表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 四谷イツキ
5/5

5

夜に秋の虫が鳴いていても、まだまだ昼間は暑い。

棘を持ったような日差しが肌を焼き、汗は絶え間なく噴出す。

時折吹く風に喜びながら、玲紀を待っていた。



「ごめん、陸斗!」

後方から声がし、合わせて走ってくる足音も聞こえた。

「母さんにつかまっちゃって・・・」

「あ、怒られた?」

太陽の下で見る玲紀は、これが初めてと言っても過言ではない。

こんなに色が白いとは気付きもしなかった。

「ううん、母さんも自分が悪いって分かってたんだよ」

すっきりとした爽やかな笑顔で彼はあっさり言い放つ。

足枷が取れたような、重荷がなくなったかのような、そんな印象を受ける。

「・・・もう行くんでしょ?」

僕が訪ねると、玲紀は静かに頷いた。

去年より、一昨年より、どこか淋しさを含んだ空気が二人を包む。

いつもなら出発する日の昼に会うことなんてない。

暗黙の了解で、まるでひと夏の思い出のようにして忘れるのだ。

「また、来年だね」

「・・・うん」

玲紀は太陽を見上げる。

彼は目を細め、何かを探すようにそのまま見つめた。

うっすらと汗が光って、まるで夜の冷気とは違う人間に思える。

実際、一昨日までの玲紀とは別人だ。

事実よりも、彼の顔がそれを物語っている。

「玲紀なら友達の一人や二人、すぐ出来るよ」

額の汗を拭いながら、僕は地面に腰を下ろした。

暑さに負けたのか、これ以上玲紀を見ていたくなかったのかは分からない。

「当たり前だろ、俺はお前の友達だぜ」

しゃがみこんだ僕を見下ろすようにして、玲紀は笑う。

逆光でその顔は見えなかったが、逆にそれで良かった。


僕の中に不安があったから、うまく笑える気がしなかった。



「さぁ、もう行くか」

玲紀は小さく背伸びをすると、僕の様子を窺っている。

まるで一昨日までの玲紀が乗り移ったかのように、僕は焦っていた。

「・・・陸斗?」


毎年毎年、夏に出逢っては別れ、それぞれの生活をしてきた。

その中で、どうして今まで一度も思わなかったのだろう。

そして、どうしてそれが今になって生じたのだろう。



マチに帰った玲紀が、僕を忘れて友達を作ってしまいそうで、怖かった。



「・・・玲紀は、変わんない?」

力強い日差しに、僕の力は吸い取られてしまったのかもしれない。

それくらい弱い声で呟いた。

「変わんないよ。お前だって変わんないでいてくれるんだろ?」

彼の優しい口調に、安堵感が芽生える。

小さく頷くと、頭の上に彼の手が乗った。

「来年、この場所に家でも建ちそうだったら・・・」

玲紀の言葉を奪うようにして、強引に僕が続けた。

「その時は必死で止めるよ」

逆光で見えない玲紀の顔を見上げて微笑む。

彼もそれに呼応して微笑んだ。



「じゃあな」

二回ほど頭を叩くと、僕の横から玲紀はいなくなった。

あえて振り返らない。

振り返ればそれだけ、来年会うまでの時間が先延ばしになるような気がした。

暑さを我慢して、そのまま寝転がる。



太陽を中心にした広い空の端に、薄い色の月の姿があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