表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/80

最後の星 その①

厳夜VS佗汰羅、決着です。


「顕現せよ。想極(そうきょく)、〈星天の霹靂―――三千大千世界さんぜんだいせんせかい〉」


 厳夜の体を覆いつくす傀朧の質が極限まで高められると、その色は蒼から黄金色に変わる。そして、傀朧が周囲の光景を瞬く間に塗りつぶしていく。光は閉ざされ、漆黒の空間に立つ二人の前に、数多の光の粒が出現する。


 ――――――佗汰羅(たたら)は光が、宇宙に浮かぶ星々を模していると気づく。光の粒子が空間を滑るように一斉に動き始め、やがて厳夜の背に集まると、巨大な銀河と成る。


 肌を裂く冷たい傀朧―――佗汰羅はこの空間を構成する傀朧の質の高さに感服する。


「……すごいぞ、浄霊院厳夜。人の身でここまでの想術を扱える者は、そうそう現われるものじゃない」


 銀河から放たれる黄金の光に包まれた厳夜は、一歩ずつ佗汰羅に歩み寄っていく。


「想術の質は想像力の強さに起因する。この想極(そうきょく)は、私の傲慢な願いを体現したものだ。褒められるものではない」

「そうか……だが、傀域(かいいき)は傀朧の量によって簡単に塗り替えられるぞ」


 佗汰羅は自信満々に指を鳴らし、空間を埋め尽くす量の銃を出現させる。その銃口はすべて厳夜に向くと、グリップに人の手の骨が出現し、引き金に指をかける。


「お前の想術は、力の精製(・・・・)と言ったな。言葉通り戦う手段を精製できるのなら、圧倒的で絶望的な術だ」


 厳夜は冷静に、銃を排除する手振りで腕を振る。すると、空間がねじ曲がり、大量の銃が厳夜の背後にある銀河へ吸収されていく。


「そういうお前は重力(・・)。いい術だ。やはり人間離れしている」

「さっきからやけに余裕だな。それにお前、手を抜いている(・・・・・・・)だろう?」

「なぜそう思う」

「武力を精製する能力ならば一瞬で終わらせることも可能なはずだ。だがこれまで出現させた武器は刀、槍、弓、銃……この現代において、戦う手段は多様化している。なぜ、圧倒的な武器を使わない?」

「そこまで気づいてて、無意味に想極を使ったのか?」

「違う。だからこそ(・・・・・)、使ったのだ」


 佗汰羅は厳夜に向けて手をかざす。今度は十本程度の槍が厳夜の体に突き刺さった状態で出現した。


「オレは闘争の神だ。昔は軍神、戦神、そんな言い方をされてきた。オレは戦いに負けることはない。決して」


 次に佗汰羅の視界に厳夜が映った時、槍は厳夜の右隣で静止していた。それを見た佗汰羅は目を細める。


(……手ごたえはない)


「だから五百年前、お前を封印するしかなかったのだろう。お前を世に解き放つということは、世界が争いに包まれ、世界の滅亡を意味する」

「滅亡が目的じゃない。オレは世界を……いや、人を在るべき姿へと導く」

「何だと」

「人が本能のまま争い合い、奪い合い、強者だけが生き残る世界だ。弱者を淘汰することが本質ではない。弱者は強者に庇護され、在るべき立場を甘受する。これが人間が最も人間らしく在る唯一の方法だ」


 佗汰羅は連続で槍を出現させ、厳夜の体を串刺しにし続ける。しかし、槍が刺さっている感覚が一切なく、気づけば厳夜は槍から離れた位置に立っている。厳夜は鋭い目つきで佗汰羅を睨む。


