凌駕の証明
昨日は寝落ちで投稿できず。スマヌ!
94話
相対する2人の魔法使い。両者の錫杖から、魔法が
放たれようとした。
「業火…」
「衝撃弾…」
片方は、A級魔法使いのローズ。肩書きに相応しい
規模の炎系大魔法を詠唱する。もう片方は、C級魔法
使いのサタヤナ。規模こそ人を吹き飛ばす程度の魔法
だが、ローズの詠唱を遥かに上回る早さで、初級音
魔法を詠唱する。
反応速度に優れる冒険者なら、サタヤナの錫杖から
魔法が放たれると、読んでいただろう。
「ねぇ、勇者候補が何大人気ないことしちゃってるの?」
しかし、両者ともに魔法を放つことは叶わなかった。
「!?」
「弾ムグッス!?」
変声機で声を重低音に下げた俺が、ローズの錫杖を
押さえたからだ。その甲斐あって、2人とも驚きつつ
も、俺の正体には気づいていなかった。
(こっ、こっ、こいつ…………いつの間に目の前に!?)
奴の動体視力で、少し速く動いた俺を捉えることは
不可能。表情や心音から、俺の登場に心底動揺して
いる事が、読み取れた。
「…………あれ?」
恐怖で周りが見えていなかったサンドラも、状況の
変化を感じて、我に返った。
「…………(魔法系であんなに速いなんて、まるで
ワイルドコーチッス。もうちょっとであの人に
衝撃球をぶつけるところだったッス!)」
サタヤナも、俺に注意を払っている。必ずしも味方
とは、限らないことを考えているのか、錫杖を構えた
ままでいる。
「テメェ、死にt…」
『ズン……!!!』
「ッツゥ!!?」
ローズが俺に何か言おうとしたが、俺はすかさず
空いた右手で、重低音が鳴り響くほどの勢いをつけ
て、奴の肩を叩いた。
「だーかーらーさぁ、勇者候補が何で大人気ないこと
をしているの、って、聞いてるんだよ。答えろや」
そして、奴が2人にしたように、威圧的に質問を
繰り返した。
「あ、あいつが、私にぶつかったのに、謝らないから、
ちょっとお仕置きしたのよ! 悪い!?」
相変わらず荒い口調だが、先程より明らかに覇気が
弱まっている。
「本当かよ? 仮に本当でも、明らかにやりすぎだし、
勇者候補が聞いて呆れる器の小ささだなぁ、オイ」
「ッッッ…………ハァ!!?」
俺が、状況を考えると極自然な発言をしたところ、
ローズは鳩が豆鉄砲を食ったような反応を見せた。
恐らく、立場を逆手に取った侮辱を受けたことが、
予想外だったのだろう。
「それと、ぶつかられたというわりには、どこにも
目立つ跡がないよなぁ。一方、そこで腰を抜かして
いる彼女には、さっき殴打した際に出来た顔の痣の
他に、転んで擦りむいたような跡が腕にあるねぇ。
ぶつかったのってさぁ、やっぱりあんたじゃねー
のぉ?? ねぇ! どうなのーー??」
その隙を突き、更に核心に踏み込んだ問いかけを
行う。
「こ、これは、ちょっと怒鳴っただけで、このゴミが
勝手にコケて出来た跡よ!」
俺の問いかけに対し、冷静さを欠いた奴は、群衆に
嘘吹いた作り話を、機械のように発音した。
だけど、それが既に無理な話なんだよ。
「うん、それはおかしいね! 怒鳴られて崩れ落ちた
場合、尻餅だったり、手首の捻挫、肘や手のひらの
痣とかが、怪我でつくと思う。だけど彼女の場合、
どう考えても突き飛ばされて、前腕に体重がかかった
状態で、引き摺られたような切り傷ができているんだ。
君はローズに突き飛ばされて、前腕に重軽傷を負った。
間違いないね?」
怪我の規模から、半自傷説を否定しつつ、ローズに
よる暴行である事実を、サンドラに確認する。
「はい…………!!」
俺の確認に、サンドラは消え入るような声で肯定を
示した。
(そうッスよ! やっぱりアッシの見た通りだったッス!!)
