温かな光の中
――――――が。
暗闇に沈んでいた風牙の意識が、徐々に戻ってくる。目を開けた風牙を待っていたのは、温かい光だった。
――――――うが。
懐かしい匂いと、懐かしい声。ふと、遠い日の記憶が思い起こされる。広い平屋の縁側で、父親と一緒によく昼寝をしていた、あの日のことを。
――――――ふうが。
その声は、自分の名前を呼ぶ穏やかな声だった。
「かあ、ちゃん」
風牙はもがくように、その声がする方へ手を伸ばす。
――――――もう疲れた。もう、何もしたくない。だから、一目会いたい。
ずっと、心の中にしまい込んでいた思い――――――両親に会いたい。風牙の目には自然と涙が浮かんでいた。大好きだった両親の元へ行きたい。もう一度、会いたい。
風牙の心は、七年前の炎の中で一度壊れていた。風牙が生きていくためには、復讐心を持つしか心を保てなかったのだ。
「俺、もう疲れたよ。もう、何もかも嫌なんだ。運命とか、復讐とか、わけわかんねえよ……だから」
風牙の声は涙で掠れていた。
ずっと寂しかった。寂しくてたまらなかった。どれだけ強く生きて行こうとしても、炎の中の記憶がこびりついて離れない。
――――――父のようにたくさんの人を守ろうとした。
――――――母のように多くの人間を愛するようにした。
――――――もう、いい子でいるのは止めろ。お前は復讐を願う心の中で、普通の幸せを願ってた。家族が欲しかった。友だちが欲しかった。誰かと一緒に、生きていたかった。
でも――――――それでも、風牙には復讐しかなかった。許せなかった。だから死ぬほど努力して想術師になった。
「……寂しかったんだ、ずっと。本当は戦いたくなんかねえ。復讐なんて、考えたくなかった。それなのに……それなのに……頭からあの炎が消えねえんだ。俺は俺を許せねえ。だから……」
「そうね……本当に頑張ったよ、風牙は」
「えっ……」
「おう。本当に、オレたちの自慢の息子だ」
風牙の手の先―――光の中から二本の手が伸びてくる。その手は同時に風牙の腕を掴み、より光る方へ引っ張り出す。
光の先、真っ白な温かい空間で風牙を待っていたのは、両親だった。引っ張られた勢いのまま、ぎゅっと両親に抱きしめられる。
「夢みたい……」
「ほんとだな」
ぎゅっと、力強く、温かい――――――。
風牙はその温かさに驚き、目を丸くする。
「とう、ちゃん? かあちゃん?」
「でかくなったな」
風牙にそっくりな見た目をした父、雷牙は青い瞳をうるうるさせながら、風牙の頭をぐしゃっと撫でる。その撫で方が昔の通りで、風牙はまた泣いた。
「とうちゃんが……縮んだんだよ」
「まあ、まだまだオレには敵わねえけどな」
「……追い越す。ぜってえ追い越す!」
「楽しみにしてるぜ」
母、楓は茶色の長髪を靡かせ、風牙の頬をそっと撫でる。
昔、何か悪いことをすると頬をぎゅっと掴まれていたのを思い出し、風牙はさらに泣いた。
「昔から似てたけど、いよいよお父さんにそっくりになってきたね」
「似てる、かな……」
「うん。かっこよくて優しくて、ちょっとドジなところも似てる」
「「ドジじゃねえ!」」
「ほーら、似てる」
優しく笑った楓を見て、風牙と雷牙は顔を見合わせた。風牙はまだ混乱が解けず、込み上げて来た涙を堪え、二人に問いかけた。
「俺、死んじゃったのかな……」
「何でそう思うんだ?」
「だって、とうちゃんとかあちゃんに会えるなんて……」
雷牙は二ッと笑い、風牙の頭に手を置く。
「オレたちはな、風牙。お前の中でずっと見てたんだぜ。お前が成長していく様子も、お前がどれだけ苦しい思いをしてきたかも」
「えっ」
「あなたはまだ生きている。私たちは、あなたに伝えなければならないことを伝えるために、あなたの中にいた」
風牙は両親の顔をじっと見つめる。言われた言葉を飲み込むことができず、代わりに唾を飲み込んだ。
