大騒ぎ
ボクとミネが、同じ宿屋に泊まっているというプリンを訪ねるために宿屋に戻ると、いつものこの時間ならどっしりとカウンターに座っている宿屋のオバサンが見当たらないことに気付いた。
「オバサンにあの二人のこと聞こうと思ったのにね。どこ行ったんだろう?」
ボクらがオバサンがいないことを訝しく思っていたところ、二階の方からドンドンドンドンと何かを叩くような音が聞こえたので、ボクらは二階に上がった。
「オバサン?」
二階に上がると箒を持ったオバサンが手前の部屋の前で、鍵を取り出してドアを開けようとしているところだった。
「私の宿で何やってんだい、あんた! 私には全部聞こえてるんだよ!」
オバサンはボクらには気付かず、勢いよくドアを開けて部屋の中に入っていった。
オバサンの後ろから部屋の中を覗いてみると、ベッドの上に大きなピンク色のブタがいるのが見えた。
「何、あれ!? ブタ?」
「あれは……、魔物ブートンだ。私も図鑑でしか見たことがないよ。」
「ブートン……。」
部屋の中を見渡すと見たことのある杖が置かれている……。
ここって、もしかして魔法使い達の部屋じゃない?
「ミネはボクの後ろに隠れて。」
ボクにはただのブタに見えるけれど、あれは魔物なのだから警戒しなければならない。
ボクはいつでもドラゴンになれるように覚悟を決めた。
……本当は屋内でドラゴンになりたくはないんだけど。
「出ていきな!」
オバサンが果敢にもブタに、持っていた箒で殴りかかる。
「ブヒィ! や、やめてくれぇ!」
ブタが箒の打撃から逃れようとベッドから転がり落ちた。
今、ブタが喋ったの!?
魔物だから?
魔物は喋るの?
「魔物が喋った!?」
ミネも驚いた声を上げた。
そうだよね、驚くよね。
ベッドの上で半裸になったルカがゲホゲホと咳き込んでいる。
ルカはブタに襲われていたのだ。
「これはどういう状況なの?」
ルカはボクの問いに答えられるような状況では無さそうだった。
オバサンがルカに毛布をかけ、ブタからルカを守るように立った。
ブタが、部屋の入り口に立っていたボクらの方を見た。
「ドーラーゴーンー! お前の仕業かぁー?」
「え?」
「唾液を買ってやっただろぉ? 恩を仇で返しやがってぇ。」
「もしかして、プリン?」
そうか。
ボクの体が元々は魔物ドラゴンだったように、プリンは元々は魔物ブートンだったということか。
でも、なんかキャラが違うじゃん!
「許さんぞぉ! 強化魔法だぁ!」
ブタの体が光る。
するとブタの体が更に大きく膨らみ始めた!
みるみるうちに部屋の天井に届くほどの背丈になり、ブタの膨張はまだまだ止まらない勢いだ。
「な、なんだい!? 何をしてるんだい!?」
オバサンが慌てている。
「外に出よう!」
ボクとミネはオバサンと一緒にルカを支えながら部屋の外に出ようとした。
しかしブタも身動きを取りづらくなった部屋の中でボクらを捕まえようと動く。
ボクはこのままだと宿屋の外まで逃げるのは難しいと思った。
あの大きさの魔物に捕まったら怪我では済まないかもしれない。
「ミネ、二人を頼んだよ!」
ボクはミネたちが廊下に出たことを後ろで確認してブタの前に立ち塞がり、服を脱ぐ間もなくドラゴンへと変身した。
バキバキバキと大きな音と共にドラゴンの体が部屋の屋根を突き破る!
ボクは力一杯ブタに体当たりして壁ごとブタを突き飛ばした!
ブタは隣の家の屋根を転がり大通りに落ちたみたいだった。
大通りの方からキャーとかワーとかという悲鳴が聞こえてくる。
ボクはブタを追って大通りの方に向けて飛んだ!




