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02 IT革命よ、おきてくれ




 私には、前世の記憶がある。

 元日本人だった私は、現在どうやら転生とやらをしたようで、随分時間が逆行した世界に生まれた。


 前世日本人だったことは、今世のロアと言う名前を貰った時点からしっかりバッチリ覚えている。


 スマホもねぇ、ネットもねぇ。おまけにテレビもコンビニもねぇときている。

 エアコンという最強の環境設備があった時代を生きていた私にはこの世界の空調はマジやばいし、なんなら服も年中ジャージで過ごしていた私には少し……いや、だいぶ厳しい。


 最初は「うわーかっわいい〜、漫画の世界だー!」と大興奮したが、布は多いし、重いし暑い。歩きにくい。プリティーすぎる。


 中流の少し上に生まれたようで、いわゆる御令嬢というやつだ。


 服装。

 こればっかりは周囲に「耐えなさい」と言われた。そしてしっかり周囲に合わせる国民性がこびりついている私。

 反抗することなく空気のように合わせた。

 地獄である。


 Tシャツに短パンが恋しいよ。


 この世界は肌の見えすぎる服装はダメらしい。

 

 最近で言えば、こんなことがあった。

 夏場のあまりの暑さに、背の低い大きめの樽に水をたっぷりと入れ足を泳がせ涼んでいると、ドスドスと凶悪な足音をさせて、人の家だというのに堂々と入ってきた長身の男が私の肩を掴んだ。


「おい!」


「あ! ジェン!」


 眉を吊り上げて、涼しげな顔のまま激昂するという器用なことをするこの美麗な男は、隣人で幼馴染のジェンだ。


 この日も、スカートを捲り上げたものすごく良いタイミングで怒鳴られた。少しでも肌の露出をするといつもタイミングよく、いや、タイミングが良すぎると言っていいほどにジェンがやってきて怒鳴るのだ。


 私には監視カメラでも仕掛けられているのかもしれない。

 知らないだけで皮膚に埋め込む技術があるんだろうか。


 ジャパン産の周囲の意見に流される割には彼らにとっては理解できない方向に自由な風潮にズブズブに慣れきった私を、どうやっても淑女にしたいらしい。

 


「っ、あんた、誰かに見られたらどうする! 俺じゃなければ……っ! だいたい、こんなに足を晒して、あんたは女じゃないのか?」


「女ですけど……!? そこまで言わなくても……! 足を出したって言ってもほんのちょっとじゃない……私以外誰もいなかったし」


「兄貴が来るかもしれない」


「それこそ、今更」


 今更も今更。


 小さな頃なんて、一緒に眠った事だってある。

 私、ジェン、ジェンの兄のロドムお兄様の三人でだったけれど。とはいえ、あの時危険だったのは私ではなく、残りの2人だ。なんてったって中身はそこそこの年齢を重ねた事のある私である。

 見た目は幼くとも中身はガッツリ大人なわけです。


 美少年かわええ〜くらいは思っていた。

 しかし寝顔を思う存分拝む前に体年齢には抗えず、やむなく寝んねでした。


 おしまい。


 すごいよね。前世では衰えを感じる体年齢と戦ってたのにね。

 ジムに行っては体年齢下げる事に奮闘したよね。


 ———そんな幼少期を経て、いくらか時間が経って18歳。


 18歳になったとは言え、前世の日本では高校生くらい。半袖のシャツにスカートはいて、涼しい格好が許されてた。

 露出の観点でいえば、あっつい中、水着着てないだけでえらい。湖を横目に飛び込まずにいるのえらい!

