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エンド・オブ・ソウル  作者: パチロウ大尉
第一章
1/3

プロローグ 「全ての始まり」

気づいたときには、仰向けに倒れ、朦朧としていた。

視界はぼやけて目の前の光景が霞んで見える。

聴覚も狂ってしまったようだ。

キーンという金切音が耳に響き続けている。

体全体が痛みと疲労で悲鳴を上げているのも分かる。

胸のあたりがとりわけ痛む。

呼吸をしようとするたびズキズキと痺れる。

片方の手をなんとか動かし、胸に当ててみる。

瞬間、ドロッとした液体が手に付着する感覚を味わった。

液体に触れた手を顔近くに持って行き、うまく機能しない目でそれの正体を確認する。

どす黒い赤色。

瞬時に理解する。

血だ。

かなりの量の血が出ているようだ。

全身の血の気がゆっくりと引いているのが分かる。

固い地面から振動を感じる。

それは絶え間なく私の背中に刺激を与え続けている。

よく聞くと、金切音に紛れてゴゴゴと重たそうな音が響いている。

あまりよい状態ではないようだ。

自分もその周囲の状況も。

逃げた方が良いことは分かっていた。

だが体が言うことを聞かない。

彼女らは無事だろうか。

ふとそんな事が思い浮かぶ。

だが、その彼女らが具体的に誰のことを指しているのか、分からない。

誰かがいた気がする。

ただ漠然とそう思う。

思い出せない。脳に血液が回っていない。頭が回らない。

ただこれだけははっきりと理解していた。

自分はここで死ぬのだ。

何もできない。

ただ、いつか来るであろうその時を待つしかないのだ。

そんな諦めにも似た感情で私は倒れていた。

突然、気配を感じた。

誰かが近づいてくる。

雑音で満たされているはずの耳に、カツカツという刻みよい音がするりと入り込んでくる。

普通そのような状況であるならば、捉えることのできないような音。

だが、私はそれを確かに聞いた。

先ほど思い浮かんだ彼女らのうちの誰かだろうか。

音が近くで止む。

その人物は私のすぐそばまで来て、立ち止まったようだ。

先ほどまで開くことができていた目も、今ではまぶたを持ち上げることすらままならなくなっていた。


一体誰だ?


そんな考えが浮かぶ中、胸に触れられる感覚があった。

瞬間、胸がじわっと熱くなる。


「―の―た―――で―――――ない」


その人物が何かを話しているのが分かった。

だが、先ほどの不思議な音とは違い、その言葉は雑音によってほとんど打ち消されている。


「――た―の―――る――」


胸の熱が体全体に広がっていく。


「そ――」


その熱はだんだんと温度を上昇させていく。


「――し―ろ――お―――め――」


瞬間、体全体が炎に包まれたかのような感覚に襲われる。


熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いアついアついアツいアツいアツイアツイアツイアツイ


今まで味わったことのないあまりにも不快な感覚から逃れようと、必死に体を動かそうとする。

ピクリとも動かない。まるで石になったかのように。

それでもなんとか術はないかと思考しようとする。

しかし、何かしらの手立てを思いつくほど頭を働かせることはできなかった。

何か、本当に何もないのか。

ない、なにもない。

苦痛だけが満たされていく。意識が遠のく。

体の中からあらゆるものが消えていくように感じる。

脱力感が体を包む。

もう無理だ。

それでも。

目を見開く。

残るすべての力を使って。

その人物の姿を捉えようと。

最後の景色を見定めようと。

消えゆく意識の中で。

その人物を。

見た。







しっかりと見えたのは口元だけ。

()()()()()()()()()()()()()()()()

意識はブツリと途切れた。






-----






次に覚醒したときには、不思議な空間に私はいた。

辺り一面が暗闇に満たされており、何も見えず、何も聞こえない。

先ほどまでいた場所と同じ場所では無いことは明らかだった。


ここはどこだ。


そのような疑問が思い浮かぶのは必然だった。

状況を把握しようと思い、足を一歩踏み出そうとする。足が動かない。

いや、正確には動かそうとした足そのものがあるはずの場所にないようだった。

足がある場所を見ようとする。見ることができない。

目というものが元からなかったかのようだ。

顔に触れようと手を動かそうとする。手が動かない。

そこにあるはずの手はなかった。

ここまで来れば、他のものの状態も容易に想像がつく。

ただ一つを除いてすべてが無くなっていた。

体全体が無くなっていたのだ。

そのただ一つとは何か。

()()だ。

私はただそれだけの状態で暗闇に包まれたこの謎の空間に存在していた。

不思議な感覚だ。

意識のみがその場で浮かんでいるような、そんな感じだ。

まるで…


突然、光を感じる。

目は無いが、確かに感じる。

とても遠いところにそれは突如現われた。

その光に近づこうとする。

まるで夜の街灯に群がる虫のように。反射的に。

それとは逆に本能は光への接近は危険だと叫ぶ。

意思と本能のせめぎ合いに気をとられているうちに、光がこちらに近づいてきていた。

もうすぐそばまで来ている。今更逃れることはできない。

無いはずの手を伸ばす。

光に包み込まれる。

それと同時に意識が少しずつ遠のいていく。

それは先ほどとは違い、とても心地が良いものだった。

夢見心地だった。

そうして私は短い間に二度目の消失を迎えた。









これは、巡り巡る運命を終わらせる物語。


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