「貴様の理想は、到底受け入れられんよ。理解に苦しむ」

「人間が理解する必要などない。(オレ)が、世界を導けばいいだけだ」


 佗汰羅は厳夜を笑うと、厳夜の周囲に小型爆弾を出現させ、一斉に爆破させる。

 ――――――しかし、爆風の中現れた厳夜は、一切ダメージを負っていなかった。


「どういうこと原理だ」

「戦いを司るお前ならわかるだろう。この空間が展開された時点で、お前は敗北(・・)している」


 厳夜は笑みが消えた佗汰羅の顔を見て静かに告げる。


「この想極は、空間を形成するのではない。概念(・・)を形成する」

「!!」


 佗汰羅はその言葉聞くと、全身から凄まじい量の傀朧を放出し、空間を塗り替えようとする。


「遅い!」


 しかし、厳夜は瞬間移動で佗汰羅の顔面に蹴りを入れ、その動きを封じる。

 漆黒の宇宙を飛んでいく佗汰羅の体は、徐々に凍り始めていた。


「チッ。空間にこれほどまで要素を組み込めるなんてなァ!」

「そうだ。だからあの程度の爆発は効かん」


 輝く光を纏った厳夜は、連続で佗汰羅に攻撃を仕掛ける。為すすべなく打撃を受け続ける佗汰羅の体は何度も吹っ飛び、徐々に消耗していく。

 佗汰羅は厳夜に向かって大量の刀を精製し、斬りつけていくが、その刀はすべて厳夜の体をすり抜けるように空間に散っていく。


「星……質量……そういうことか!」


 佗汰羅が目を見開いた時、厳夜の背後で美しく輝いていた巨大な銀河が波打ち、膨張する。


残像(・・)か」


 佗汰羅は足から傀朧を放出し、厳夜の攻撃を何とか躱すと、空間を飛んで逃げ始める。


「お前は勘違いをしている! この体が消し飛べば、風牙は死ぬぞ!」

「えらく小物のようなことを言い始めたな。そんなことはわかっている」


 厳夜は光の速さで回り込み、佗汰羅の体を掴む。続いて腹に膝蹴りと入れ、顔面を殴り飛ばす。


「調子に……乗るな!!」


 佗汰羅は大量の手榴弾を厳夜の前に出現させ、一斉に爆発させる。一瞬、爆風に巻き込まれた厳夜の動きが止まる。


「決めたぜ。この体を破壊する(・・・・・・・・)


 その言葉を聞いた厳夜は拳を構えると、佗汰羅を睨みつける。


「破壊はさせない」


 厳夜は光を纏い、圧倒的な速度で佗汰羅の身体を殴りつける。

 吹き飛ぶ方向へ先回りし、何度も、何度も蹴りつけ、殴り続ける。

 その光の弾道が円を描くように広がるたびに、佗汰羅の体が消耗していく。


「ガハッ……意味わからねえよ浄霊院厳夜!」


 佗汰羅はわずかな隙をつき、厳夜の拳を掴んで防御する。ボロボロの体が再生していくのを間近で見た厳夜に、僅かな隙が生まれる。


「オラアッ!! ()億連撃(・・・)だ!!」

(しまっ……)


 佗汰羅の拳が厳夜の体に当たる瞬間、全身が吹き飛ぶほどの衝撃を一気に受け、吐血する。佗汰羅は続けて手刀を厳夜の肩に振り下ろす。

 しかし、それを振り返り様に弾いた厳夜は、蹴りをわき腹にヒットさせる。


「やっと効いてくれたなぁおい。それも、痛恨の一撃だったみてえだな」

「……」


 致命傷だと直感する。傀朧を体に巡らせることで体を再生させる術も意味をなさないほど、内臓が損傷している。

 厳夜は、ありったけの傀朧で、損傷した臓器を覆うと、歯をむき出しにして笑った。


(まだ、時間はある)


