、四圃式農業は、現実を見れば不可能であることを思い知らされた。


 四圃式農業を行うにあたって最も重要な中耕作物に利用されるカブ導入しようとすると、必然的に大規模栽培を行わなければならない。すると、途端にコストが跳ね上がるのだ。


 カブのような根菜類は利用する部分が地下に存在する。そして、地下部分を生育させなければならないという特性があり、草丈が低いことから雑草に対しても弱い。さらには、穀物より遥かに膨軟で清浄な土地が不可欠となり、そのための犂耕コストが余計に発生する。


 そのコストは、三圃式と四圃式を同じ面積と仮定すると凡そ2:15となり、2倍弱の家畜労働力が必要となる。むろんこの数値は、机上の物であり、土地質などによってこの数値は上下する。


 加えてカブは穀物と違って多数の園芸的な農作業を必要とする。そうした家畜に頼らない農作業のコストも勘案する必要がある。その代表例が除草である。


 穀物であれば春頃から雑草に先んじて成長し、草丈も高いのに対して、カブの生育期は最も気温が高く雑草の繁茂も著しい時期であるので欠かせない作業だ。


 ここで大きな問題となるのが、従来の穀物栽培では必要なかった労働が新たに発生することだ。さらに発生した労働はおおむね7~8月の頃のみ必要になるという点だ。


 7~8月の頃が農閑期かと言えば全然そんなことはない。冬穀のための耕地の犂耕と厩肥の搬出・散布、牧草の刈り入れと搬入、穀物の収穫と、何処からどう見ても農繁期だ。


 このような状況下で中耕作物の作業をやるとなると、長時間労働を行うとか労働者家族の手伝いなどで対応できる範囲を越え、外部から労働力を追加で調達する必要性が生まれるのだ。


 以上、人間の労働力・家畜の労働力の双方の需要が急激に大きくなるのに対して、現在の社会構造ではそれに対応した労働力の供給を行う事が出来ないのだ。現状では、三圃式農業を少しづつ広げて行くのが限界だ。


 このようにつらつら出来ない理由を書き、三圃式農業の導入の可能性を提示したのにお前は何故それをやらない?と疑問に思われただろう。私の生まれた順番を見てほしい、4番目だ。そう、皆さんの想像の通り私に与えられる領地は今の所無いのだ。


 父上が、宗教・後継問題で混乱する帝国の事情に漬け込んで暴れ回りつつ、私の為の領地を確保しているのが現状だ。時々届く手紙によると、父上は3人の兄達を引き連れ帝国西方の各諸侯の領地を荒らしに荒らし、切り取っているらしい。あの4人に襲われている諸侯には憐憫の思いが湧き上がってくる。



 さて、史官の授業が終わった後私はお供を連れて、都市の城壁を潜り抜け、少し離れた場所に立ててある宿舎に向かった。


 この宿舎は、将来領地を得られなかった場合、傭兵団を組織してこの乱世を生き抜こうと考え父上や兄上から資金を引っ張り出し孤児や主君を失った騎士達を集めた者達が住んでいる場所だ。


 「これはアルノルト様、いらっしゃる時は事前に私にお伝え下さいと言ったではないですか!」


 「すまんな、マリウス。暇であったのでふらっと寄ったのだ。許して欲しい。」


 私の姿を見て、真っ先に反応したこのマリウスという騎士は、私の剣術の師匠であり現在、私の私兵団全体に剣術を教えている。齢60を越えてもなお盛んであり、かかってくるものをちぎっては投げを繰り返している。


 彼の格好も甲冑を身に纏い、刃を潰したハルバードを持っていた。どうやら彼らに集団戦について教えていたようだ。


 「マリウス、我が兵団の規律・練度はどうだ?向上しているだろうか?」


 「皆、必死に儂の技術を盗もうと鍛錬を繰り返しております。さらに、人としての礼儀作法を確りと叩き込んでおります。後数ヶ月確りと訓練すればアルノルト様の兵団として何処に出しても恥ずかしくないでしょう。」


 「マリウス、お前には感謝してもしきれない。必ずやお前の活躍に報いよう。」


 「アルノ様、もう隠居の近い老人の娯楽にございます。褒美を貰うようなことはしておりません。」


 まさに、彼は私のような剣術の才能が無かった者には過ぎたる人材だ。このような素晴らしい人材が多くいる環境から離れないといけない可能性があるのは何とも寂しいものだ。


 傭兵団として独立するか、領地を分け与えられて独立するのか、はたまた教会に入るのか色々な道が考えられるが、独立の時までは、この家の資産を十分活用しておきたい。

第1話でノーフォーク農業を否定していく。

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