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ドラゴンと姫の物語

 それからの十数日間、ボクらは何をするでもなく過ごした。

 山の中を歩いてみたり、また野原に行ってみたり、村で食べ物をもらってきたり、料理をしたり、魔法の練習をしたり。

 ボクが集中して文字の勉強をしている時にはミネも本を読んで過ごした。

 ミネのする話のほとんどは山のことだった。

 山には季節があって暑い時と寒い時がある。

 これから山はどんどん暑くなるらしい。

 つまり今は春から初夏に変わろうとしている時期だということだ。

 村はこれからの時期、畑や田んぼの仕事が始まるので忙しくなるらしい。

 ボクは充分な勉強時間がとれたおかげで、まだゆっくりだけれどミネの本に書いてある内容が読めるようになってきていた。

 ミネが実家から持ってきていたのは料理の本がほとんどだったけど、その中にちょっと古びた絵本があった。


「これって?」

「あー、その絵本ね。私の好きな話なの。」



——ドラゴンと姫の物語。

 それはこんな話だった。



 昔々あるところにドラゴンがいました。

 ドラゴンはいつも威張っていて、炎を吐いては森や畑を焼いて人々を困らせていました。

 しかし誰にも空を飛ぶドラゴンを捕まえることはできません。

 そんなドラゴンにも大好きな女の子がいました。

 お城に住んでいるお姫様です。

 ドラゴンは小さい時に怪我をして動けないでいるところを、お姫様に助けてもらっていたのです。

 ドラゴンはどんなに悪いことをしても、お姫様の住むお城だけには手を出しませんでした。

 それどころか毎日どこからか採ってきた花をお姫様の部屋の窓の前に置いていたのです。

 ある時、そのお姫様が隣の国の王子と結婚することになったことをドラゴンは知りました。

 ドラゴンはお城に乗り込んでお姫様に言います。


「ずっと好きだった。俺と一緒に来い。」


 ドラゴンは乱暴な言い方しか知りません。

 当然、お姫様は首を横に振りました。


「どうしてだ!」


 逆上したドラゴンはお姫様を無理矢理さらってしまいます。

 それからのお姫様はドラゴンの寝床で泣いて暮らしました。

 ドラゴンがどれだけ花を持ってきて飾っても、ドラゴンがどれだけの食べ物を盗ってきて与えても、ドラゴンがどれだけお姫様を慰めようとしても、お姫様の涙は癒えませんでした。

 やがて、お城からドラゴン討伐のための騎士たちがやってきます。

 ドラゴンは必死に抵抗しましたが、炎は魔法で防がれ、自慢の羽根は切り落とされ、ついにドラゴンは首を落とされてしまいました。


「あの時のドラゴン……、可哀想に……。」


 お姫様はドラゴンのことを憶えていました。

 部屋の窓の前の花のことも知っていました。

 お姫様はドラゴンのためにお墓を作りました。

 お姫様の涙はドラゴンのために流されていたのです。

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