 ――――――ぞくり。勝利を確信したはずの佗汰羅に、再び悪寒が奔る。


「浄霊院、厳夜ァァァァァ!!!」


 互いに拳を振り上げ、肉薄する。拳が何度も交錯し、弾け、炸裂――――――。

 その応酬が衝撃となって空間に伝わる。両者は血をまき散らしながら、凄まじい速度で殴り合う。互いに考えることはない。ただ、戦いの本能のままに、相手を嬲り殺すのみ。


 両者が白目をむいて距離を取るころには、互いに肉体の限界を迎えていた。

 ボロボロになった両者の目が再び光った時、最後の一撃が互いの頬に突き刺さる。


「がはっ」


 厳夜は揺らぎ、佗汰羅は笑う。今度こそ勝利を確信した佗汰羅は、拳で血を拭った。


「やるじゃ……ねえか……だが……」


 息も絶え絶えの厳夜は、立っているのがやっとの様子だった。


「終わりだ、浄霊院厳夜……!」


 佗汰羅は拳を厳夜の体に向けて打ち放つ。その時、消えかけていた厳夜の瞳に、再度強い力が籠った。


 ――――――ぐさり。

 その瞬間、背後から現れた小さな人影が、佗汰羅の心臓に小さな刀身を突き立てる。


「なっ……」

「……確信的な隙ができたな」


 佗汰羅の背後にいたのは、先ほど見失っていた坊主頭の少年―――ヒカルだった。


「私の空間だ。誰を入れるかも私が決めることができる」


 佗汰羅は瞬発的にヒカルを攻撃しようとするが、


「!?」


 その刺さった刀身が、佗汰羅の傀朧を吸い上げていく。力が抜け、術が発動しない。


「この餓鬼……!!」


 しかし、佗汰羅はヒカルの腹目掛けて手刀を繰り出す。それを見た厳夜は、瞬時にヒカルを空間の外に脱出させた。


「何を……した!」

「……お前を倒すために、私は何百回と繰り返した。そして行きついた答えが……私の命を懸けたこの術と、今お前の心臓に刺さったその傀具(・・)だ」


 厳夜は瞬間移動し、佗汰羅の心臓に刺さった刀を抜き去る。


「がっ……力が……」

「これは〈傀朧管理局〉が厳重に保管していた特上傀具、鉢特摩(はどま)

鉢特摩(はどま)……?」


 佗汰羅は傷口から大量の傀朧が漏れ出し、刀の形をしたソレに吸収されていることに焦りを隠せない。


「これは、最上級の封印型傀具で、どんな量(・・・・)の傀朧もストックできる優れものだ。そう……一度質の高い傀朧を吸わせると、無限に傀朧を喰らう。そんな異常な傀具を野放しにすれば、何が起こるかわからない。だから、厳重に管理されていた」

「ふざけ……やがって!!」


 佗汰羅は厳夜に掴みかかろうとするが、瞬間移動で躱される。


「どうした。体調が悪そうだな。先ほどまでの余裕はどこへ行った」

「そんなもの聞いたことがない!! オレのいた戦国の世にはなかったぞ!」


 みるみるうちに佗汰羅の傀朧が鉢特摩(はどま)に流れていく。このままでは、存在ごと鉢特摩(はどま)に吸収され、封印されてしまう。

 佗汰羅は、目の前の景色が歪み始めたことに焦りを感じていた。自らの深層心理に押し込めた風牙の意識が蘇ってくる――――――このままでは体の制御権が風牙に戻ってしまう。


「終わりだ。佗汰羅」

「クソが!!」


 佗汰羅は最後の力を振り絞り、右手に銃を持つと、自らの心臓に向けて発砲する。

 それを見た厳夜は、〈星天の霹靂〉で銃を弾き飛ばし、再度刀で体を貫いた。


「ぐおおおおおおおっ……」


 膨大な量の傀朧を吸収した鉢特摩(はどま)の刀身は禍々しい巨大な剣へと変化する。傀朧を吸収し終わったことを確認した厳夜は、全身に浮かんだ文様がなくなった風牙の体にそっと触れる。


「……風牙。聞こえているか」


 風牙は目をつむり、意識を失っていた。


「本当にすまなかった。お前は私の家族だ。だから、決して死なせない」


 厳夜がそう言うと、風牙の瞼がわずかに動く。


「……じいさん」


 目覚めた風牙を見て、安心した厳夜はそっと風牙の体を押す。漆黒の空間を滑るように、風牙は闇に吸い込まれていく。


「俺、ひどいこと言っちまった。ごめんなさい……」


 風牙は力いっぱい手を伸ばす。


「いい。それよりもお前を騙していたのは事実だ。済まなかった」


 しかし、風牙の手が厳夜に届くことはなく、風牙の体は空間から隔離されていく。


「ありがとう」

「……じいさん!」


 厳夜は空間に吸い込まれていく風牙の目を見て、優しく呟いた。


「後は頼んだぞ、風牙」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