人魔戦争の終結
相容れない種族同士の戦は終結した。…………では、
相容れない同族同士は?
かなり不快なシーンがあります。ご注意下さい。
82話
~ウァームタウン・ワイルド視点~
「超・重力!!」
『グワオオオオオオオオオッッ!!!』
ローズが、グリーンドラゴンの周囲の重力を、
目一杯増大させた。
「岩石・超落下!!」
サタヤナは、その頭に巨大な岩石を幾つも落とし、
グリーンドラゴンを地面に深く埋めていく。
ヴィヴィアンの知識を学び、状況に応じて選択した
この攻撃は、彼女の魔法使いとしての成長を如実に
表していた。
「オラ! もっと大量に落とさないかぁ!!」
こんな時も、ローズのイビり癖は発揮され、まるで
暴力団の武闘派姐さんのような文句をつけている。
「ハイッス! オラオラオラオラァ!!」
『バキバキィ!!』
だが、状況と受け付けた人が適していたようで、
サタヤナの周囲にも、重力が発生していると誤解
するレベルで魔法の出力・手数を増大させた。
『グワオオオオ…………!!!!!』
グリーンドラゴンは、完全に地面に埋まりかけた。
竜狩り系召喚士の立場から言わせて貰えば、この状況
は奴が地中から奇襲するチャンスを与えるので、本来
は良くない。
だが、"俺が攻撃補助するタイミング"としては、
最高の状況になっている。
「多数中召喚・超掘削深層水!」
『グワオボボボボボッ!?』
全冒険者と斥候の死角となった穴の中で、複数の
回廊を展開。そこから、塩分たっぷりの深層水を、
高圧で発して地中を掘削したのだ。泥水は重力で
押されて見えず、俺とグリーンドラゴンしか、この
状況は知らない。
だから、
『サタヤナ、電気が良く通るぞ』
彼女の耳元で極小回廊を開き、ボソッとアドバイス
してあげたのさ。
「(ワイルドコーチ!)っローズさん以外の皆、アッシに
雷の魔力を分けるッス!!」
それさえ聞けば、即決即断。ローズ以外の全冒険者
に、雷の供給を呼び掛ける。
「おい! 岩で抑え込m…」
「行くッスゥ~~~~!!」
ローズの戯れ言に構わず、杖を振り上げて雷の魔力
を集中させる。
『バチバチバチバチ…………』
集中した雷塊は、無数の乾いた音を鳴らし始め、
その危険性をこの場の全生物に伝えた。
「(今ッス!!!)雷霆撃!!」
彼女が魔法発動の動作と詠唱を行った瞬間、雷塊は
穴の中の厄災に集中するように落ち始めた。
「うおおおおおっ!?」
「何て…………稲光と轟音なの!?」
見物人と化した物理職達は、その光と音の大きさに、
驚くばかりだった。
「なっ!?」
そして、ローズもまた、動揺を隠せないでいた。
(幾ら莫大な魔力の供給があっても、こんな威力…………
私にすら出せないわよ!! この小娘…………、どんな
身体構造してるのよ!?)
何に、と問われれば、サタヤナの出力を支える身体
にだ。
『バギバギバギバギィ!!!』
「ウオオオオオオオオオオオオッッッッ!?」
奴がそう思うのも無理はない。何故なら、彼女は
鍛え抜いたた肉体に加え、魔法系離れした類い稀なる
運動神経をフル活用し、極大の魔法反動を、最も肉体
の負担が軽減できる体勢で受け止め、安定して極大の
出力を発揮していたのだ。
事実、彼女は今、周囲の地面を赤鬼と鍔競り合って
いたバルディ並みに隆起させながら、その小さな身体
を反動で後退させている。
「うおっ!? 手伝うぞ!!」
その様子に気づいた1人の戦士が、大きな体格と
膂力を活かし、彼女の支えになろうとした…………が、
「と、止まらんぞっっ!?」
彼1人では力不足だったらしく、2人揃って後退
し続けている。
「全員で抑えるぞ!」
「なんちゅうパワーやぁーーーーっ!?」
「お前ら真面目に力込めんかい!!」
「込めてんだよ!?」
直ぐに他の冒険者達も加勢したが、安定して制止
したのは、十数人が支えになってからだった。
「皆、感謝するッスゥゥゥウオオオオオオッッ!!!」
究極に安定した土台は、雷撃の出力を更に向上
させた。さて、この出力だと、直ぐに雷塊が消滅
してしまうと思うだろう。
しかし、そうならないための"供給者"が、もう一人
居たのだよ。
~アント・ネット街国・工業都市~
「中召喚・超電力供給!!」
俺だぁ! アースヒーローズとの決戦に備えて、魔力
変換タイプの魔法武器を購入・自作しているのだが、
こんな形で役に立つとは思わなかったぜ。何せ本体の
MPはローズすら軽く凌駕しているからなぁ!
