真実と虚言、そして狂気
夜にも1話、投稿するかもしれません。
95話
~辺境の大地~
『ゴオオオオッ!!』
「あっ、ギルド長が来たぞ!」
業火が轟く音を聞き、監視員の1人がフレイの到着
に気づいた。
「「「ご苦労様です! フレイギルド長!!」」」
「ああ、お前らも無事で何よりだ。厄災はアレだな」
フレイが指差す方向には、厄災・シルバードラゴン
の骸が横たわっていた。
「はい。アレが突如襲来してきた、厄災の骸です!」
「隕石の余波を至近距離で受け、死んでいると考え
られますが、私達は恐くて回収不可能です!」
「ギルド長、お疲れの所申し訳ありませんが、回収を
お願いできますか?」
冒険者が近付きたくない存在に、素人が近付ける訳
もなく、そのままになっていたということだ。
「ああ、俺はその為に来た。だが、その前に1つ、
聞きてぇ事がある」
フレイは予めワイルドから話を聞いており、回収の
意思を伝えたが、彼も監視員達に、状況を尋ねた。
「と、言いますと??」
「ここはアーロン・スパークマンが防衛していた筈だ。
俺はここに来る道中、奴と遭遇したのだが、何故、
ここに居ないのだ?」
「…………結論からいうと、奴は、厄災に怯えて逃走
しました」
「"逃走"、で間違いないな?」
重要事項であるため、確認を行う。
「間違いありません」
「更に、証拠もあります。アレを再生しろ」
すると、肯定のみならず、"証拠"までも提示してきた。
「聞いてください。他ならぬ証拠です」
『カチッ』
監視員が、魔法録音機のスイッチを押した。
『我が優雅かつ華麗なる飛ぶ斬撃の残華を受けて
みよッッッ!!』
アーロンが、自身の斬撃を、無数に散った花びら
に例えて攻撃宣言を行う。因みに、残華は散らずに
残っている花びらを指すため、言葉を誤用している。
『キィンキィンキィンキィンキィィン!!!』
次の瞬間、刃が鉱物に弾かれたような音が、無数に
聞こえてきた。飛ぶ斬撃が通じなかった結果である。
その、次の瞬間だった。
『俺の斬撃効かない! つまり誰も倒せない! そして
何もかもが無に帰す!! 故に逃げるが勝ちぃ!!!
去らばッッ!!』
討伐放棄の意思、奸計、そして、逃走の意思が、
音声として流れてきた。
『カチッ』
「…………いかがでしたか? 私共は、これを職員見殺し
による、証拠隠滅を兼ねた敵前逃走だと判断します」
「同意だな。お前達が被った恐怖、決して無かった
ことにはさせねぇ。この証拠を武器に、奴には相応
の罰を与えてやる」
音声を聞き、監視員、フレイ共に、アーロンの違反
を判断した。
「あ、ありがとうございます!」
「あ、因みにワイルド経由で、知っておられると
思いますが、信じがたいことに、その後、隕石が
落ちてきまして、厄災が死にました」
「天文学的な奇跡ですよ。ええ!」
「ああ、実物を見れば納得できる。どんな出来事
だろうが、起きてしまえば真実となる(…………まぁ、
実際はアイツが意図的に隕石を落としただけだがな)」
監視員達は、隕石衝突を天の奇跡と喜んでいるが、
フレイはワイルドから攻撃報告を受けているため、
彼等の空気と真実の温度差に、少し釈然としない
気持ちになっていた。
「さて、俺は骸の後始末をする。お前達は、休み休み
拠点の撤収作業を行え。何か来ても、俺が守るから
安心しな」
「「「はい!」」」
最強戦力による加護を宣言され、3人は安心して
撤収作業に取りかかった。
一方のフレイは、疲れた様子すら見せずに、素早く
解体作業に取りかかった。
(あの野郎、随分と舐めた嘘を付いたもんだぜ。だが、
泳がせた甲斐あって、過去一の重罪を掛けられそうだ)
解体しつつ、アーロンの証言の虚偽性も合わせて、
過去一重い罪を掛けられる手応えを感じていた。
(あのバカも、3人の診断書と状況証拠で、十分罪に
問えるだろう。後の2人は、発生したトラブルと、
お前の立ち回りに掛かっているぜ、ワイルド)
そして、彼の部下の罪も思考し、ワイルドの賢明な
立ち回りに期待を寄せた。
~少し前・グロリアス王国~
「ふぅ…………」
回復術士・ローリーが、疲れた様子で一息をついた。
(長いようで…………あっという間に終わった…………。
私、回復術士として、貢献できたかな?)
彼女は幼少期より、回復術士に憧れており、医療
学校では、初の彼氏となる男と熱心に技術の研鑽を
行っていた。
しかし、試合で負傷したサザンを回復した際、彼
の優れた容姿や肉体に惹かれ、軽い気持ちで浮気を
してしまった。
(彼が生きていれば、共に回復作業をしていたの
かなぁ…………?)
不貞の結果は、彼の傷心による自殺という、最悪な
形で現れ、その現実を受け入れる間もなく、サザンと
共に、外道に落ちていったのだった。
(リョウに敗れ、霊として現れた彼から、死ぬまで
裁かれても仕方なかったわ…………。なのに…………)
だが、リョウに呼び出された彼の霊は、始めこそ
雪辱を果たそうと、夜毎ローリーに攻撃をしていたが、
病院アルバイトで真摯に怪我人を直す彼女を見て、
何時の間にやら、回復技術のアドバイスを行うように
なっていた。
(…………今回、この人数を倒れずに回復しきれたのは、
過酷なアルバイトでタフになっただけじゃないわ。
間違いなく、彼のアドバイスのお陰よ…………!! 私
…………、彼にあんな事したのに…………、どうして
彼は、私なんかに施しをしてくれたの…………!!?)