サタヤナも、自分が見た光景が真実である確固たる
自信が付き、目の輝きが増した。
「フン、言うだk…」
それでも、奴は認めようとしないため、
「注目!!! 皆さんの中で、ローズが彼女を突き
飛ばした光景を見た人は、いませんか!! 容疑者
は俺が暴れないように抑えます!!」
「容疑…………者、だとぉ!?」
反論を言われる前に、遮りながら暴行の目撃者を
募った。
「お、俺、確かに見ました! 一瞬、ローズさんの手が
伸びたと思ったら、彼女が派手に吹き飛んで、前腕を
強く擦りむいていました!」
すると、直ぐに1人が名乗り出る。
「私も…………っ見ました! 彼女を見て悪い笑みを
浮かべ、接近して突き飛ばしていました!」
「僕も見た!」
「私も!」
「俺も!」
それを皮切りに、証言の主張合戦が開始した。
「証言ありがとう! これで、あんたの暴挙は証明
された訳だ」
「ッッ! 何で…………見てるのよ…………!!!」
ローズは、信じられないといわん顔で、こうなった
原因を聞いてきた。
「そりゃあ、あんたは腐っても有名人。その辺の魔法
使いとは、注目度が違うんだよ。アタリマエダヨネー!」
ここぞとばかりに、どや顔で皮肉を効かせる。
「だと…………してもっ!…………お前ごときの妨害で
…………何故、私の恐怖を抑えられると思える…………!!」
「いやいや、実際あんたは、"お前ごとき"に完封
されてんだよ」
「何だと!?」
「あの程度のスピードにも反応できず、迫られて数秒
単位の棒立ちを晒す。その間に20回は殺せたよ」
「ぉおっ、お前ごときが勝ってるのって、速さだけ
だろ!!」
「仮にそうだとしても、完封された事実は事実。
それに、その前の魔法使いとの戦闘でも、一度
杖を弾かれた上に、早打ちで負けそうだったじゃん」
「な、何ですって!?」
俺に虚勢を張るまでは分からなくもないが、コイツ
はサタヤナとの早打ち勝負に、負けそうになったこと
に、気づいていなかったようだ。
「剣士系の人達は、早打ちで負けそうになった姿が
見えてたと思うし、あの早詠みでも、彼女があんた
の杖を、飛ばせる威力の魔法を唱えていたことは、
魔法系の人達なら分かってると思うよ」
しめに、戦況を解説すると、
「確かに、早打ちはサーちゃんが圧勝しそうだった」
「あの魔力なら、ローズさんの杖を飛ばせても
おかしくなかったわね」
「てか、モンスター軍団や厄災にあの規模の攻撃を
出来てる時点で、速射の威力もヤベェ事くらい、
物理職にも分かるってww」
「速射魔法は、既に人類最強。これが事実って事だな!」
ほとんどの冒険者たちが、納得した様子を見せた。
「って事で、これ以上罪を重ねる前に、自首して贖罪
しましょう~、ネッ!」
その状況を利用して、俺は奴を敢えて挑発した。
目的は1つ、"パワー"での圧倒を見せるために。
「…………どいつもこいつも、生意気言ってんじゃねぇよ。
全員消し炭にしてやるぅあーーーーー!!!!」
憎悪に呑まれた奴は、この場の全てを文字通り"消す"
為に、最大級の炎系魔法を打つ準備を始めた。
「厄焔竜息!!!!」
『ズン!!』
奴のアクビが出る長さの詠唱の最中、2人の魔法使い
の方から、地面が陥没したような音が聞こえてきた。
『ギギギギ…………』
「!? 何をぉぉおおおおお!!」
この場一帯が焦土になるかと、誰もが思ったが、
俺が奴の錫杖を魔力で包み込むことで阻止し、奴が
怒りに焦がれるだけとなった。
「万が一のバリア、流石だね。新たなる魔導兵器ちゃん」
「ハァ…………ハァ…………(意識が…………消えそう…………シュ)」
最悪のケースに対応したサタヤナを褒めるも、
彼女はそれどころではない。長引かせるのはあまり
にも可哀想かつ、俺もそうしてられないので、しめ
に入る。
「感じるか? 俺の魔力のスケール」
「私が、魔法攻撃力最強の魔法使いなんだーーーー
ーー!!」
奴の錫杖に流し込む魔力を強めることで、奴の魔法
を更に封殺していく。
「伏せろ!!」
俺は一瞬で錫杖を取り上げつつ、刹那にも満たない
一時で、真上に投げ上げた。
『ドオォォォオオオン!!!』
次の瞬間、俺の魔力の発散を期に、奴の魔法が暴発
し、中心の錫杖が跡形もなく爆ぜ散った。
「…………ka…」
「お前が仕掛けた攻撃の結果だ。豊富な自費で、
替わりを買え」
悪因悪果。俺に、錫杖を弁償する義理はない。
俺は奴の胸ぐらを掴み、
「いいか、誰しもがテメェやテメェの仲間に好印象を
抱いている訳じゃねぇ。テメェが、今回やそれ以前に
行ってきた悪行で、テメェらに悪印象を抱いた奴は
腐るほどいるんだよ。やられた怨みは消して消えねぇ。
悪行が返ってくるその時を、震えて待つことだぜ」
『『ガチャリ』』
俺は、魔力の放出を1割に減らす手錠を、奴に2つ
かけ、瞬時にその場を離れた。
(…………今日だけで、私に匹敵する奴と、私以上の奴が
現れた…………!! しかも…………、幾ら私の魔法攻撃力が
人智を超えていても、これじゃあ殆どの奴に勝てない
じゃない!)
その後、奴は周囲の監視の元、アント・ネット街国
拘留所行きの馬車への乗せられたのだった。
最後までご覧下さりありがとうございます。