 いやはや、正直この世界でちょろっと短いスカート履いたって露出じゃないじゃんってレベルに思う。

 いやぁ、この世界の基準で言ったら水着とかマジで下着だよね。あれ下着だったよね。こっちではもっと布多めだし、下着はもはや服じゃんってレベルだし。ワンピースだよワンピース。

 だから余計に思う。ちょっと足出すくらいいいじゃないか。


「今更……だと? ……はっ、ここにやって来るのが兄貴の方が良いと思ってるくせに……」


 ボソリ、と何か聞こえたが全部は聞き取れなかった。


「ん? 何か言った?」

「……いや」

「こんなに暑いんだから、ジェンもどう?」

「……ちっ……」

「なんで舌打ち!?」


 なんだかんだ言って、私の隣にちょこんと座って涼むのだから、自分だって暑いんじゃないか、といつも思う。


 露出にはうるさいし、マナーにもうるさい。

 潔癖なのか、男女間交友についてはもっとうるさい。

 何故か私がどこかへ行こうとするとジェンがいつも同行するのだ。

 なんでやねん。

 彼は少し女性に夢を抱きすぎているのかもしれない。もしくは過保護すぎる。

 私をなんだと思ってる。


 まぁ、妹としか思われていないのだろう、と思う。


 彼の好みは、年上の、落ち着いた淑やかなレディーだ。涼やかで、美しく、所作の綺麗な落ち着いたレディ。


 そう、たとえば———。


 脳内で、美しい女性の姿が浮かび上がる。

 年上で、儚げなのに美しい女性。

 そう、たとえば、ジェンの兄のロドムお兄様のご婚約者のエリィお義姉様とか。


 ツキン、と胸の奥に小さなヒビが入って疼く。


 私と言ったら、年下で、落ち着きなんてない。

 平々凡々の容姿。

 残念ながら、異世界転生は容姿までは変えてはくれなかったみたいだ。日本で生きていたそのままに近い私の容姿。髪が伸びて、多少ウェーブのかかった黒い髪と黄色みがかった肌。

 

 彼の理想とは程遠い。

 実際、雑な扱いをされているのだ。

 かなり、結構、だいぶ残念だが私はこれっぽっちも彼の理想には近づきそうにはない


 ———私とジェンの婚約は多分、私のせいで決まってしまった婚約なのだと思う。


 私がつい、ロドムお兄様に「ジェンに恋をしている」と打ち明けてしまったから。きっとロドムお兄様が口を出したのだ。


 後悔先に立たず。

 後の祭り。

 

 正直ちゃんとした意味を覚えていないが、言ってしまって後悔〜的な言葉だった気がする。


 カムバックスマートフォン。

 カムバック、インターネッツ。

 検索したいよ〜。

 前世の記憶があったとて、とんでもない天才以外は文明の利器によって得ていたものばかりだったんだな〜なんて転生してみて思った。

 料理もクックパッド検索。

 手作り料理もネット購入した本。

 丁寧な暮らしと言いながらも用意されたキットを買い、QRコードでレシピを検索。

 脳みそに刻まれないまま、使うだけだってわけだ。


 よくある、転生系漫画やアニメみたいに前世の知識を活かしてイチから開発して革命! なんて検索して分かった気でいる私にはできるわけもない訳で。

 いやはや。

 機械に使われていたんだな〜なんて思う。


 拝啓、前世のお母様お父様。

 私はガッツリ流されて生きております。



 話は戻るが、私が秘めた恋心なんてものをうっかり口を滑らせてしまったがために、きっとなし崩しに婚約させられたに違いない。


 自分で言うのもなんだが、イケメン幼馴染という特典を身に纏ったモブが私の正体だ。


その後すぐにロドムお兄様とエリィお義姉様のご婚約、そして私とジェンの婚約が決まったのだ。

 ほぼ同時だ。


 ジェンの眉間に皺の寄った顔を思い出す。


 こんな時、スマートフォンがあったらなぁなんて非現実な事を想像する。

 そうすれば、こうやって顔を合わさずに会話だってメールで伝えてしまえる。

 むすり、とした顰めっ面を見て傷つかなくたって済むんだから。


 脳内で、ガックリと項垂れるスタンプがゆらゆら揺れる。


 ああ、どうして私はエリィお義姉様では無いんだろう。


 息が止まりそうだ。




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