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第3話ー④ ももの夜明け

 午前の授業を終えたももはスクールバッグに必要な用具を戻し、席を立つ。


 登校初日のこの日は午後からは休校だったため、学園内にある食堂を見学しようと思っていたのである。


「もうすぐ食堂の開放時間だけど――あ」


 まだ教室に残っていた裕行を見つけ、ももはゆっくりと裕行の元に向かった。


「裕行君、この後に予定は?」


 ももがニコリと微笑んで尋ねると、


「寮に帰ってゆっくりしようかなって思っていたところだけど……どうしたの?」


 きょとんとした顔で裕行は答えた。


 ほう、裕行君も寮生なのか。ももはニヤリと笑う。


「じゃあ、食堂を見に行こう! 今日からやってるって言ってたし」


「え? ああ、うん。でも、あの子たちとはよかったの?」


 裕行はそう言って楽しそうにクラスメイトと話している水蓮へ視線を向けた。


「うーん。なんだろうなあ。年齢が離れているっていうのもあるし……今日はちょっとね」


 彼に聞きたいこともあるし、とももは裕行を見つめた。


「へ、へえ。そっか」


 裕行はそう言いながらももから目をそらし、頬を掻く。


 なんだか裕行のその言い方がそっけない気がして、ももは一瞬だけ首を傾げるが、大した意味はないのだろうと踵を返した。


「それじゃあ、行こっか」


 そう言ってももは出口に向かって歩きだす。


「ま、待ってよー」


 裕行は急いで荷物をまとめて、ももの後を急いで追った。


 今年入学の第一期生は一クラスしかないため、校舎内はかなりがらんと静まり返っていた。今のこの状況でこれから先、本当にたくさんの子供たちがここで学ぶことになるのだろうかとももはふと不安になる。


 来年からのことは今年の私たち次第なのかもしれない。だとしたら問題なく学園生活を送らないとね――あの事件に関係していた、私や裕行君は特に。


「ねえ裕行君さ、あのあとからどう?」


 裕行の前を歩きながら、さりげなくももはそう尋ねた。


「あのあとって?」


「あの事件――隔離された事件のあとのこと」


「ああ――」


 彼を食堂に誘った理由。それは、あの事件後のことを聞いてみたいと思ったからだった。自分と同じように居心地の悪い環境になったのか、それとも以前と変わらなかったのか。


 そもそも彼の生活環境は劣悪なものだったと聞いていたため、それよりひどくなってしまったのではないかという心配もあった。


「あのあとは……学校には行かなかったんだ。お母さんもそれを良しとしなかったしね。あの隔離事件から解放された後、今度は自宅で監禁状態だったかな」


「そう、だったんだ……」


 なんてひどいことをする母親だと思った。そして自分が同じようにされていたらと考え、ももは戦慄する。


「でもさ」


 ももはその声にはっとして振り返る。裕行も足を止めて、ももの顔をまっすぐに見つめた。


「学校に行っていたら、また昔みたいにいじめられていたかもしれない。不自由ではあったけど、それはそれで良かったのかもって思ってるよ。あ、でも……監禁されてから、お母さんが一度も会ってくれなかったのは寂しかったかな」


 苦しそうな顔でそう言う裕行を見て、ももは目を剥く。

 

「え……それって、やっぱり――」


「うん。だって僕、『蟻』になる能力なんだよ? そりゃ、気持ち悪くもなるよね。汚いって、言われても仕方ないよね」


 と裕行は悲しげに笑った。


 裕行の顔を見て、ももは自分の胸に棘が刺さったような痛みが走る。


 仕方なくなんてないのに――眉間に皺を寄せながらももはそう思った。


 いくら能力者になったとはいえ、自分の子供であることに変わりはないでしょ――私も、裕行君も。それなのに、どうしてママも裕行君のお母さんもひどいことをいうの?


 ももはいつの間にか目に涙を溜めていた。その涙でゆがんだ視界には、あたふたする裕行が映る。


 自立するんだって決めたのに。泣き虫のままじゃ、ダメダメなのに――


「家にいる時は大変だった。でも、僕はここに来られたよ。みんなの言う普通の生活は許してもらえなかったけれど、ここの学校に行くことは許してもらえたんだ。僕はもう大丈夫……だから、泣かないでももちゃん」


「――うん」ももは制服の袖で涙を拭う。


 裕行君も私と同じような理由でここへ来たんだ。分かってくれる人がいてくれるのは心強いな。


「じゃあ、食堂行こうよ! ももちゃん、お腹空いたでしょ?」


「うん、行こう」


 それからももたちは食堂に着くと、食事をしながらこれからのことを話し合った。


 そして、同じ境遇の子たちがいたら自分たちは味方でいよう――と約束を交わしたのだった。


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