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03 眩しくて溶けるだろ!


 私には、2人の幼馴染がいる。

 ロドムとジェンだ。

 私の五歳年上のロドムお兄様は甘いマスクで物腰穏やか。

 タレ目の瞳に、ふわふわの髪。

 よく昔話で登場する白馬の王子様といえば、彼だろう。


 やはりと言うか、期待を裏切らないと言うか、そんな彼から飛び出す言葉は「やぁ、僕の可愛いレディ、今日の服もとても素敵だね。花の妖精みたいだよ」だなんて砂糖で煮詰めてキャンディーをトッピングしたかのような文言ばかりで、非常に恥ずかしい。


 過剰なスキンシップも慣れない。「あ、うぇ、は、はひ」なんて情けない返事をしていつも顔を真っ赤にしてしまうのだ。


 それを見ていつも不機嫌そうに眉を顰めるのがロドムお兄様の弟であるジェンだ。クソがつくほど不快そうな顔である。言ったら殴られるから言わないけど。


「……おい、何を間抜けヅラしている。兄貴は誰にでもああなんだぞ」

「……わかってます〜」



 私より歳が一つ上のジェンは、ロドムお兄様と対照的に冷たい印象を受ける。


 それは見た目のせいもある。


 切れ長の鋭い瞳に、銀の長い髪を一つに縛っていて、淡白な物言いとあまり他人に興味のなさそうな所が氷の王子様、なんて呼ばれている。


 ジェンはツンツンしていて無愛想なのだが、実のところそれが受けているようでお姉様方からの熱い視線はそれはもう山の如し。そこが良い、それが良いとアイドルの様に崇められている。


 そんな熱視線をものともしない事に、私はいつもほんの少しだけ安堵している。


 ツン、と澄ましているが、なんだかんだでいつもそばに居てくれているし、私とは普通にお話ししてくれる。


 ロドムお兄様のドロドロの甘やかしがシャイで内気で内向的な元祖ジャポネーゼな私には刺激が強すぎる。ぽわーとしてしまって、返事もまともにできなくなってしまう。


 対してジェンとだと気兼ねなく話せるので少し楽なのだ。


 ロドムお兄様の甘やかしが恥ずかしくて苦手なのを知ってか、いつも間に挟まって、壁になってくれている。そんなところもなんだか私の事をよくわかってくれている様で、嬉しい。


 まぁ……正直なところ、「あ」とか「う」とか「はへ」とか地獄のような返事をしちゃうので、こいつ大丈夫かよとか哀れに思ってくれているのだろう。

 私としては、嬉しいが。


 これは棚ぼただ。


「おい、やめてやれよ兄貴。こいつをからかうなよ」

「いやぁ、ふふふ、2人とも可愛いね。ツレないジェンも愛しているよ」


 時々こうしてジェンの家へお呼ばれ(勝手に遊びにいっているだけだが)しては、幼馴染の特典を得ているわけでして。

 なんとなく、週に一度は互いの家へ、なんてしっかり決めてもいないのに、不確定な、しかし確信した様な決まりがぼんやりと存在していて、行かなければ来るし、来なければ行く。


 ロドムお兄様の甘々攻撃から守ってくれるこの行動が私は好きだったりする。

 だからと言って、ロドムお兄様の甘やかし攻撃にいつまでも慣れない振りをしているわけではない。毎回パワーアップしてるのでアップデートが追いつかないのだ。


 性格が悪いと言う勿れ。

 こっそりドキドキしているだけなので許してほしい。


 ジェンの背中を見るのは好きだ。

 髪を縛っている束からチラリと見える耳や、ふっくらとした頬がはみ出して見えていたのが、今ではスッキリしてすっかり大人なのだ。

 ふわふわと丸みを帯びていた背中は、大人になるにつれて広く大きくなっていった。


 こんな時間がずっと続けばいいなぁ。

 なんて、贅沢なことを思っていた時期もある。


 でも、私は知ってる。

 

「ごきげんよう……まぁ!なんて可愛らしい光景なの。美しくて素敵……」


「やぁ、エリィよく来たね」


 ロドムお兄様とジェンの家の応接室の入り口が開くと、そこからゆったりとした動作で入ってきたのは、涼やかな美しさを纏った美しい美女。


 それはもう妖精のような素敵な女性。


 まるで氷の精霊のような涼やかさと、本当に人間かと疑いたくなるような透き通る肌。涼やかな目元に、銀に光る髪はピンとまっすぐ床を見ている。


 うっとりするような、美貌はいつ見ても健在だ。


 少し前までは私と同じような髪型と化粧、合わせてくれていたかのような服装だったが、今は随分と趣向が変わったのか、元々こうだったのか、可愛い系よりも綺麗系で上品な装いになった。