「七年前の事件。その真実を、あなたに伝えるわ」
七年前、風牙のすべてを変えた事件。浄霊院紅夜によって故郷と両親を失ったあの事件――――――その、真実を伝えると楓は言った。
「七年前に起きたあの事件は、浄霊院紅夜によって起こされたものではないの」
「ああ。あの事件は、〈十二天将〉の……いや、想術師協会の手によって、意図的に起こされたものだったんだ」
「……は? ちょっと待ってくれ。さっぱりわかんねえよ」
――――――風牙の思考が停止する。
両親から語られたのは、思いもよらぬ、それでいて到底受け入れられない内容だった。
「混乱するのは当然よ。だから、すべての真実を、彼の口から語ってもらう」
母が彼、という言葉を口にした時、白く温かい空間に歪みが生じる。
その歪みは一人分の大きさとなり、歪みから人の形をした影が出現する。
「お前……!!」
赤い長髪の和装の男―――それは忘れもしない、風牙が追い求めた復讐の相手、浄霊院紅夜だった。
その顔、雰囲気、身にまとう傀朧―――その全てを一度も忘れたことなどない。
炎の中で、両親を殺していた光景がフラッシュバックする。深い憎しみに駆られた風牙は、紅夜に向けて飛び掛かった。
「てめえが!!」
紅夜を押し倒した風牙は、馬乗りになって何度も、何度も、紅夜の顔を殴り続ける。
「てめえが俺の……全部を……!!」
血が飛び散り、風牙の拳が真っ赤に染まる。両親は二人の傍に近寄ろうとしたが、紅夜は手のひらを上げて、両親を制止する。
「奪いやがった!! 全部!! お前が!!」
風牙の目に涙が溢れ、視界が霞む。嗚咽が止まらなくなり、次第に風牙の力が弱まっていく。
「なんで……なんで……」
殴った感触も、温かい血の温度も、全部本物だった。ずっと願っていた復讐の機会が訪れ、今まさに風牙は紅夜を殺せる状況にある。
ずっと、願っていたことだった。それが、生きる目的だった。なのに――――――。
「なんで……そんな……悲しい顔してんだよ……」
風牙は血で真っ赤になった拳をゆっくりと下げ、紅夜の胸を小さく叩き続けた。
両親は背後から何も言わずに、風牙を抱きしめる。
「悪かったな風牙」
「本当にごめんね……風牙」
風牙は両親と、紅夜の血のぬくもりが同じ温度であることに気づき、完全に力を抜いた。自分でもわからない。絶対に殺すと誓った相手が目の前にいるのに、風牙はどうしてもこれ以上殴る気が起こらなかった。
「風牙。紅夜に殺してくれと頼んだのはオレたちだったんだ。オレたちはお前を深く傷つけた。許されることじゃねえ」
楓は風牙の涙を手で拭うと、泣きながら頭を下げる。
「私たちは、あなたを救いたかった。あなたが、佗汰羅の器として覚醒してしまうのをどうしても防ぎたかった……!」
風牙はその言葉を聞いて息を飲む。
佗汰羅。その存在を、風牙はよく知っている。自分の中にいる、もう一人の自分。暗く、冷たい言葉が心の底に浸透していくのを思い出して戦慄する。
その時、倒れていた紅夜がゆっくりと起き上がる。
紅夜は落ち着いた様子でぐちゃぐちゃになった顔の血を払うと、風牙を見据える。
「……このような場でしか顔を出せなかったこと、謝罪する。其許は私を殺す権利がある。その上で、一つだけ話を聞いてほしい」
風牙は紅夜を睨みつける。その目にはまだ憎悪の火が灯っていた。
「すべて終われば、私の命は其許のものだ」
風牙は歯を食いしばって怒りを堪え、俯いた。
「……全部教えろ」
「もちろんだ」
紅夜は両親を一瞥したのち、口を開く。
「功刀家のすべてと、七年前の真実について、語ろう」
★ ★ ★ ★ ★
功刀家の成り立ちは五百年前、戦国時代と呼ばれた時代に遡る。
