憧れが、憎悪に変わる時
83話
『グルルルルルルル…………』
リジョンに乱立する山の1つ。その中腹に、立てば
6mに達するであろう、"種族覚醒"間近のスーパー
グリズリーが佇んでいた。
「チュッ、ピチュピチュチュピ!」
突如、1羽の小鳥が彼の頭に乗りながら、何かを報告
するように、けたたましく鳴いた。
『グオオオッ』
報告を聞いた彼は、1度唸り声を上げると、小鳥を
頭に乗せたまま、山頂へと向かい始めた。
その数秒後、少し下方を震源とする揺れが起きた。
~約1分前・夢の中・バルディ視点~
「ウラァ!!」
「ゴハアアッッ!!」
俺は速攻で目の前の奴を倒し、両手斧を掲げた。
「勝者、バルディ!」
「ハッハァーーー!!」
…………これは、訓練所で初めてやった模擬戦だな。
「お前、とんでもねぇ速力だな。誰一人、手も足も
出てねぇじゃねーか」
「全くだぜ。ちゃんと集中してんのか? って感じ
だし、ガードもガタガタだから、結局押しきれるん
だよ」
どんな強者と、かち合えるかと楽しみにしてたん
だが、拍子抜けする雑魚ばっかりだったんだよなぁ。
「…………特に、その速さ。一体何したらそんなに速く
なれんだよ」
「んー、山でクマの心友とよく競争してたな。何に
せよ、誰でも良いから、俺を楽しませられるライバル
が現れねーかな~~」
「いや、何だそりゃ…………」
で、トントン拍子で決勝戦に勝ち上ってよぉ、
「右、バルディ・I・ラッシュ!」
「オラァ! 速攻で優勝してやるぜぇ!!」
「左、ミュール・M・ジョルニア!」
「…………」
(女? 見た目も細ぇし、よく勝ち上って来たもんだぜ)
そこで、アイツと出会ったんだ。
「姉ちゃん、しっかり集中しねぇと、痛ぇ目見るぜ」
「…………ご忠告どうも、あなたこそ、私を女だと侮って
いたら、痛い目見るわよ」
(確かに、決勝戦まで来てる女だ。1欠片の加減も
要らねぇのかもな)
そう思い、俺は闘気を最大まで高めた。
「レディ…………フa…」
そして、試合開始の合図が聞こえた時だった。
"お兄ちゃん! 助けてぇぇぇぇぇぇえええ!!"
っハル!! どうした!? 隣のボンクラが報復に
来たか!?
突如、脳内に響いた妹の助けを呼ぶ声で、決勝戦の
景色は真っ暗闇へと変わった。その上、
ん"ン"ン"ッッ!? 息が苦しい! 喉に何か詰まって
やがる!!! こうなりゃ気合い全開!!
ウオオオオオオオオオオオッッ……………………!!!!!!
「ブェエアッッッ!!!!!」
何かを全力で吐き出した瞬間、俺の喉に空気が
入り込み始めた。
『バチィ!!』
「ブビュグブァアアッッ!?」
その直後、高速でバケツから発射された水が、何か
に直撃した音と、何処かで聞き覚えのある声の悲鳴が
聞こえてきた。
「ゼェ…………ゼェ…………っここは…………?」
昔から見慣れた草原に、断面図がキレイなモンスター
の死骸が、異様さを出している景色が映った。
「あん?」
直後、全身に金ピカな装備を纏った女が、地面に
落下するのが見えた。
『ドシャアッ!』
「「レオ!?」」
そして、落下した女に銀色と銅色の女が駆け寄った。
コイツらは、そうだ、
「ピカピカ3兄弟、じゃなくて3姉妹。何変な動き
見せつけてんだよ?」
レオとシロンとロニー。雑魚なのに、ミュールを
謎の方法で泣かせた、良くわからん連中だ。
「ディー君! 目覚めたんだね!」
「身体に異常はない!?」
「…………筋肉痛が半端ねぇ。後は、矢鱈と骨近くが
痛ぇな」
ん? 良く見ると、コイツらも痣とか火傷とか切り傷
負ってるな。って!?
