深蒼に秘めし残忍
お待たせしました。明日か明後日に次話投稿予定です。
96話
「…………今だ!」
ローリーがアリスに、薄暗い建物へ連れ込まれた
タイミングを見計らい、剣闘士・デュランが駆け出し
た。
「あ、おい! アリスさんが治療中だぞ!」
その様子に気づいた1人が、待ったをかける。
「知るか。中はどうなってる…………」
デュランはそれを無視し、閉じた壁に耳を当て、
中の様子を伺い始めた。
「フンフフ~ンフ~ン。おっとぉ!」
『ドゴッ!!』
「カハッ!?」
建物内部では、アリスが移動を終えるや否や、
ローリーを石壁に背中から叩きつけ、目覚めの
気付け代わりにした。
「フフフ…………ここなら、どれだけ叫ぼうが、誰も
気付きません。思う存分、"診察"出来ますね~~♪」
「グスッ…………、私に病気なんてありません…………、
これ以上傷つけるのは、やめて下さい…………!!」
これ程の理不尽な虐待を受けたのだが、相手は
明らかな格上、態度次第では即座に殺されてしまう。
「あらあらぁ~~、何を言っているのかしら~~
?? 体内の怪我を治すには~~、身体の表面を切る
しか無いでしょう~~♪♪」
さりとて、懇願が通じる相手も、善意ある常識人に
限られる。ましてや、アリスは生粋のサイコパス。
苦しみから下手に出るような行動は、寧ろ彼女の
精神を刺激する結果にしかならない。
「イッ、イヤアアアアアアアアッッ!!!」
常人に理解不能な返しに、ローリーは錯乱を起こす。
「キャハッ! 手術中は、誰も入れませ~~ん♪
諦めて、穢れた身体を浄化しましょ~~~う♪」
「助けてえええええええっっ!!!!」
絶望を突きつけられ、深層心理で無駄と分かって
いながらも、助けを叫ばずにはいられなかった。
そう、アリスに狙われた時点で、ローリーの命は、
"詰んでいた"。
『バゴォン!!』
額にステッキを向けられ、拷問が始まろうとした
その時、斬り込みが入った扉が、豪快に蹴破られた。
「ふぇっ!?」
アリスには想定外の出来事だったようで、心底
驚いた様子で、扉の方を向いた。
『タン! ダン!』
『チャキ』
2度、何者かの踏み込みの音が聞こえたと思いきや、
自身とローリーの間に陣取られ、武器を構える音が
響いた。
「アリスさん、後ろの彼女に、何をしようとして
いましたか?」
デュランは冷や汗を流しつつも、毅然とした態度で
アリスに問う。
「あらあら、剣闘士のお兄さん。私は彼女の病気を
完治しようとしていたのですよ?」
満面の笑みでデュランに語りかけるアリス。
「だったら…………、何故、"手当て済みの彼女の顔"に、
ステッキを、向けたのですか?」
膨大な恐怖を覚えつつも、デュランは冷静に、追加
の質問を投げ掛ける。
「おいおい! お前何平然と聖女の慈善活動を妨害
してんだよ!」
「てか、剣向けるとかマジであり得ないんですけど!」
「天罰落ちるぞ!」
「ね~♪。この子ったらぁ、怖いもの知らず過ぎてぇ、
逆にキュンッ♪♪っとキちゃったワァ~~♪」
「いけません! 聖女様! このような者には、神に神罰
を求めなければ!」
「あなた様は、女王様に次いで神に近しいお方です!」
「どうか聖なる者としてのお自覚をお持ちください!」
彼に敏捷性で完敗し、遅れて入ってきた冒険者達が、
次々と彼を批判する。それを見たアリスは、冗談
めかした反応を見せ、これを受けて、冒険者達は
更にデュランへの天罰を希望する。
「へっ、そんなもの、落雷だろうが華麗に避けて
やるよ!(顔に反比例した凶悪すぎる殺気。間違い
ない、俺が退けば彼女は殺される!)」
対するデュランは、野次馬の批判に少しも怯まず、
挑発的な返事をして見せた。しかし、アリスに対して
は、降り注ぐ殺気を相応に警戒しており、彼女の
一挙一動に注意を払っている。
「逃げて下さい…………、私の、不注意が原因…………です」
その背後のローリーは、自分の巻き添えでデュラン
が死ぬことを防ぐため、逃がそうと声をかけた。
「それは絶対却下だ。この女に、ヒールで踏まれ、
転ばされ、手に爪を突き立てられた君に、落ち度が
1つもない事は明白だからね」
しかし、彼女の言い分に対しても、彼は確かな根拠
を元に、反する行動を選択した。
(そして、座り込んで震えている女の子に、ステッキ
を突きつけて殺気を放つ女。こんな状況を見過ごす
なんて、男が腐るだけだ! 何とかこの女の隙をついて、
この娘と逃げ切る!)
「あらあら…………、聖女を"この女"呼ばわりした
挙げ句、あることないこと吹聴するとは、おイタが
過ぎますわヨ?」
『『ゾクッ!!』』
アリスが、デュランの発言に腹を立て、放つ殺気を
強めた瞬間、C級の2人に悪寒が走った。
~ウァームタウン・木々の影~
「デュラン、順調に漢を上げてるな。それでいて、
明確な証拠が生まれるまで、期を伺ったのも賢明な
判断だ」
俺はデュランの立ち回りに感心しつつ、ローブを
裏表逆に纏い直した。
「さて、場所移動だけしておきますか。中召喚」
そして、変声機の設定を重低音から、程々の
テノールボイスにチェンジし、回廊でグロリアス
王国に移動した。
~薄暗い建物内部~
「あることも何も、全て事実に過ぎねぇ! だからこそ、
あんたは聖女じゃなくて、"この女"風情なんだよ!」
デュランは、アリスが怒ることを承知で、啖呵を
切って見せた。
「アハハハァ! 本気で冒涜しちゃったねぇ~~~!!
