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ボク、入学する

 僕らが乗った馬車は、ボクの背丈の三倍は高さがあるレンガの塀と重く閉ざされた鉄の門の前で止まり、僕らはそこで降ろされた。


「ここが魔法女学校の入り口?」

「そうよ。ここからは許可を得た者しか入れないわ。」


 ルカが扉の前で手をかざすと鉄の門はボクらを歓迎するかのように左右に開かれた。


「さっきから凄いことばっかり。」


 ミネが目の前で次々と見せられる魔法に感心して言う。


「二人とも、ついてきて。」


 ボクとミネはルカの後について門の中に入った。

 門から一歩踏み入れると急に景色が開けて目の前にお城のような校舎が現れた。

 周囲を見渡すとさっきまであった高いレンガの塀も見当たらない。

 青々とした芝生のそのずっと先には緑の生い茂る森があって、空が果てなく続いている。


「ここからは外とは別の空間になってるの。」


 校舎の周囲には杖を持った若い女の子たちが何人かいる。

 きっとここの生徒だろうなとボクは思った。

 ルカはそのまま校舎に入って階段を上り、迷うことなく真っ直ぐに最上階の奥の部屋の前まで案内してくれた。


「ここが校長室。」


 ルカが部屋の扉に触れると扉に描かれた猫のような犬のような生き物の目が光る。

 そして、ゆっくりと扉が開かれた。



「やあ、ルカ君。待ってたよ。」


 校長室の中にいたのは、ポニーテールに髪をまとめてスラリとしたスラックスとスーツを着て眼鏡をかけた背の高い女性だった。

 女性は机の前に立って、片手に書類、片手にティーカップを持っている。


「校長先生。この度はご機会をいただきありがとうございます。」

「ふふふ。ルカ君がまたうちを頼ってきてくれてうれしいよ。だいぶ丸くなったのかな? あの学年は本当に問題児ばかりだったからなぁ! マリン君にも最近会ったんだって!? よく二人の声がこの部屋まで響いていたよ! そういえばあの時も……。」

「い、今は昔のことはいいじゃないですか!」


 ルカが校長先生と呼びかけたその女性は、ヘラリと目尻を下げて笑顔を浮かべるとルカと話せて嬉しいとばかりに昔のルカたちのことを話しはじめたが、顔を真っ赤にしたルカが話を遮った。


「ああ、そうだった。今日は客人もいたのだった。……君がリョウ君だね。初めまして。」

「あ、はい。初めまして。僕はリョウで、こっちがミネです。」


 僕らはペコリと頭を下げた。


「話は聞いてるよ。珍しいドラゴンの憑依者だね。歓迎するよ。うちは憑依者の卒業生も多いからね。残念ながら今は在籍者はいないけれど。」

「ありがとうございます。」

「ただし、入学には一つ条件があるよ。」

「条件ですか?」

「そう。ここは魔法女学校だからね。君には女の子になってもらう必要がある。」

「え!? 女の子になるって……そんなことできるんですか!?」


 ボクは耳を疑った。

 けど、そうか、この世界には性別を変える魔法があるんだ。

 それならボクは元の世界に戻らなくても女に戻ることができるってことなんだ!

 それは想像もしてなかった!


「君は魂は女の子。そうだよね?」

「はい、そうです。戻れるなら戻りたい。」

「うんうん。それなら問題は無いと私は判断したんだよ。」


 ボクは一気にすべての問題が解決したような気持ちになった!

 これが魔法なんだ!


「よし! それじゃさっそくだけど……、うーん……、お、その剣! 魔法剣だね。それに性転換の魔法を入れよう。それでその魔法剣を持っている間は女の子に変わるようになる。」


 校長はボクが持っていた眠りの魔法が入っている魔法剣を受け取ると、絵筆ほどの棒を取り出し魔法をかけた。

 どうやらあの棒が校長の魔法の杖らしい。

 魔法の杖にもいろいろな大きさがあるようだ。


「できた! さあ、これを持ってみて!」


 ボクは校長から渡された魔法剣を持って魔力を込めた。

 するとすぐに体に変化が起こりはじめた。

 目に見える変化では胸が膨らんで、体のバランスも変わったのか、ところどころ服がキツかったり緩かったり少し合ってない感じの違和感がある。


「お、いいね。可愛いじゃないか!」

「凄い。リョウが女の子になっちゃった……。」


 魔法剣の刃に鏡のように自分の姿を映してみる。

 そこに映るボクの顔は、髪の色は紫のままだけど、完全に元の世界のボクの顔になっていた。

 体も完全に女だ。


「やった。」


 ボクは思わず呟いた。

 女に戻ったボクの姿を見たミネは複雑そうな顔を浮かべていて少しボクは胸がいたんだが、ミネは


「よかったね、リョウ。」


と言ってくれた。


「剣に入ってた眠りの魔法は消しちゃったけど大丈夫だね。もしも性転換の魔法が魔法剣から消えることがあったり他の魔法道具に換えたい時はまた言ってね、入れ直してあげるから。あとこれは個人的なお願いだけど、実は私自身、憑依者の魔力の秘密について研究しているんだ。協力してもらえたらと思うんだけどいいかな?」

「あ、はい。ボクに出来ることなら。」



 学校で必要なものは後日届けられるということで、僕らは校長に何度もお礼を言って部屋をあとにして、ルカと一緒に学校の事務室に向かった。

 ボクは事務室で簡単な手続きをして、住む部屋を紹介してもらうことになった。

 ボクはミネと二人で住むので部屋は学校の敷地の外で探すことになったが、ボクの中央王国民の証のおかげですぐに見つかった。


「本当にありがとう、ルカ。」

「まだ大変なのはこれからよ。頑張りなさい。」


 これから待ち受ける魔法の勉強は大変だとは思うけれど、それよりもボクは新生活と自分の本当の姿を取り戻せたことに浮かれていた。

 楽しい学校生活が始まるぞ!

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