世は混沌とした戦乱の時代だった。大名たちは勢力を拡大するために覇を競い、武士ではないものたちまで武器を取り、争った時代だった。古くから想術師は存在していたが、その時代の想術師もまた、戦乱の世に翻弄され、戦いに利用される者もおり、統制が取れていなかった。だからこそ、強大な傀異が世に放たれてしまうことになる。
佗汰羅と呼ばれる傀異―――風牙、其許は知っているな。其許の心に巣食う存在だ。その傀異は、数々の大名たちによって秘密裏に信仰されていた戦神であり、勝利と戦う力を授けてくれる存在だった。佗汰羅は、戦いが起こるたびにその力を増していった。人間をそそのかし、争いを引き起こし、いつの日か戦神ではなく、人間を扇動する悪魔となっていた。
当時の想術師たちは、佗汰羅の存在を何とか抑え込もうと、あらゆる戦力を以って何度も挑むが、強大な力と信仰する者たちの手によって阻まれた。
当時の想術師たちは、佗汰羅に頭を悩ませていたが、ある時、果心居士と名乗る想術師の出現により、事態が変わる。彼は単身で佗汰羅が操る巨大な勢力に挑むと、一日のうちに佗汰羅を無力化したという。だが、強大だった佗汰羅の力を完全に消すことはできず、いずれ復活してしまう。そこで、彼の考えた封印方法を実践することになる。
人柱を用意すること。佗汰羅は当時、日本中に存在したどんな傀具にも封印できなかったため、波長の合う人間に傀玉化した佗汰羅を埋め込み、それを地下深くに敷設した封印術式により封印するしかなかった。
果心居士はその術式を一人で組むと、封印してしまった。その時、人柱となったのが、功刀家の開祖で下級武士だった、功刀藤次郎だった。果心居士は封印が盤石ではないこと、人間が争う限り、佗汰羅は必ず力を取り戻すこと、そしてそれが数百年後であり、その時藤次郎と同じ肉体を持つ者の中から新たな人柱を選出しなければならないことを言い残して姿を消す。
功刀藤次郎の子孫たちは果心居士の言ったことをすべて書き起こし、封印されている藤次郎の身体から漏れ出す傀朧を管理するため、屋梁落月という町を造る。そして果心居士の言いつけ通り、来たるべき人柱の代替わりを盤石にするため、一族に呪いを設けた。それにより、功刀家の子孫たちは人間離れした肉体性能を持つ代わりに、一人しか子ができず、またその子を産んだ妻は子が生まれてから十年で死ぬ――――――。
これが功刀家の運命だ。
そして五百年経ち、佗汰羅の器として其許が生まれたのだ。其許が生まれて五歳になるころ、〈十二天将〉が動き出すことになる。佗汰羅を適切に封じなければ、再び世の中が混乱し、人間が争いに巻き込まれることになる。だからこそ七年前、〈十二天将〉は其許を確保しようと功刀家に干渉してきた。適切に代替わりを進めるためだと言って。
だが――――――それは、偽りだった。
今、其許が巻き込まれている浄霊院家を取り巻く騒動。そこに、佗汰羅という傀異は重要な役割を果たす。〈十二天将〉たちが目指す、世界の再編、人類の進化計画に、佗汰羅の力を利用する計画だったのだ。
私はそれを知っていて、止めようと裏で動いていた。そして、友であった其許の両親に、伝えてしまった。思えばそれが、悲劇の始まりだったのかもしれぬ。|二人は、何としても其許を救おうと動き出す。だが間に合わず、其許を隠そうとした矢先、〈十二天将〉に見つかってしまった。私が駆け付けた時には、雷牙、楓共に重傷を負っており、手の施しようがなかった。
私たちに残された最終手段、それは其許が器として覚醒するのを遅らせること。器として大成するためには、佗汰羅が精神を乗っ取ることが必須だ。だから二人は、命を賭して其許の心に精神体となって入り込み、その隙を無くす決意をした。だが、その事実を其許が知れば、拒絶され、術が失敗してしまう。あえて私に殺されたと思わせたのは、術の発動を支援するためだった。
