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ボク、朝起きたらドラゴンに転生してる

 非日常は突然にやってくるもので、朝起きてもいつものように自分の部屋のベッドで目が覚めるとは限らない。

 目を覚ましたらフカフカの布団のベッドの上ではなくザラザラの藁の上で、いつもと違い仰向けではなくうつ伏せになっていて、目を開けて最初に見た光景は岩だらけの見たこともない洞窟の中で、自分の手がどう見てもトカゲのようなウロコで覆われている。

 厳つい指と鋭く伸びた爪。



 何が起こったのかわからなかった。

 まだ夢の中だったとしても理解を超えていた。

 ……いや、夢の中だったら現実的じゃない状態でも意外と疑問に思うことって無くない?

 夢の中で起きることって後で考えると変だってことでも、夢を見てる間はそういうもんだって信じてしまっているものだ。

 でも、今の状況は明らかにおかしいと自分で気付いていて、夢じゃないってわかっている。



 落ち着いて、落ち着いて、今の自分の置かれた状況を整理してみよう。

 手はトカゲ。

 その手で自分の顔を触ってみる。

 ……悲しい。

 絶対に人間の顔の形じゃない。

 首を動かして体を見てみる。

 お腹も足もトカゲだし、長い尻尾がある。

 この体はオスのトカゲか?

 いや、背中には……羽根!

 羽根がある!?

 ドラゴン!?

 これ、ドラゴンだ!


「ドラゴンになってる。」


 声が出せた。この姿でも喋ることはできるみたいだ。


 ガタン!!


 その時に、自分の後ろで音がした。

 振り返って見ると、自分のドラゴンの足の膝くらいまでの大きさしかない女の子が地面に座っているのに気付いた。

 音は女の子の隣に置いてあった燭台が倒れた音だった。

 女の子は、大きな目を見開いてこちらを見ていた。

 女の子の顔立ちは比較的整った十代の日本人の少女のようだと思った。

 薄く化粧をしているのがわかる。



 でも、違和感もあった。

 光る髪飾りをつけた彼女の髪の色はピンク色で、現実では天然でこんな色の髪の毛はありえない。

 女の子が着ている服は見たこともないような造形で、白くて綺麗な生地の布に、これまたキラキラと光る飾りがいくつも付いていて、まるで花嫁衣装のような特別な雰囲気を感じる。

 この子は誰だ?

 このドラゴンのことを知っているのか?


「君は……、ボク? オレ? のことを知ってるの?」

「いいえ、お会いしてお話をしたのはこれが初めてです。」

「君の他に、ボクと話をしたことがある人はいる?」

「……いません。そんな畏れ多いこと。」


 ボクは少し考えた。

 このままドラゴンとして振る舞うか、本当は人間だと言うか?

 ひとつわかるのは明らかにここはボクが居た世界と同じじゃない。

 ボクの世界の常識は通じない。

 まだ自分のおかれた状況がわからないから、自分が別世界の人間だと明かすことがおかしいのか、喋るドラゴンでいることがおかしいのか、それすらわからない。

 不安そうな顔でボクを見上げている少女をボクはしばし黙って見下ろして、別世界の人間であることはまだ言わないことを決めた。

 ……この女の子は無害そうだ。

 もう少し聞き出してみよう。


「君はここで何をしているの?」


「あ、あの、私、この山の麓の村の者です。ミネ、と言います。ミネは美しい音という意味です。この度は竜の花嫁に選ばれまして、こうしてドラゴン様のお目覚めをお待ちしておりました。これからあなたの妻として、お世話をさせていただきます。」


 妻?

 結婚?

 儀式?

 いや、生け贄みたいなものか?

 この子はボクの姿を見て怯えていた。

 普通はドラゴンに捧げられた生け贄なんて喰われて終わりだろうに。

 可哀想な子なのかな。

 幸いボクは生け贄なんて望んでない。

 しかし、ここは山の上なのか。

 洞窟の外の景色も見てみたいな。


「うーん。急にそんなことを言われても困るね。人間の女の子なんて、どうしてこのドラゴンのボクの妻になれると思うの?」

「ご、ごめんなさい。そうですよね。急に言われても、ご迷惑でしたよね……。」

「そんなことより教えて欲しいんだけど、村には何人くらいいるのかな? この世界ってボクみたいなドラゴンは他にもいる? 村以外にはどんな町があるの? 王様とかいる?」


「……。」


 ミネはボクの立て続けの質問に答えず、俯いて黙ってしまった。

 質問が露骨すぎて怪しまれたか?

 それとも村を襲うかもしれないと思われたかな?

 ボクはちょっと緊張した。

 初めての異世界で、初手から躓いてしまったかもしれない。

 この子の協力が得られないなら、ボクはこれからどうすればいいのかわからない。

 俯いていたミネは何か決心したかのようにボクを見て、精一杯の大きな声で言った。


「ドラゴン様! 私と友達から始めませんか!?」

「友達!?」

「そうです! いきなり妻じゃなくて、まずはお友達から始めましょう!」

「そっちの話か。まあ、友達になってもいいけど。」


 ボクは内心ほっとした。

 ミネもボクの返答を聞いてほっとしたようだった。


「改めまして、これからよろしくお願いしますね!」

「よろしくね。」


 これから少しずつミネと打ち解けていって、いろいろ聞ければいいかとボクは思った。



 ボクに受け入れられたと思ったのか、ミネは今までミネが座っていた場所と祭壇のような飾りを片付け始めた。

 よく周りを見てみると洞窟の隅に家具のようなものがあり、人が住めないこともないようになっている。


「ドラゴン様のお名前は、なんというんですか?」


「名前……、リョウ……。」

「リョウ様。どんな意味ですか?」


 名前の意味を聞かれるとは思わなかったので驚いたが、この世界では名前に意味があるのが当たり前なのかもしれない。

 そういえばさっきミネ自身も自分の名前の意味を言っていた。


「リョウは、涼しいって意味、かな。」

「いいお名前ですね! リョウ様! これからはリョウ様ってお呼びしますね!」

「いや、リョウでいいよ。友達になるんでしょ?」

「うん! じゃあこれからはリョウって呼ぶね!」


 敬語でも無くなってるけど。

 友達だからいいのか?

 ミネはいつの前にか花嫁衣装の白い服を脱いで動きやすそうな浴衣のような形の服に着替えていて、元気に洞窟の中の掃除を始めた。

 ここに住むつもりなのか。


「なんか、ドラゴンってもっと恐いって風に思っていたけれど、リョウは全然そんなことない。同世代の子と話をしているみたい!」

「そ、そうか?」


 威厳が無かったかな。

 でも、しょうがない。

 昨日までボクは普通の中学生だったんだから。

 あーあ、このまま寝て、朝また目が覚めたら戻ってるってことないかな?



 ボクは体を起こして洞窟の外を見てみようと思った。

 しかし、うまく力が入らなくてドラゴンの体を動かせない。

 ボクは冷や汗が出た。

 ボクがまだドラゴンの体を動かせないのをミネに悟られないようにしないと。


「お供えに魚をたくさん持ってきているからこれを食べよう。」


 ミネはこちらの様子には気付いていないようで、料理を始めていた。

 とりあえず、お腹を満たしたら一度寝てみよう。

 元の世界に戻れると願って。

 または夢から覚めると信じて。

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