 今がまさにエリィお義姉様そのものという感じで私は好きだ。


「エリィお義姉様、ごきげんよう」

「うふふ、久しぶりねロア、それと———」

「……お久しぶりです義姉上」


 チラリ、とジェンを見る。


 見てから、ちょっとだけ後悔した。


 ジェンの涼やかな表情がほんの少し歪む。細やかな変化だが、幼い頃から見てきたのだ。些細な変化も私は見落とさない。


 歪んだ表情を見てズキズキと胸が痛くなる。


 正直すぎる自分の胸がもう少し頑丈になればいいのに。脂肪ばかり溜め込みやすくなった今世の胸はふくよかな分、少々傷つきやすいみたいだ。


 何を隠そう、かなり前に勇気を出して好きなタイプを聞いたらエリィお義姉様だと言ったのだ。


 私の耳はしっかり働いてくれていた。

 そのおかげで決して大きくもないし毛も生えていない心臓に致命的な大きな傷跡がついた。


 ジェンの想い人は、ロドムお兄様の婚約者である、エリィお義姉様なのだ。ロドムお兄様が婚約者だと紹介したその時から、彼の感情を揺さぶり続けているのだ。



 ———うん。やっぱり、あの作戦を決行するしかないんだわ。





03擬態は必須です


「エリィお義姉様、一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」


「ええ、もちろん。私でお役に立つのなら……何かしら?」


 男二人を追い出し、見事エリィお義姉様だけを連れ出す事に成功した私はエリィお義姉様にお願いを持ち出してみた。


 連れ出すのに成功、なんて格好つけてみたが、実はトイレに一緒にお花を摘みに行きませんこと? なんて言って絶対男が来れない様にしただけだ。

 シンプルな作戦。

 なんの知恵もなかった。


 トイレに隣接する化粧室の中、花を積むわけでもなく二人で向かい合いソファに座る。


「私、エリィお義姉様みたいに美しくなりたいんです……!」


「まぁ……」


 エリィお義姉様は一瞬とても嬉しそうに頬を薄紅色に染めて目を輝かせたが、瞬時に心配そうな表情に変わっていく。


「ロア、それは誰のために?」

「!」


 誰のため、その言葉に驚いて目を見開くと、エリィお義姉様は全てを見通しているかの様に、優しげな瞳で私を見ていた。

 どうしよう。

 素直に言ってしまうべきなのか。


 ジェンはエリィお義姉様が好きなんですって?

 だから、少しでも自分が彼の婚約者として好いてもらえないかとお義姉様になりたいって? 言うの?本人の前で?


 わざわざそんな事を言って、私は自分の首を絞めるの?


 さっきまで勇ましかった私の中の勇者はグンと体を縮こめて、今や蟻よりも小さくなってしまった。

「エリィお義姉様……私……」


「責めてはいないのよ? 嬉しいわ、とっても! 私を美しいと言ってくれるなんて。私は最近まで自分に自信なんてこれっぽちもなかったんだから」


 ほんの少し、遠くを見る様に視線が浮遊し、瞼が伏せられた。

 白い肌に影が落ちる。

 伏せられた瞳がゆらりと思い出を懐かしむ様に揺れた。

 エリィお義姉様がそんな事を……?

 とても信じられない。


「ええ!? エリィお義姉様はとっても美しいです!」


「ふふ、ありがとう。とっても嬉しいわ……あなたがやりたい事、わかるわ」


「え!?」


 私もしかしてさっきから「え?」ってしか言ってないんじゃないだろうか。

 でもそれくらい驚き続けている。


「でも、なんだか勘違いがあると思うの……それでも試したいのね?」


「……はい、きっと……きっとそうすれば」


 きっとジェンは振り向いてくれる。

 代替品でもいい。

 少しでも私を見てくれる時間があれば、お姉様を褒める時みたいに、ほんの少しだけでもそれを分けてくれれば。私はきっと満足だ。


 そんな思い出が少しでもあれば、きっとこの先乗り越えられる。たった一度でいい。彼の理想の姿になりたい。


 それでも駄目なら、潔く身を引くのだ。

 お義姉様の様な美しい女性とジェンが幸せになる事を祈って、私から婚約者の席を空ける。


 それがきっと、私にとってもジェンにとっても素晴らしい選択に違いないのだから。


 そのためのチャレンジ。迷いはない。


「お義姉様! ご指導よろしくお願いします!」



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