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エピローグ

「正面を向いてももとちゃんと話せるようになったことを本当に嬉しく思うわ」


 母はももの顔を見ながら、ニコッと笑う。


「私も……長いようで思い返せばあっという間だったなって今は思う」


「そうね――あ」


 それから母は腕時計を見ながら、苦笑いをした。


「そろそろ夕飯の支度をしなくちゃ。もも、今日は泊っていくのよね?」


「うん。そのつもり」


 彼には今日は帰らないと伝えてあるしね――と思いながら夜勤で帰ってきた彼の顔を思い浮かべて首肯した。


「そう。じゃあ、今夜はきっと楽しいわよ」


 母は嬉しそうに笑い、かばんを持って立ち上がる。ももも続いて立ち上がり、会計を済ませ、店外に出た。


 空はオレンジと紺が徐々に混ざりあい、遠くの方できらりと星が瞬いている。


「もも?」


 母はぼうっと佇んでいるももの顔を覗き込むように言った。


「星が出てるなあって思っただけ。帰ろっか!」


「ええ」


 それからももは母と並んで実家に向かって歩きだす。


 そういえば、さっき今夜は楽しくなるとかって――母の顔をちらりと見つめ、ももはその言葉の意味を考えた。


 お父さんが何か面白いネタを披露してくれるとか?

 もしくは面白い映画の鑑賞会?

 私に何かをさせようって考えているとか!? それは回避しないと。


「なんだろうなあ」ももは母に聞こえないくらい小さな声で呟く。


 それからまた考えてみたももだったが、結局家に着くまでにその意味を理解することはできなかったのだった。


「久しぶりだけど、あんまり変わってないね」


 黒い瓦屋根、灰色の外壁。父の車を停める車庫――もう何年も帰っていなかったのに、何も変わっていなかった実家にももはほっと胸を撫で下ろす。


「去年、ようやく外壁の塗装をしてもらったんだけど、帰ってきたももが驚かないようにって前と同じ色にしてもらったのよ」


 実家をまじまじと見つめるももを横目に、母はニコニコと笑いながら言った。


「まあ唯一変わったとすれば――新しい家族が増えたことかな」


 ももは母のその言葉に首を傾げる。


 新しい家族? それがさっき言っていた楽しいってことと関係しているのかな――


 ももがリビングに入るとその一角が金属製の柵で仕切られており、その中央に家の形をした小さな小屋があった。犬でも飼い始めたってことかな? ももはそんなことを考える。


「ほら、ももが帰ってきたわよー」


 母がそう言うと、小屋の中から小さな生き物がもぞもぞと姿を現す。その白い大福のような生物を見て、ももは目を丸くした。


「うさぎ飼い始めたの!?」


「ええ。友達から譲り受けてね。ももがうさぎ好きだったなあっていうのと、ももならこの子たちの声が聞こえる気がして」


 子離れした親が動物を飼い始めることがあると話は聞いていたけれど、まさかそれがうさぎだなんて――


 ももは目を丸くして、うさぎと戯れる母を見つめていた。


 母はうさぎを怖がることも気味悪がることもしない。我が子を抱くように優しく頭を撫で、慈愛の表情を向けていた。


「ももが能力者になった時も、こうできたらよかったなって反省してる。だから、代わりってわけじゃないけど、この子たちはちゃんと愛情を注いであげたいって思ってるわ」


「お母さん……」


「そうだ。この白い子。ももにそっくりじゃない?」


 母は白うさぎを抱き上げて、ももの前で見せた。


 確かに、私というより――


「うーたん似てるかな」


「うーたん?」


「うん。小学校のうさぎ小屋にいた子で、私の中にいた子」


 ももはそっと胸に手を当てて、微笑んだ。


「そっか」と温かなまなざしで、母はももを見つめる。


「ねえ。この子、名前は?」


「シロえもんよ!」


 したり顔をする母。ももは呆れた表情をした。


「名前のセンス……」


「いいじゃない! ビビッと来たんだから! ねえ、シロえもん」


「まあ、いっか。シロえもん、ももだよー」


「こんなことをしている場合じゃなかったわね。夕飯の支度をしないと!」


 母はそう言ってシロえもんを柵の中に戻し、すっと立ち上がる。


「あ、私も手伝うよ」


 ももも母に続いて立ち上がるが、


「いいの。ももはせっかくのお休みなんだから、ゆっくりとシロえもんたちと戯れなさい」


 ももの両肩に手をそっと乗せて、母は微笑みながらそう言った。


「ありがとう、お母さん」


「いえいえ」


 ももが座ると、母は嬉しそうにキッチンへと向かって歩きだした。それから何かを思い出したように急に振り返ると、


「そうだ。帰って来たくなった?」


 ニヤリと笑いながら母はももに尋ねる。


 もしかして、私とまた一緒に住みたいと思ってくれているのかな――ももはそう思い、胸が温かくなるような気がした。


 しかし、ももは小さくかぶりを振る。実家に帰れない理由があるからだった。


「そうだねえ。でも私、あっちで同棲してるしね。たまにこうしてシロえもんたちに会いに来るくらいなら」


「そうなの!? やっぱり獣医さん?」


 母は目を見開き、興味津々にももへ尋ねる。


 まるでドラマとかでよく観る、噂大好きのご近所さんみたいな勢いだった。


「ああえっと……研究員、かな。医療貢献のために、細胞とか臓器のこととか研究してるらしいけど……」


 詳しい仕事内容は国家機密なので教えられないと言われており、研究者とはそういうものなのだろうととりあえずももは納得していた。


 きっと真面目な彼のことだ。悪いことじゃないと信じているし、いつか教えてくれるって私は思っている。


「へえ! じゃあ、その彼氏さんの話は、お父さんが帰ってきたらまた詳しくしましょう」


「うん。今度、彼も連れてくるね」


 潔癖症ではなくなったわけだし、シロえもんたちがいたとしても平気だろうとももは小さく笑った。


「うふふ、楽しみにしているわ」


 母はそう言ってキッチンに入っていった。


「まさかうーたんが転生した、とかかな」


 ももはシロえもんを抱きながら、大福のような形になっているシロえもんの頭をそっと撫でる。




 わかり合えないだろうと思っていた母と、こうして笑い合える未来になった。


 多くの出会いが私を成長させ、今をくれたのかもしれない。


 思えば、うーたんの魂が私の中に宿らなければ、この未来はなかったんだろうな。


 ありがとう、うーたん――



「私、おとなになれたかな」




 ~ 完 ~


 短期連載でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました!!

 本編が終了してまもないことは分かっていたのですが、どうしても書きたい衝動が抑えられず、外伝としてまた『白雪姫症候群』のシリーズを出してしまいました。

 作者の愛ゆえにと思ってください……

 ちなみに作中で少し伏線を張った恋愛ものを来年あたりに外伝として出そうと考えています。

 恋愛ものをあまり書かないので正直ドキドキですが、もしもご縁があればそちらもお読みいただけると嬉しいです(/ω\)


 あとがきなのに、つい色々と書きたくなってしまってすみません。

 それでは! このあたりでお開きにします。

 繰り返しにはなりますが。

 ここまでお読みいただき、本当に本当にありがとうございました!!


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