1度、外道に染まった彼女には、彼の"怪我人を
治すために、奮闘する人物を助けたい"という想い
が、見えていないようだ。
そして、見えていないのは、周囲の景色も同様で
あり、まるで彼女を本気で裁くかの如く、"悪魔"が
近づいていた。
『ゴリッ!!!』
「キャアアアアッッッ!?」
突如襲った、足の甲を何かに押された感覚。彼女は
思わず叫び声を上げた。
「まあ、女の子がそんな悲痛な叫びを上げるなんて、
どこか痛むのですか?」
ローリーが声のした方を向くと、そこにはアリスが
立っていた。
「足の甲を…………ヒールの踵で踏まれ(…………と
いうか、アリスさんが踏んだんじゃ…………!!)」
そのアリスのヒールの踵には、僅かに新たな血痕が
付いていた。
「どれどれ? あらぁ、これはかなりの深傷ですねぇ
~~。ちょんちょん、と」
ローリーが、ヒールの血痕に気を取られていると、
アリスは屈み、あろうことか、ローリーの足の甲の
傷口を、ステッキの先端でつつき始めた。
「痛たたっ! 止めて下さい!!」
ローリーが必死に懇願するも、
「ウフフっ、これは診察の一環ですのよ。近頃の娘は、
痛みに弱くて、注射するにも一苦労ですのよね~~」
アリスは聞く耳を持たずに、診察の大義名分で
ローリーを痛め続ける。
「ステッキでっ! つつき回すなんてっ! 痛ッ!!
診察方法はっ! ありませんよおっっ!!」
ローリーは、傷口の痛みとアリスの笑みの奥にある
狂気を見て、心底怯えた表情を見せる。
「ニイィ……」
アリスも、そんなローリーの表情を見て、更に
狂気的な笑みを浮かべた。
「っつ!?」
次の瞬間、ローリーの体勢は大きく崩れた。
『ゴツッ!』
「あぁううっ!!」
そして、地面に頭を強打する。
「もぉ~~。痛いからって、転倒なんかしたら、
もっと重症になりますよぉ。さぁ、手を取って
ください♪」
「ヒィッ……!!」
ローリーが怯えるのも、無理はない。何を隠そう、
彼女を転倒させたのは、今手を差し伸べているアリス
だからだ。
ローリーが知覚できない早業で、足を掬ったのだが、
身体に伝わる感触で、何をされたか位は分かるものだ。
「手・を・取・っ・て・♪」
アリスは、敢えて圧を放って、ローリーに手を取る
ように促す。
「ハアッ…………ハアッ…………!!」
恐怖で理性を失ったローリーは、ローブが肌に
纏わりつく程の汗をかきながら、震える手でアリス
の手を取ろうとする。
『グチュッ……!!』
「ギャアアアアアッッ!!?」
次の瞬間、アリスはローリーの親指の付け根に、
自身の親指を爪が刺さるほど食い込ませた。
「…………なぁ、さっきからあの娘、スゲー痛がってるぞ?」
「アリスさんに診察されているだけなのになぁ??」
何度も悲痛な叫びが木霊していた為、自然と冒険者
達の注目が集まる。
「皆様~~♪、お騒がせして申し訳ありませ~~ん。
私、この娘に重症があることを見抜きましてぇ、診察
の魔法をかけたのですが、病気のせいで痛みに敏感で、
叫んでしまったみたいですぅ~~」
アリスはそれを見計らい、嘘の弁論を行った。
「成程、回復能力最強の方が言うのだから、そうなの
だろう」
「病院の設備なしで、重症を治せるなんて、やっぱ
アリスさんは天の使いだ!」
これにより、表に伝わるアリスの偉大さは、更に
膨れ上がり、
「その上、戦闘中は勇敢だ(あの姿を狂気的だと思った
俺は、いつか天罰を受ければ良い!)」
「ああ。まさに癒しと守りの女神だ!(あの娘の足
を掬ったり、握手で指を突き立てたのは、きっと
見間違えだな!)」
垣間見えた狂気も忘れ去られ、
「ち、違う…………、助けて…………」
助けを呼ぼうとしても、
「アリスさん、この娘は俺の怪我を素早く治して
くれました! どうか病気を完治して下さい!」
「俺からもお願いします!」
「私からもお願い!」
「ええ! 責任をもって完治しますわ!」
戦闘中、ローリーが回復した者達によって、"良かれ"
と思い、死神へと託されてしまうのだった。
「…………済まない」
(ゴメンね…………、私、まだ死にたくないの…………)
死神の正体を知る者もまた、その戦闘力と命欲しさ
に足がすくみ、助けに行けなかった。
「ぁあ…………!!」
ローリーの目には、絶望のみが見えており、他は
全て、闇でしかなかった。
「さぁ♪、ここだと皆様に迷惑がかかります。あちら
の建物へ移動し、"病気を治しましょう"ねぇ~~♪」
そんな彼女に一切構わず、アリスは彼女を持ち上げ
て、移動し始めた。
「…………自分で怪我を負わせといて、治療だと?
いたぶって殺すつもりの間違いだ!」
ただ1人だけ、それを止めようと動き出す人物も、
いた。
最後までご覧下さりありがとうございます。