回廊も雷塊の真上に開いているから、地上の斥候共
は、稲光で見える筈がないぜ。
~ウァームタウン~
『カッッッッ!!!!!!!』
刹那、何かが散会する轟音が鳴り響いた。
『グワ……………………オ…………』
その2秒後、全身くまなく黒こげになったグリーン
ドラゴンが、最期の一言を発し、熱泥の中へと沈んだ。
「ハアッ! ハアッ!」
『ストン…………』
全力を出しきったサタヤナは、錫杖を支えに、
その場に座り込んだ。
「や、やっらぁ…………ッス!! 厄災ろぉ撃退いっ…………
大成功ッス!」
その状態で、呂律が回らない状態で勝利の歓声を
あげた。
「す、スゲェよ、サーちゃん!」
彼女の声に釣られて、他の冒険者達も喜び始める。
「み、みんにゃの魔力があっれころッシュ…………」
「みんにゃとシュは可愛すぎだぜ」
「反面…………俺が動けなくなる程の反動に…………
良く耐えたと思う…………」
魔力補助と物理補助を行った面々からも、称賛が
飛んだ。
「いや、アンタもぶっ倒れたんかいwwwww」
「サーちゃん押さえてただけだろwwwww」
「役得が文句垂れんなゴルゥア!!」
「テメーらが全力で押さえねーから、俺に負荷が
集中したんじゃろがい!!」
「やー、先輩の背の広さを見て、ついつい頼っちまいましたわー」
「そそ、最後は結局パワーがモノをいうんじゃいって
格言も、見事立証しましたしねぇ!」
「ったく、都合の良いガキ共め…………」
口論っぽくなれど、誰しもが厄災を討伐した喜び
と達成感に包まれていた。
「ちょ、私が超重力で押さえていたから出来たこと
でしょ!!」
ローズ以外は。無駄にプライドの高い奴は、兎に角
自身を差し置いて、新人のサタヤナがチヤホヤされて
いることが気にくわないらしい。
「もっしろん、ロォーズしぇんぴゃいが居たからこしょ
のしぇんかッシュ。アッシィひぃしょりしゃ、みゅり
らっらっシューー…………」
「なっ、な、何よそのデタラメな発音h…」
過度な筋肉痛で、発音が儘ならなくても立てようと
したサタヤナにも、ローズはイチャモンを付けようと
したが、
「そうだよ!」
「雷をチャージしている間、ローズさんがずっと
押さえてくれていたんだ!」
「やっぱスゲェ!」
「2人の魔導砲台が居れば、厄災も恐れるに足らずだぁ!!」
他の冒険者達も自身を立てたことで、
「ぐぅぅ…………(この状況でイビるのは…………流石に
悪手過ぎる…………!!)」
さしもの奴も、一旦はイビりを断念することに
したようだ。
(あのサタヤナって娘、凄いなぁ…………。ほぼ同時期
に冒険者を始めてそうだけど、もうローズさんと肩
を並べる次元に達している。男1人の容姿や実力の
ポテンシャルすら見抜けない私じゃ、並ぶことすら
烏滸がましいよね…………)
リョウに決闘で敗北したサウザンド・グローリーの
サンドラは、この戦闘で、同格だった筈のサタヤナ
にも絶対的な差をつけられていることを知り、改めて
自身の愚かさを自覚していた。
(クソッ!! 誰でもいい。誰かイビって、このムシャ
クシャを発散しないと!!)
そんな彼女に、ローズは視点を定めていた。
…………だが、俺は奴に構わなかった。…………いや、
構えなかった。何故なら、緊急で対処しなければ
ならない事件が発生していたからだ。
そして、その事件は、知った瞬間、俺の理性を
…………、跡形もなく、奪い去った。
「あの、腐れ外道がああああああああっっ!!!!」
既に全ての国市町村の防衛を完了していた為、俺は
回廊を跨いでリジョンの山へと"出向いた"。
事情は、1分位前から見ていけば分かりやすい
だろう。
~約1分前・屋敷への峠中腹・ミュール視点~
「さぁさぁ! 特に嬢ちゃんはよーく聞くんだぞ~!