神への冒涜、即ち死ィイ!!!」
アリスは、デュランの啖呵に怒り、狂気的な笑い声
と共に、極太の光線を繰り出した。
(今だッッ!!)
「キャッ!?」
だが、デュランは光線を放つ挙動を殺気で読みきり、
アリスが反応できない時間単位で、ローリーごと自身
を攻撃範囲外まで移動させた。
『ジュオオオオッッッ!!!』
「まぁ! 裁きを避けられちゃったわ!」
石壁が溶解したものの、上半身が消し飛んだ骸が
1つも見当たらない事で、アリスは2人の殺傷に失敗
したことを知った。
「うおおおおっっ!!」
デュランはその間にも、出口との距離を最速で
詰める。
「行かせるか!」
「うおおっ!」
しかし、判断が早めなソードマスターと重騎士が、
それぞれ敏捷性と体格を活かし、妨害してきた。
「甘いッス!」
「なっ!?」
それでも、デュランは彼を上回る敏捷性と動作予測
で身体を捻り、捕縛せんとする両腕を回避した。
「トンネル見っけ!」
「ぁ"あ"あ"!!?」
敏捷性の差を比較するまでもない重騎士に至っては、
股下をスライディングして潜り抜けてしまった。
(私を乗せて滑るなんて…………!!)
その間、ローリーはデュランの胴体の上に抱き抱え
られており、デュランの背中へのダメージが気に
かかった。
「皆様! 出口をふさいで!!」
しかし、この2アクションでアリスに喋る時間を
与えてしまった。
「逃がすな!」
「塞げ!!」
結果、デュランと冒険者が、丁度出口で鉢合わせ
そうな動きが出来上がった。
『ズン!!』
「(手荒だが…………!!)退けやぁぁああ!!!」
しかし、デュランはここで強い踏み込みを行い、
自身をローリーごと右回転させ、
『ボッゴォォォオオン!!!』
その反動で、左手に持つ両手剣の面を、超大振りに
薙ぎ、爆風を巻き起こした。
「「「うおおおおおっっ!?」」」
冒険者は全て蹴散らされた。そう思った瞬間、
「ウィンドバッシュ!」
「!」
片手剣と盾持ちの女騎士が、風圧を伴うガード技で、
爆風を無視できる規模に相殺した。
「ハアアッッッ!!!」
更に、まるでローリーが要ることをお構い無しに、
フルパワーで剣を薙いできたのだ。
「チィィ!!この娘に当てる気か!?」
自身を斬り捨てるだけならまだしも、ローリーまで
危うかった為、デュランは思わず彼女を怒鳴り付けた。
「あんたにゃ、全力が丁度良いのさ!!」
「やってらんねぇ!!(この娘以外の女、何か恐いん
だけど!?)」
『ガァン!!!』
「やるぅ♪~~!!」
女騎士を膂力で押し退けつつ、ローリーに伸びる腕
を身体の捻転で避け、同時に剣を逆手持ちにし、背後
に回しつつ上へスライドさせることで、槍を受け流し
た。
(クソが…………、邪魔に労力使わされて、振りきれねぇ
か。てか、左腕痛ぇ。右腕はずっと力込めれるがな!!)
脱出の疾走に移りつつ、左右が既に回り込まれ
そうな事、酷使している左腕が限界間近な事を悟り、
自身の右腕にしがみつくローリーを見て、自らを
奮い立たせた。
「止まれ!」
「ウラァ!!」
左右から、挟み撃ちするかのように、斧と剣が
振るわれる。
(誘導されてるが、乗ってやるよ!)
2人の狙いは、右側の斧がローリーに当たらない
ように、デュランが剣を抑え込みに行くことだ。その
瞬間に、向かいの魔法使いが風魔法の速射でデュラン
の動きをローリーごと押さえ、あわよくば彼女を引き
剥がす。それが無理でも、他の冒険者がデュランを
取り押さえるチャンスを作る計算。…………だった。
「壊滅」
『ゾククッッッ!!!!』
少し幼さを残す、よく通る美声が、デュランの耳に
聞こえた瞬間、過去1番の"死の予感"を感じた。
(全員死ぬ!! 雑魚に構ってられねぇ!! 賭けしか
ねぇ!!)
彼が剣闘士時代に、幾度となく自らの命を救った
"直感"。彼はそれに全身を委ねて動き出す。
『トッ……』
「!?」
突如、床に優しくうつ伏せの状態で置かれ、彼女は
驚きの声を上げようとしたが、その前に、様々な事が
起こる。
「光線!!」
『ジュオオオオオオッッ!!』
アリスの詠唱完了と同時に、どこかで何かが溶ける
音が聞こえ、次の瞬間、
『スパッ!』
『ブゥン!!』
剣と斧が、1拍ずつ間を置いて、頭上を薙いだ。
『ポトッ……』
そして、自身のローブの背部ワンピースの切れ端が、
目の前に落下した。
『カッ!!』
次の瞬間、建物全体が、強烈な光で照らされた。
最後までご覧くださり、ありがとうございます。




