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ドラゴンVS熊!

 川辺でお弁当を食べ終わり、ミネに連れられて広い野原を歩き回る。


「あの木は暑い時期が終わると実がなるよ。」


「あ、バライが飛んでるね。もうそんな時期なんだー。」


「あっちに行ったらリップの花が咲いているかもしれない。」


 ミネは野原に生えた木々や花や、空を飛んでいる虫のような生き物を指さしたりして、ボクにいろいろ教えてくれようとしているみたいだった。

 ミネが見せてくれる草木や生き物の名前は初めて見たり聞いたりするものばかりで全然わからなかったけど、どことなくボクがいた世界と似てるところがあるなと思って受け入れかけていた。



 ボクらは野原の端まで歩いてきて、そろそろ戻ろうかと話した。

 これより向こうは森になっているようだった。

 ボクらが来た道の方に少し引き返した時、ガサリガサリと後方で音がしたので、ボクは振り返ってそちらに注意を向けた。

 森の木々を掻き分けて何かが動いてる。


「え? 森の方?」


 ミネもそちらの方を見た。

 そこにいたのは黒い大きな塊。

 四本の足で地面を踏んでゆっくりとこちらに歩いてくる。

 ボクはそれが熊だとすぐわかった。

 ボクはミネの方を見た。

 ミネはボクより少し後ろを歩いていたので、ボクよりも熊に近い。


「あ、あれは……、魔物グリズリー! なんでこんなところに!?」

と、ミネが叫んだ。

 魔物?

 熊じゃないのか?

 とにかく、あの熊に走って向かってこられたらまずい。

 ミネをゆっくりとこちらに下がらせないと。


「ミネ、あいつから目を離さないで、ゆっくりこっちにおいで。」


 ボクは昔ユーチューブで見た、もしも熊に出会った時の対応方法をなんとか思い出そうとしていた。

 たしか走って逃げちゃダメで、できるだけ動かないようにして、相手が去るのを待つ、だったっけ?


「ダメ。魔物グリズリーは必ず人間を襲う。普通は大人たちが数人がかりで退治するんだよ。はやく逃げなきゃ!」


 ミネがそう言うよりも早く熊はもうこっちに全速力で走ってきていた。

 今から走って逃げたって絶対に追いつかれる。


「くそー、やるしかないのか。」


 ボクは……ボクはドラゴンだから、ドラゴンの姿になれば熊と戦えるかもしれない。

 でも人間の姿になったのだって自分の意思じゃないし、はたしてこの状況でドラゴンになれるだろうか?

 変われ、変われと思っても、全然ドラゴンに変わらないよ!

 でもとにかくミネを守らないと!

 ボクはそのまま走って熊に向かっていった。


「リョウ!」


 ぐぇ!!

 熊はボクを体当たりで突き飛ばす!

 痛い!

 地面に転がるボク。

 熊はボクの方を向いている。

 熊の向こう側にミネが見える。

 ミネが近い。

 やばい。

 ボクが注意を引きつけなければ。

 ボクは立ち上がって再び熊に向かっていく。

 しかし、熊はボクには興味を失ったかのようにボクから目を逸らしてミネの方を向いた。

 この熊野郎!

 ふざけるなよ!

 次の瞬間、ボクの体が急激に大きくなっていくのがわかった。

 視線はあっという間に熊の真上になって、ボクはドラゴンの右手で熊を横から払って吹き飛ばしミネから遠ざける。


「リョウ! 炎を使って!」


 ミネがボクに叫ぶ。

 炎?

 ボクは熊に向かって息を吹きかけてみたが炎は出ない。

 どういうこと?


「ミネは離れていて。」


 ドラゴンの姿になって余裕が出てきたボクはこの熊をどうするべきか考えていた。

 さっきミネはこいつは魔物で人間を襲うと言った。

 普通は大人が数人がかりで退治するのだと。

 それならば今ここでボクがこいつを退治できるなら退治した方がいい。

 ドラゴンのボクの姿を見た熊は明らかに戦意を喪失して逃げ腰になっている。

 逃げられる前にやらなければと思い、ボクはドラゴンの体をせいいっぱい跳躍させて熊の上に覆い被さった。

 抵抗する熊の爪も牙もボクの体に傷をつけることはできなかった。

 ボクはドラゴンの爪を熊の喉元に突きつける。

 爪はズブズブと熊の肉に入り込んでいく。

 熊の口からはひゅーひゅーという音とともに泡のような血が溢れ出てくる。

 ボクは傷口を広げるように爪を立てて横に引いた。

 次第に熊の体から力が抜けて抵抗はなくなっていった。

 動かなくなった目の前の熊の体が、黒い霧のようになって消えていく……。


「え!?」



 熊が消えた後、避難していたミネがボクの方に戻ってきた。

 でもボクは少しの間そのままの体勢で動けなかった。

 ドラゴンの体もボクの精神状態も、初めての戦闘で昂ぶっている。


「助けてくれてありがとう。リョウは強いね。」


 ミネがボクの顔に触れる。


「もう、元に戻っていいよ……。」


 ミネはドラゴンのボクの大きな頭を、自分の胸にうずめるようにした。

 ボクの心臓のドキドキが徐々にゆっくりになって、ミネに触れてもらって気持ちが落ち着いていく。

 興奮が収まったボクは目を閉じて深呼吸をした。

 ミネの体からいい匂いがした。

 気付くとボクは人間の姿に戻っていた。


「魔物グリズリーが現れたことは村に報告しなきゃ……。」

「魔物って何なんなの? この世界は平和な世界じゃないの?」


 ミネは少し困った顔をした。


「私たちも魔物が何なのかはわからないよ。でも魔物は見ればすぐわかる。普通の動物とは違う。魔物は体の残る動物と違って死ぬと霧になって消えてしまうの。」

「そして人間を襲うのか。」

「うん。」


 せっかく楽しい雰囲気だったのに。

 ボクらはすっかり気分が落ち込んで家に帰った。

 用意もなくドラゴンになって服を失い、裸になってしまったボクは肌寒かったのもあった。

 でも、ボロボロに破けた服だった布をギリギリ腰に巻けたのでセーフだと思う。


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