私は、二人がどれだけ其許を助けたいと思っていたかを知っていた。だから其許の目の前で、二人に止めを刺し、傀朧となった精神を其許の心の中に宿らせた。だからこうして、精神世界で話ができる。
だが二人の傀朧は有限だ。七年で佗汰羅を抑え込めなくなってしまった。
結果として、事件は私の所為にされ、真相は有耶無耶になった。其許は器として完成することなく、深い悲しみと絶望の中で、私を追うことになった。
これは、こうなることを止められなかった私の罪だ。だから、其許は私を殺す権利がある。私もそれに従うつもりだ。
★ ★ ★ ★ ★
語り終わった紅夜は、深く息を吐き出した。風牙の両親は黙って話を聞いていたが、語り終わった紅夜を見つめ、申し訳なさそうに俯く。
「以上が功刀家と、浄霊院紅夜の乱、などと呼ばれた事件の真相だ」
話を聞き終わった風牙は、目を泳がせてしばらく黙っていた。
話された内容を全く受け止められなかった。聞けば聞くほど、混乱が広がる。
皆が押し黙り、長い沈黙が訪れる。
沈黙を破ったのは、風牙の震える問いかけだった。
「何で……とうちゃんとかあちゃんと、お前が……」
「私と二人は、十五年前に偶然出会った……というよりも、私が二人に助けられた。路頭に迷い、屋梁落月にやってきた私を、二人は温かく迎えてくれた。それが出会いだ」
「俺は……お前のことなんて、何一つ知らねえ……」
「私の身の上が、想術師協会と対立する立場であったが故、二人には私のことを誰にも話すなと言ってあった。それがたとえ、家族であっても、二人は約束を守ってくれたのだろう」
雷牙は歯を食いしばり、楓は悲し気に風牙の手を取る。
「私たちはあなたを助けるために、あらゆる情報を集めていた。そしてその中で、あなたを助けることのできる方法を見つけた。古い文献に記載され、かつて強大な傀異を封印したとされるその方法……放浄の儀と呼ばれる術式」
「〈放浄の儀〉……」
聞いたことのある響きだと、風牙は思った。だが、それがどのような術なのかは皆目見当もつかない。
「〈放浄の儀〉は、二つの巨大な傀朧元を使って行う術式だ。片方の傀朧を使用し、片方の傀朧を解放することで、傀朧を相殺浄化できる術……」
「ああ。だけどな、〈十二天将〉のヤツらも同じことをしようとしてたんだ」
紅夜が静かに風牙の傍に近寄って来る。警戒する風牙に向かって着物をめくり、胸元を見せる。
そこには、夜空のように輝く傀玉が埋め込まれていた。
「……それは」
「本当は、私の傀玉を使う予定だった。だが、〈十二天将〉に先回りされ、私が現れる前に街は焼かれ、雷牙と楓は襲撃されてしまった。その理由が、今まさに起きている浄霊院家を取り巻く事件と深く関わって来る。
〈十二天将〉は、咲夜の中にある傀朧を用い、佗汰羅の持つ強大な傀朧を解放してその傀朧をすべての人間の元へ解き放つ。そして佗汰羅の持つ戦う力を与える術によって、人間に無理やり想術を発現させることで、傀朧に適応できる人間の選別を行おうとしている。これが、浄霊院家が千年従ってきた予言の結末だ。浄霊院家はこの選別を実現するために、〈十二天将〉によって裏から操られていたに過ぎない」
風牙は意識を失う前に見た、厳夜の辛そうな表情を思い出す。
「じゃ、じゃあじいさんは……」
「私と厳夜について……手短に語ろう。私たちは兄弟だが、血は繋がっていない。私は幼い頃、〈十二天将〉と浄霊院家の秘密を知ってしまい、〈十二天将〉に消されかけたところを厳夜に救われた。その時厳夜に、命を繋ぎとめるためこの傀玉を埋め込まれた。この傀玉は、〈十二天将〉の一角、天空のものだ。これによって私は半分傀異化し、このように老化することなく疑似的な朧者となった。
そしてその時から、私と厳夜の計画が始まったのだ。
