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お仕置き

 ルカは宿の部屋の窓際に置かれた机の前で椅子に座り、外を眺めていた。

 窓から見えるのは街の家々の屋根と薄青色の空。

 ルカの憂鬱な気持ちを露知らぬ街の風景を見るとため息が出る。

 ルカはまだドラゴンの力の奪取を諦めるつもりはなかった。

 最初はプリンとペアでドラゴンを捕獲し魔女に引き渡すだけの任務だったが、ドラゴンが人間の姿になっているなど千載一遇のチャンスを逃す手は無い。

 あの少年からドラゴンの力を奪い自分の魔力に上乗せすれば、魔女の呪縛からも逃れることができると思っていた。

 問題はどうやって再び少年の自由を奪いその力を搾り取るか……。

 次は警戒されるに違いない。

 同じ手は通用しないだろう。

 初手でドラゴンになられたら勝ち目は無い。

 プリンの協力は不可欠だ。

 しかし、プリンはあの少年を諦めて他のドラゴンを探そうなどと言っていた。

 本気だろうか?

 ルカの思考は堂々巡りになって、一向に答えを導けずにいた。



「ルカちゃん、また考えごとですかぁ?」


 どこかに行っていたプリンが部屋に戻ってきた。

 ルカはプリンのこのしゃべり方があまり好きではなかった。

 ルカがプリンとペアを組んだのは今回のドラゴン捕獲任務が初めてになる。

 そのため、ルカはプリンが憑依者で魔女の元で働いて長いということは知っているが、それ以上のことはよくわかっていなかった。


「お茶とお菓子を持ってきたので一息つきませんかぁ?」

「……ありがとう。」



 プリンはよく食べる。気付いたら何か食べているし、大きな荷物の半分は食べ物らしかった。

 ルカはプリンが持ってきたお菓子に見覚えがあった。

 この街に着いた時に目に付いた土産屋にあったお菓子だ。


「まだ、あのドラゴンさんを狙うつもりなんですかぁ?」

「そうよ。」

「私はぁ、あのドラゴンさんは私と同じ転生者なのでぇ、できれば見逃してあげてほしいなぁって思うんですけどぉ。」


 憑依者は、何故か自分たちを転生者と呼ぶ。


「……。」


「魔女様の命令はどうするんですぅ?」


「……。」


 もしも自分が魔女を裏切るつもりだと打ち明けたらプリンはどう反応するだろう?

 ルカはそれも計りかねていた。

 ここ数ヶ月のプリンの様子だと、プリンはそれほど魔女に忠実なようには見えないのだが……。



「ルカちゃん……。」


 いつの間にかルカは意識にモヤがかかったようにボーッとしてしまっている自分に気付いた。

 身体の内側から掻きむしるような気持ちが昇ってくる。


「ルカちゃん、効いてきましたぁ?」


 プリンはルカの顔を覗き込んで聞いた。


「あなた……、何をしたの?」

「さきほど、ドラゴンさんと取引したんですよぉ。これですぅ。ドラゴンの媚薬。ドラゴンさんに唾液をもらって、私が精製しましたぁ。」


 プリンは隠し持っていた小瓶をルカに見せた。


「まさか、私が飲んだお茶に?」

「そのまさかですぅ。」



 プリンはぐったりとしたルカをひょいと持ちあげるとベッドに運んだ。


「ルカちゃん、この間、魔女様を裏切ろうとしましたねぇ。悪い子にはお仕置きしなきゃいけませんねぇ。ヒヒ♡」

「何する気なの……?」

「ルカちゃんは可愛いしぃ、優しいからぁ、すぐ好きになりましたぁ。ずっとこうしたかったんですぅ。ヒヒヒ♡」


 プリンはルカの顔を舐めた。

 ルカは手でプリンの顔を押しのけようとするが腕に力が入らない。

 プリンは持っていた小瓶の残りを口に含んだ。


「お口の中をかき混ぜちゃいますよぉ。ブヒヒ♡」


 プリンの舌がルカの口の中に侵入し、ぐちょぐちょと音を立てる。

 プリンの口から溢れた涎がルカの首筋をつたう。


「お服が汚れちゃうから脱ぎ脱ぎしましょうねぇ。ブヒヒヒ♡」

「や、やめて……。」

「今さら恥ずかしいんですかぁ。一緒にお風呂に入って洗いっこしたこともあったじゃないですかぁ。私のしっぽを可愛いっていってくれたでしょぉ? ブヒッ♡」


 プリンはさっさとルカの上半身の服を脱がしてしまうとその素肌に舌を這わせた。


「はぁー! ルカちゃん舌触りが最高ですぅ! ブヒヒーー♡」

「いやぁ!」


 ベロベロとルカの体を舐め続けるプリンの体が徐々に大きくなる。

 ブヒブヒと興奮したプリンの体はついに五倍くらいの大きさになった。

 プリンの背中はピンク色の細かい毛に覆われ、腕も足も太くなり、頭にはすこし垂れた動物の耳。

 顔は見る影もなく、不格好な大きな鼻がルカのお腹の上を這う。

 プリンは完全にブタに変わってしまった。

 プリンはブタの魔物の憑依者だったのである。



 ルカも思うように動かない体で必死に抵抗を試みていた。

 しかし、渾身の力で蹴り上げた脚をなんなく掴まれてしまい、逆にそのまま自由を奪われてしまった。

 プリンはルカの両足を持って、その股の間に顔をうずめようとする……。


「ルカちゃん、おいしいぃぃ! おいしいぃぃ! ブヒヒヒヒヒヒヒーーー♡♡」

「ダメェ……!」


 プリンがその長くなった舌で、舌なめずりをしたその時……、

コンコン!

と、ドアをノックする音がした。

 その音はドキリとするくらい部屋の中に響いた。


「たすけ……!」


 声を上げようとしたルカの口をとっさにプリンが塞ぐ。

 プリンはルカを押さえつけ、物音を立てないようにじっと息をひそめた。

 コンコンコン!

 またノックの音がした。

 明らかにこの部屋に用があるようだった。


「んんんー!!」


 ルカが抵抗をするが、プリンに口を塞がれ、おそらくドアの外には聞こえていない。

 ドンドン! ドンドン!

 聞こえていないはずなのに、ドアを叩く音は次第に強くなっていく。

 プリンはこのまま居留守でやり過ごしそうと思っていた。

 せっかくのルカとの楽しい時間を邪魔されたくなかった。



 やがてドアを叩く音は止んだ。

 そして再び部屋の中にシーンとした静寂が訪れた。

 フゥと、プリンは知らないうちに止めていた息を吐いた。

 これで続きが始められる……。



 ガチャリ!

 急にドアの鍵が回された。

 バンッ!


「私の宿で何やってんだい、あんた! 私には全部聞こえてるんだよ!」


 勢いよく開かれたドアと共に部屋に飛び込んできたのは宿屋のオバサンだった。

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