立ち上がって気づいた。
「レオ! テメェ、その面どうした!? 皮膚剥がれてん
じゃねーか!?」
脚の切り傷だけかと思いきや、随分とスプラット
だったかのモンスターが居やがるなぁと思った。
「あっとぉ~~…………この傷」
「ディー君が吐いた血反吐に直撃して、出来たの
よ…………」
2人はレオの顔を拭きながら、俺に良くわからん事を
言った。
「俺の…………血反吐…………??」
「ハァ…………ハァ…………。そ、血で喉を詰まらせて
いたディー君の呼吸を確保するために、アタシが
近付いた途端、アタシの顔に吐き出したのよ」
「!、そーゆーことか。そりゃ悪かったな」
何となく、事情は掴めてきた。んで、
「良いのよ、命を救われた身だし」
"こうなった"経緯も思い出したぜ。
~1分前~
『お"お"お"お"お"お"お"っっっ!!!!!』
俺は、コイツらの悲鳴が聞こえた地点に、衝撃波を
チャージしながら駆けつけていたんだ。
「オラァァァアアアアアッッ!!!」
そして、ガタが来ていた両手斧を犠牲に、この中で
一番強そうな鼬を絶対に外さないように、広範囲の
飛ぶ斬撃を素早く放ったんだ。
「「「「「『!?』」」」」」
幸運な事に、斬撃はモンスターのみを的確に捉え、
一網打尽にすることに成功したぜ。…………だが、
(うぉお!? 重てぇ!!)
ジョセフのバフが切れちまったんだ。戦闘後だから、
不幸中の幸いって奴だとは思うが、次の瞬間、
「(暗ぇ!? 息苦しい…………)ハアッ!! ッグ、
ハアッ!! ッグ、ハアッ!!」
視界と呼吸がおかしくなり、全身に力が入らなく
なったんだ。その上、
(痛ぇぇ…………眠ぃいぃ…………アイツの助太刀に…………
いかねぇとぉ…………!!! 何でこんな時に、心臓病だかが
発症しやがんだゴルゥアァァァ………………)
とんでもねぇ激痛に加え、不釣り合いな威容で睡魔
が襲ってきて、場違いな病名を叫びながら気を失っ
ちまったんだ。
~回想終了~
「ヤベェ! ミュール! ハル!!!」
『ドゴォォオオオオン!!!』
俺は超音速で駆け出し、戦友や妹の顔を思い浮かべた。
そして、
(そういや、あの3人って、カルロスさんに守られて
なかったか? あの人、どこほっつき歩いてんだよ!?)
今更ながら、超戦力に守られていた筈の3人が、
傷まみれだったことに、違和感を覚えた。更に、
(!!、…………アイツの、戦槌だとぉ…………!?)
実家への途中、ミュールの戦槌が落ちているのを
見て、状況が芳しくない事を悟った。
その時だった。
"「何よ! 現場を見ていない癖に良くもまぁ、
否定できるわね!」
「だーかーらぁ! ソイツは他人のそら似な変態
野郎だって! 俺の憧れのカルロス様がそんなマネ
しねぇよ!」"
不意に、アイツとのやり取りを思い出したんだ。
(…………そうだ、アイツは俺が知る限り、最高クラス
に仁義を貫く"正直者"だ。現場を見てねぇ俺と、どちら
の言い分に筋が通っているかなんざ、明らかだ!)
カルロスのカス疑惑が出ているのは、月単位で以前
からだ。そんで、
"「テメェらみてぇな幾らでも替えの効く雑魚共が、
タメ口聞いて良い相手な訳ねーだろぉがぁ!!」"
女に加えて、後輩をメッチャ見下していた!
(奴が実家に向かう動機は意味不明だが、仮によ、
実家で因縁のあるミュールとカチ合ったら、ハルや
親父を巻き込んで暴れかねねぇ! それでアイツの
戦槌があそこに落ちてたんなら!!)