厳夜と私の目的は、この人類の選別を何としても阻止すること。そして、厳夜は咲夜を、私は風牙、其許を救うこと。そのためには、どんな手段を用いてでも成し遂げる覚悟で、お互いに違う世界から行動を始めた。様々な準備と障害を乗り越え、五十年経ち、とうとうその時が来た。其許は器として覚醒し、咲夜は朧者として安定するこの時に、〈十二天将〉は〈放浄の儀〉を行おうとしていたのだ。だから私は其許が浄霊院家に来るように仕向け、浄霊院幾夜という架空の敵を創り、〈十二天将〉を欺いて、〈放浄の儀〉までにあらゆる準備を行った」
その時、白い空間が揺らぎ、大きなひびが入る。風牙は頭を押さえ、膝をついてしまう。
「時間か……其許の中にある、我々三人の傀朧が尽きかけている」
「ま、待ってくれよ! 何が何だか……」
「分らぬのも当然だろう。だが、これだけは言える。厳夜と私は、其許を助けるためにずっと準備をしてきた。もちろん、他の者たちも」
「他の者って……みんなは!? 死んじまった奴らだって……」
紅夜は風牙の目をまっすぐ見つめる。
「救える。そしてすべてを創り直せる」
その言葉に、風牙は目を見開く。
紅夜は申し訳なさそうに雷牙と楓を見つめ、謝罪する。
「済まなかったな、雷牙、楓」
「大丈夫だ。あんたの術で風牙の中にいられたんだ。感謝してる」
「ええ。それに……」
風牙は、二人の身体が淡く光り出していることに気づく。慌てる風牙に、二人はそっと歩み寄って両側から抱きしめた。
「もう一度、言える」
「ああ。そうだな」
二人は息を吸い、風牙の顔を見て笑いかける。
「愛しているぜ、風牙」
「愛しているわ、風牙」
涙をこらえ、必死に笑顔を作っていた二人を見て、風牙の目から涙が溢れた。
温かい――――――その温かさが、壊れかけていた風牙の心に染みわたる。
「きっとこれからも、酷く辛いことがある。挫けそうになることもある。だけど忘れないで。あなたは強いのよ風牙。自分の意思を信じて貫き通すことのできる力を持っている。私たちは、あなたがどんな選択をしても、あなたの味方だから」
「おう。だからよ、風牙。佗汰羅なんかに、負けんじゃねえぞ」
雷牙は二ッと笑い、拳を突き出してくる。その姿勢は、風牙が憧れた父そのものだった。風牙はその拳を、ぎゅっと握りしめる。
紅夜によって語られた内容は、正直しっくりと来ていないし実感はない。だが、両親に会えた。そして自分は、これまでずっと孤独ではなかったのだ。これまで自分が佗汰羅に侵食されなかったのは、両親が守ってくれていたから。それがわかっただけで、風牙は立ち上がれるような気がした。
「俺は、功刀家のかくんを守るぜ、とうちゃん」
風牙は雷牙と拳を合わせ、同じようにニッと笑う。
「だからさ、ずっと見ててくれ」
消えゆく二人の身体を見て、悲しみが込み上げてくる。
――――――行ってほしくない。ずっと一緒にいたい。
ふと、手を伸ばそうとしてしまう。だが、先ほどの紅夜の言葉で、風牙はやらねばならないことができた。
「俺にしかできないことをする」
「ああ。お前にならできるぜ風牙!」
「ずっと、見守ってるから」
だからこそ、風牙は二人を笑顔で見送った。二人が守ろうとしてくれた自分の命を、無駄にすることは絶対にしたくない。胸を張って、生きていきたい。
「ありがとう。とうちゃん、かあちゃん」
二人の身体が白い空間に溶けて消える――――――風牙は拳を握りしめると、まだ消えていなかった紅夜に問いかける。
「……どうすればいいんだ。みんなを救う方法を教えろ」
「まずは、故郷の屋梁落月へ向かえ」
紅夜はそう言い残すと、壊れていく白い空間から消えてしまった。
故郷に戻る。故郷には祖父もいる。紅夜の語った話が本当なのかについても、確かめる必要がある。
しかしまだその前にやるべきことがある。
「じいさん……俺、酷いことを言っちまった」
空間が壊れると同時に、風牙の意識が覚醒する――――――。




