いやだいやだいやだいやだ。
ヤンデレを彼女にしたい、と思ったことはあるだろうか。ある時は熱狂的に恋する人を愛し、狂ったように行動を監視する。他の女と交わるようなことがあれば、包丁に訴える。大方の答えは、『ノー』だろう。
かく言う建志も、ヤンデレとは付き合いたくない。遭遇するのですらNGだ。
「……外れねぇ」
誰に何の恨みを持たれているのか、分からない。建志が直面している現実は、両手を鎖で拘束され、壁に繋がれていて脱出不可ということだけだ。
二メートル四方のコンクリート部屋に、独りぼっち。これほど心細い事はない。
鉄の扉が、ギギギっという音を立てて開いた。
「おい、誰だ!」
「……私だよ? ねえねえ、建志くーん」
声だけで、誰か分かった。クスリが決まっているかのようなハイテンションなのが恐怖感を煽って判別しづらくしているが、これは歩だ。
「……歩。なんで、俺をここに閉じ込めてるんだよ」
建志と歩の接点は、数度会話を交わしただけ。当初は親しくなれると思っていたのだが、回を重ねるうちに歩の過激な一面が見え隠れして、フェードアウトしていったのである。
「……ふふふ、なんで建志くんを閉じ込めたかって? それは、建志くんが私のことを裏切ったからだよねーぇ?」
この場から逃げなければならない。そういった空気が流れている。逃げ出したいが、頼みの綱の脱出口は狂気の歩が待ち構えている。
「だってぇ、昨日、女の子と一緒に歩いてたよ、ねーぇ?」
「違う、それは同じ班だからってだけで!?」
歩の背中から、医療現場のドラマでよく出てくるメスが出てきた。暴力を目前にして、建志は引き下がるしかなかった。
「建志くーん、約束して? もう他の女の子と帰らないって、約束して?」
目が逝ってしまっている歩が、小指を差し出した。建志には、差し出す手がなかった。
「あ、そっかー。わたしが、建志くんの手を拘束してたんだっけー? それじゃ、だめだねー?」
能天気なようだが、言動も行動も異次元だ。メスで何かを切り裂くような動作を、何度も繰り返している。
「もしー、嫌で小指を出してこなかったらー、切り落としちゃおうと考えてたんだー! 約束を破っちゃう小指ちゃんはいりません! ってねー」
何とも恐ろしい笑いだ。
「……そうだ! 今ここで、宣言して? 『俺は歩と付きあい、他の女の子とは口も一切聞きません』ってね?」
普通の女子がこのような要求をしてきたら、速攻で跳ね付けていただろう。
そう、彼女が普通ではないということだ。
「分かったよ……」
「へへへへへっ。それでこそ、わたしの彼氏だね!」
歪んだ愛に巻き込まれた建志とヤンデレの歩のねじれ交際は、こうして始まってしまったのであった。
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ヤンデレは専門外なんですよ……。(泣)