その時、追い討ちをかけるように、"下衆"の汚ぇ
声が聞こえてきたんだ。
「んじゃ、次は思いきって足首を切断しまーす!!」
誰の足首を切断する。だってぇ…………?? 良い度胸
してやがるなぁ…………させっかよ。
こんなもんを聞かされた俺は、否が応でも全開の
集中力を発揮していた。
(他の連中も、実家の方に走っているな。だったら、
俺が野郎を遠くへぶっ飛ばして、タイマンに持ち込ん
で、粉微塵にしてやるまでだぁ!!)
火事場の集中力で、俺らしからぬ滑らかな疾走を
行い、同じ目的地へ向かう冒険者を掻い潜るように
追い抜いた。
「(見つけたぞ!)オイ」
「ゴォエェ…??」
手足がおかしな方向に曲がっているミュールの
足首に、下品な両手斧を振り下ろそうとする下衆の
どてっ腹に、俺は最高速度のボディブローを入れた。
「(テメェ、誰の大心友の足首を飛ばそうとしてんだよ)
ゥラアッッ!!!」
そのまま全身の筋肉を最速で収縮させ、クズ野郎を
向かいの山までぶっ飛ばしてやったぜ。
…………追撃の前に、
「親父、ハル、生きてて良かった」
まずは安否確認。親父の傷がヤベェが、任侠のある
冒険者に任せて大丈夫だろう。そしてハル、お前が
生きてさえくれれば、俺は安心して戦える。何よりも、
「ミュール、ありがとう。仇討ちは俺が果たす!!」
こんなにボロボロになってでも、大切な家族
を守ってくれたことに、礼を言わずして大心友
を名乗る資格はねぇ! 敵討ちだ!!覚悟しろ、
カルロス!!! オラァ!!!!!
『ドゴォォオオオオオオオン!!!』
俺は奴が飛んでいった速度よりも速く、峠を
飛び立ち、奴が直撃した山道へと爆進した。
「ッチ、音が聞こえなかったから全く反応できなかったぜ。あのガキ、マジで音よりh…!!」
『(刹那で繰り出す衝撃波拳打。食らえ!!)オラァ
アアアアッッ!!』
極々僅か。残っていたMPを駆使して、俺は野郎に
拳が当たる直前に、周囲の衝撃波を拳に纏ってから、
ぶち当ててやった。
「ゴッッブァァアアアアアアッッ!!」
純粋な威力に加え、僅かな振動が内臓にダメージを
与えた。…………だが、
(衝撃波を纏える一撃は、これが最初で最後。後は
俺の実力でモノを言わせるだけだ!!)
『ビキビキ…………!!』
(こぉんのガキ…………、俺が対応出来ねぇ速度で…………
拳だけで微骨折させてきやがったぁ!!)
おっと、テメェとはケンカしに来た訳じゃねーぜ。
反撃はさせねぇ。
「ラァアアッッ!!!」
『ドッゴォォオオン!!!』
「グガァァアアッッ!?」
直ぐ様、逆の拳で顔面をブチ抜き、斜面を登り方向
にスライディングさせてやったぜ。
『ビキィ…………!!!』
(雌をいたぶる間に、ポーションで回復したのが無駄に
なりそうじゃねーか!!)
「クソガァ!!」
カス野郎は超音速で駆け上がる俺に対し、体勢を
立て直しながら、カウンター気味に両手斧を振るおう
としてきた。
だがよぉ、
『ゥラァアアアッッッッ!!!!』
『ズグゥオオオッッッ!!!!』
軌跡が高ぇんだよ! 俺は珍しく、カス野郎の予備
動作から動きを読み、身を屈めて両腕を地面に設置
してから、全身を捻りながら左脚を突き出して、野郎
の右肋骨に直撃させてやった。
『バギィ!!』
「グアッッハアァァアアッッッ!!」
その一撃は、初手でヒビを入れた肋骨を完全に
へし折り、内臓を抉るように滑らせた。
「テメェだけは一方的に蹂躙してやルゥアアアアア
アアアアッッッッ!!!!!」
怒りでリミッターは究極に外れ、俺の速力は限界
まで高まった。隙は一切与えねぇ。純粋な暴力を
味合わせてやるぜ。
最後までご覧くださりありがとうございます。




