殺るか、殺られるか
前話に続き、容赦のない描写があります。
85話
俺の物理攻撃力は、異様な頑丈さを誇るカルロスの
下衆野郎にも、確かに通用し、そして確実に痛手を
負わせていき、遂には左腕を完全に粉砕することに
成功した。
だが、攻めに集中しすぎて、守りが疎かになって
いたぜ。奴は右腕の斧を、俺の死角から振ってきた。
「取った……!? な"あ"あ"!!」
しかし、奴は驚きと怒りでまたもや我を忘れる事と
なる。
(ガキャアア!! 山勘で避けてんじゃねぇぇえええ!!
!!!!)
俺がフレイの兄貴の如く、殺気を読んで飛び退いて
やったからなぁ。考えてる暇なんてねぇ! ケンカで
研ぎ澄ませた直感が役に立つぜぇ!!
「こno…」
「縮地ィ!!」
当然、俺の束縛から逃れた奴は、立とうとする。
勿論、そうはさせねぇぜ。縮地で距離を詰め、
「フン!!!」
「グウッ!?」
『ミシィ!!!』
右足で、奴の右足首を踏み抜く! 捻挫だけでも与え
られたのはデケェな。
「ラ"ア"ア"ア"ッッ!!!」
だが、こんなので奴が止まらねぇのは、折り込み
済みだ。悔しがってる暇は、ねぇなぁ。
『ドゴッッ!!!!!』
「ウ"オ"オ"…」
全身を捻り、左脚を後ろ下に、左拳を直線に、全
筋繊維・収縮地で伸ばした…………、
「ラアアアッッ!!!」
「グボアアアアッッッ!!!」
左ストレートを食らいやがれぇ!!!
『ビキバキィ…………!!!!』
「ゴプッ!?」
今の一撃の衝撃は、腹から背骨の芯を貫いていた
らしく、奴はぶっ飛びながら、大きく吐血していた。
「フウーーッッ!!」
スタミナ的に限界間近だが、止まらねぇ。出来な
ければ、俺周りの人間に犠牲が出るだけだ。
「ヌウウウッッッ!!!」
『ドォォォン!!!』
最速縮地でスタートを切り、木々をぶち抜いて飛び
続ける奴への追撃を始める。
「ゴフゥゥ!!…………何なんだよ、俺様に追い付き
かねないパワーに、アーロンの兄貴を彷彿とさせる
スピード」
「オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!」
俺が追い付きかけた時、奴は迎撃に出る。
「ウォラァ!!(人類で2番目に精密な筈の斬撃を軽く
避け…………)」
相変わらず高ぇ軌跡の斬撃なので、姿勢を極端に
低くして避けてやったわ。その流れで、
「ラァアァア!!!」
「チイッ!!」
『ミシミシ……!!』
逆立ちミドルスピンキックを繰り出す!
「(ガードした腕の骨を軋ませる蹴りを繰り出して)
死ねぇ!!」
『ボゴォ!!!』
「ゴブァア!!!!」
だが、斧を避けられると踏んだ奴の蹴りが、腹筋に
当たっちまった。…………いや、腹筋で良かったぜ。
『ギュルルルルルルッッッ!!』
「!!」
反動で回転して、
「ガア"ア"ア"ッッッッ!!!!」
『バギィイィイイイッッッ!!!!』
「グガアアアアアアッッッ!!!(最強の蹴りすら
物ともせずに、威力を上乗せしたカウンターをして
きやがる…………!!!!)」
奴のパワーも上乗せした踵落としで、頭蓋骨を砕く!!
これは大分ヒビが入った!
「オルゥア!!」
『ドォン!!!』
一時も無防備になりたかねーので、踵落としに使わ
なかった脚で空気を蹴って、反動を得る。
「ォオラッッ!!!」
『ボグゥォオン!!!』
「ゴハアッ!?」
そして、野郎を更に木々の生い茂る場所へと蹴り
飛ばした。奴は、この程度の立ち回りも予測して
いなかったらしく、折れた左腕と大きく振りかぶった
右腕をビロンビロンさせながら、ダッサく飛んで
いきやがったよ。さぁて、終局だぜ。
『ウ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!!』
『ドゴォォオオン!!!』
俺は最速で追跡を開始し、その最中に一月を共に
過ごしたクマ親子との思い出を回想していた。
この山は本来、このカスとの殺し合いなんかで破壊
していい場所じゃねぇ。あの2匹を含めた多種多様な
生物達が、しのぎを削って生き抜く場所だ。
だが、あの場でこのカスを遠方に追いやらなければ、
親父やミュール、ハル、そして、他の冒険者達まで
コイツに殺されていた。だから、ここらのボスグマの
テリトリーで、あまり生物数の多くねぇこの山に殴り
飛ばすしかなかった。
「クソっ! 不用意に突撃してきた所を真っ二つni…」
「オラァアアアアッッ!!」
「ゴフウッッ!!!」
『バキバキバキッ!』
俺は様々な音よりも速く、奴の腹にボディブローを
入れた。
『ドゴォォォオン…………!!!』
(クソがぁ…………!! 音が宛にならねぇだけで…………、
こんなに対応できねぇもんなのか…………)
『ダン!』
『ボギィ!!』
殴って即、背後に回り、そのまま木々を蹴って
不規則に動く。
「ッツ!(音が聞こえたってことは)」
「ラアッッ!!」
『ゴギィイイイッッ!!』
「グアアアアッッ!!(このガキは既に、別の場所に
居やがるっ!!!)」
そして、俺が一瞬前に発した音に、奴が反応した
瞬間に、その腹立つ横っ面に渾身の右ストレートを
ぶちかます!!
