年上の彼女
俺は17才。
高校生。
彼女がいる。
3つ年上の
大学生。
彼女は俺の家庭教師だった。
俺の成績を心配した父親が
手配した。
俺には母親がいない。
俺が小さい頃に別れたらしい。
子供は俺だけ。
親父は仕事ばかりで、
俺は
親父の実家に預けられた。
実家の家族は
よそよそしかった。
親戚の人の立ち話を聞いた。
母親は
他に男が出来て
出ていったと。
家に戻っても
親父は仕事ばかりで
家にもほとんど帰らない。
彼女は
会った時から気になった。
大人の女性に見えた。
彼女の手からローズの香りがした。
柔らかい髪と大きな瞳。
まだ女性を知らなかった俺は
ドギマギした。
彼女はいないの?
いないです。
付き合ったことは?
あるけど別れちゃいました。
ふふと笑って
彼女が俺の手に触れた。
彼女の部屋に誘われた。
土曜日の夜。
彼女の部屋は
いい香りがした。
シャワー使うね。
しばらくして
彼女がバスルームから出てきた。
思わず目をそらした。
俺もシャワーを使った。
彼女はワインを少し飲んだ。
ベッドに誘われた。
甘い香りがした。
彼女は俺を抱きしめた。
無我夢中のまま終わった。
彼女は柔らかい胸で
俺を抱きしめてくれた。
俺はなぜか涙ぐんでしまった。
それからは会う度に抱き合った。
彼女の胸の上で、
母親が子供にするみたいに
俺の髪をなでた。
そのまま
眠りに落ちた。
「俺、高校を卒業したら……」
後の言葉は言えなかった。
夜ふけに、
街中で彼女を見かけた。
知らない男と手をつないで
笑顔で
歩いていた。
男が彼女の肩を抱いて
ホテルに入った
気がついたら
自分の部屋にいた。
机の上のペンを取った。
ノートに何だか
ぐちゃぐちゃ書き込んだ
ペンが折れる
音がした。
しばらくして
彼女が
「もう、別れましょう」
と言った。
「俺は……」
「……勉強がんばってね」
彼女からの連絡が
途絶えた。
友達から噂を聞いた。
彼女が他の高校生とも
関係を持っていたことを。
いらなくなったから
捨てた……
それだけか。
俺の母親みたいに。
夢の中で
あのシーンが始まった。
すごいスピードで逆回ししたような
頭がかきむしられるような音
母親の手が
俺に振り下ろされる
痛みに
頭を抱える
母親が
俺を見下ろす。
蛙の目で。
何度も
俺に
手が振り下ろされる……
彼女と別れて
同級生の子とつきあった。
気弱でおとなしそうな子だった。
華奢な体
白い腕
彼女を抱いた。
彼女は初めてみたいだった。
彼女は両手で顔を覆って
泣いた。
俺は、彼女の髪を
ゆっくりなでた。
彼女を
俺のものに
した気がした。
彼女を
会う度に抱いた
抱いていれば
気持ちが
落ち着いた
「もう、別れましよう」
突然の言葉。
「あなたに、大切にされてると
思えなくなったの」
そうか
お前も捨てるんだ
いらなくなったら……
息が苦しい
あの音が聞こえてくる
頭が掻きむしられる……
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大学に入学して
色々な女と関係した。
体を重ねるだけの関係を。
俺から離れなくなった
人妻の女。
旦那が浮気しているらしい。
寂しいだろうな
なぐさめてやるよ
俺の若い体が欲しいんだろう。
くれてやるよ
(どうしたのうなされてるよ)
隣にいるのは女かな。
そんなに
俺の体が
欲しいのか?
(苦しいわ、
私の首、締めないで……)
彼女が俺を振り払う。
知らない、もう出ていってくれ、
一人にさせてくれ……
また
あの音が聞こえてきた。
頭が締めつけられる……
女が
俺を見つめる。
蛙の目で。
俺をそんな目でみるな。
俺に触るな
俺は
一人でゆっくり
眠りたい……
女なんかどうでもいい……
卒業して
働き始めた。
仕事に行って
部屋に戻る毎日
たまに行くバーで
彼女に会った。
彼女は女友達と一緒だった。
なんとなく話をした。
女なんかどうでもよかった。
彼女が
俺の部屋に来るようになった。
2人でごはんを食べたり
映画を見たり。
なんとなく
体のつながりは出来たけど、
それだけ。
彼女は思い出したように
俺に会いにきた。
俺から誘うことはなかった。
俺が休みの日に
ごはんを作りに来てくれた。
「二人で作った方が安く上がるよね」
とか言いながら。
昔どんな男とつきあってたのかな?って
ふと思った。
ある日の夜、
なんとなく彼女を抱いたあと、
彼女が
「今までつきあった人のこと
どう思ってる?」
と俺に聞いた。
俺は彼女から顔を背けた。
「よく覚えていない」
「覚えていないの?」
「思い出したくないんだ」
「つらいの?」
俺は寝返りを打った。
「分からない」
彼女は何も言わなかった。
テレビの音だけが聞こえていた。
彼女はベッドから起き上がって
身繕いした。
俺が寝ているベッドに腰を下ろした。
背中を向けて少しうつむいたまま、
「私、帰るね」
しばらくしてドアが締まる音が聞こえた。
彼女からメッセージがたまに届く。
ごはん食べた? とか
仕事どうだった? とか
食べたよ とか
疲れたよ とか
彼女が言った。
日曜日に部屋に行っていいかな?
今度の日曜日はゆっくり寝ていたいんだ。
分かった
じゃあまたね。
日曜日は昼前に目を覚ました。
目を開けてまどろんでいると、
シーツに長い髪の毛がついていた。
彼女のかな。
指にとって日にかざした。
細い髪に少しウェーブがかかっていた。
夕方になって彼女が来た。
「ごはん食べてる?」
「今日は昼にお菓子を食べただけ。
そのあとまた寝て」
「しんどいの?」
「眠いだけ」
「今日、お昼に作った余りもの持ってきた。
冷蔵庫に入れておくね。よかったら食べて」
「ありがとう」
彼女は俺の額に
熱を測るように手を載せた。
彼女が俺の胸の上で
俺の鼓動を聞いていた。
息が苦しい。
今までの女も俺にそうした。
俺の胸に頭を載せて。
俺の鼓動を聞いていた。
息が苦しい、
息ができない。
どうしたの?
彼女が俺を見つめた。
息ができない。
今日は帰ってくれ。
苦しいの?
ゆっくり眠りたいんだ。
目を閉じると
彼女は
蛙の目をしていた。
またあのシーンが始まった。
あの音が聞こえる、
頭がかきむしられる……
どこか遠くから
俺を呼ぶ声がする
目をさました。
彼女が俺をじっと見ていた。
どうしたの?苦しいの?
彼女を見た。
俺は眠りに落ちた。
稲穂に揺れる道を
母さんと歩いたよね。
父さんと一緒に
里山に登ったよね。
暑い夏だったね
日差しが強かったね、
めまいがしそうだよ。
母さん、どこにいったの……
彼女と草原に横たわる。
彼女は俺の胸の上で
俺の鼓動を聞いている。
彼女がゆっくり起き上がる。
俺に背を向けて。
彼女の背中に手を伸ばす。
届きそうなのに届かない手……
手をつなぎたい……
草原を向こうから
彼女が歩いてくる。
そよ風。
彼女の微笑む顔が
見える。
(完)