「後ろだ間抜け」
「ぁあ!?」
再び木々を蹴り飛びながら、軽く挑発してやる。
すると、奴は半秒前の俺の声の方を向くので、
「言ったろ!!」
「ガハァ!?」
『パキィ…………!!!!』
"背後"に回って背骨にエルボーだぜ! 1つも嘘じゃ
ねーだろ!
「ガア"ア"ッ!!!」
野郎は破れかぶれに、背後の俺に斧をぶん回すが、
四足動物並みに低くなってかわし、
「オラよ!!!」
「ゴブォアアアッッ!!!!」
立ち上がる反動も乗せた、全力ブローを折れた肋骨
に叩き込み、肋骨で内臓を抉る!!
奴が吐血した瞬間に離脱し、再び殴るの繰り返しだ!
(まるで…………野獣を相手して…………鼻を摘ままれて
いる気分だ…………。コイツは本当に、人間なのか??)
奴はさながら、自然を舐めて獣の洗礼を受けている
登山マニアだった。まぁ、無理もないさ。今の俺は
四足走行も交えて、木々を飛び交い、襲撃している
からなぁ!
「!?」
奴が俺を完全に見失ったタイミングで、俺は奴を
脚払いで浮かせた。
「ゥラ"アアアアアアッッッッ!!!!!」
「ムグーーー!!!!」
そして、顔面を鷲掴みにし、地面に叩きつける。
「ハルが味わった恐怖、テメェも味わえや」
「ゴブ……!!!!!」
そこからは、スタミナが切れるまで、
『ぬ"りゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っっっ!!! う"お"お"
お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"っっっっ!!!!』
「ガッ……!? ゴッ……!!!!!」
絶え間なく、拳を打ち抜くだけだぁ!!!
『お"お"お"お"お"お"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!!!!』
崖が崩れようが、地面が砕けようが、山が崖穴
になろうが、俺は止まらねぇ。止まるわけには
いかねぇ!!!!
『ビキ…バキィ!!』
『オ"ア"ア"ア"ガア"オ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッッッ!!
!!!』
そうだ! 拳の骨にヒビが入ろうが! 激痛で肺が
悲鳴をあげようが! 酸欠で視界が暗くなろうが!!
奴が絶命するその時まで、攻撃を止めるわけには
いかねぇんだよ!!!
『ウ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ッッ
ッッッ!!!!!』
視界は愚か、自身の声、全身の感触、そして痛み
すら消えた世界で、俺は絶えず咆哮を上げながら、
気力だけで拳を動かしていた。
「…………」
「…………………………」
「……………………(ん? 肩に痛み? まぁ、コイツを再起
不能以上に追い込めるなら、肩くらい粉砕しても
良いぜ)」
「…………(息苦しいから何だよ? 止まる理由には
ならねぇぞ)」
「…………!! ッッッッッ!!! ゴフゥアアアアアッッッ!
!!!」
血ぃ!! エゲツねぇ量吐いた!?
『ゴギィ!!!』
「ゴブゥ!?」
痛ぇ!? 殴られただと!! 俺が殴ってた筈だ!!
(天地が…………逆。野郎…………見下ろしやがっ…………
てぇ……………………!!!!!)
奴は、全身に風穴を空けるつもりで放った俺の
ラッシュを耐え抜き、俺が気を失って攻撃が緩んだ
隙に立ち直り、俺に気付けの一撃を食らわせていた。
顔面は原型をとどめず、あらゆる角度から出血
してるってのに、まだこんな威力の攻撃が打てるの
かよ。
「ゼェ…………ゼェ…………。後5発食らってたら…………
死んでいたかもな…………」
そう言った奴が上げた右腕は、軟体動物さながらに
肘から上が垂れ下がっていた。
「だが」
『パァン!!』
「ゴブゥアアアアアッッッ!!!」
そして、その腕を鞭のようにしならせ、俺の腹に
拳をめり込ませてきやがったんだ。
「こっからは俺様の暴力タイムだぜぇ。ケヒヒッ…………
ゴフッ!」
(っく、筋トレで追い込んだ直後みてぇに…………身体が
動かねぇ!!)
対する俺は、身体が動かなくなっていた。
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