こ・れ・がっ、上腕骨が折れる音ーーー!!」
『バギィイィ!!!』
カルロスが嬉々とした表情で、角材をへし折る要領
で、私の右上腕骨を折ったわ。
「あ"あ"あ"あ"っっ!!!」
その瞬間、私には知覚できる限界レベルの灼熱の
激痛が駆け巡り、上げたくもない声を上げてしまうわ。
「アッチ向いてホォイ!!」
『バキィ!!』
「ッッ!!!」
更に、私の横顔を拳骨で殴り、痛みで歪んだ私の顔
をハルちゃんに向けたわ。
「ヒグッ…………グスッ…………」
「ヘハハッ! 嬢ちゃ~~ん、芋女の顔って本ッッ当に
ブッサイクだよなぁ~~。ここに住んでる嬢ちゃんも、
こうなる運命なんだよ~~。親父の時点で顔歪ん
でるしwwwww」
その上、泣きじゃくるハルちゃんと、いつ亡くな
ってもおかしくない致命傷のお父さんに、私を使って
精神攻撃する始末。正に鬼畜の所業よ。
「でぇ! こういうブスはぁ!!」
「グッ!? ゴフッ…!! ヴッ、ゴッ、ゴハァッ!!」
「その辺の男に首絞められたり、内臓が破裂する威力
の腹パン食らわされたりぃ、顔面陥没パンチを叩き
込まれる運命にありまーーーーす!! ッハハハハ
ハッッwwwww」
奴は私に連打を叩き込み、激しく吐血した私を
笑い飛ばした。そして、倒れ込んだ私に合わせて
屈み、おぞましい報告をしてきたわ。
「お前さー、仮に拷問を耐えたら、ご褒美やるよー。
あのビキニ共って、お前と同期だろ? 今晩、野外で
楽しもうと思ってたから、お前をリンチしまくって、
更に盛り上げてやるわぁ! 屈辱だよなぁ? 明らかに
雑魚な奴等に力ですら抗えねぇのはよぉ!! ハハッ
ハハハハwwwww」
訓練所で友と尊厳を汚した3人に、またしても…………
今度はこの下衆まで加わって、徹底的に汚される
というの…………!?
「そのためには、これを耐えましょうかぁ!!」
そう言った奴は、うつ伏せの私を半回転させ、
仰向けにした。そして、自身の片足を高く持ち上げ、
「刮目せよ! こ・れ・がぁ」
私の左膝に、一直線に振り下ろしたわ。
「膝が反対に折れ曲がる動きでーーーーす!!!」
『ゴギャアッッ!!』
「ギャアアアアアッッ!! ッアアアアアアアッッ!!」
これまでで、最もおぞましい感覚を覚えた。痛みは、
限界を遥かに超えたから、寧ろ殆ど感じなかった。
だけど、今まであった部分が消滅した感覚に、吐き気
が込み上げてきた。
「オエッ…………カハアッッ!!」
「ダハハwwww、噴水ーー!!」
このクソ鬼畜は、この姿の私を平然と笑い飛ばした。
ここまでされると、いっそ次で殺してほしいという
気持ちすら沸きそうで、更に吐き気が込み上げてくる。
(俺が…………判断さえ誤らなければ…………、奴の悪意を
見抜き、ハルを連れて逃げていれば…………。ミュール、
息子の父が、俺のような無能者で、本当に申し訳ない
!! グラム、妹に危害を加えて、本当に済まない。
天国から、ありったけ罰を下してくれ。ハル、バルディ、
情けない父で、羊質虎皮の愚者が父で、本当に済まない
!!!)
お父さんも、心の中で謝罪していた。私や、かつて
弟子だった私の兄や、実子のハルちゃん、バルディに。
…………本当に悪いのは、この鬼畜外道だというのに!!
(ワイルドコーチ、クレインコーチ、シャールコーチ、
折角鍛えて下さったのに、こんな下衆に敗北して
ごめんなさい。リョウ、いつも心身共に助けてくれて、
ありがとうね。サタヤナ、服を見繕ってくれて、
ありがとう。デュラン、チック、もっと一緒に鍛え
たかったなぁ…………。
バルディ、何だかんだ、助かったし、共に研鑽した
時間は楽しかったわ。厄災を倒せるまで強くなれて、
おめでとう。もう、ケンカしてあげられなくてゴメンね)
刹那にも満たない走馬灯で、私は世話になった、
仲良くしてくれた皆に、感謝と謝罪を行った。
「んじゃ、次は思いきって足首を切断しまーす!!」
背後では、下衆が嬉しそうに斧を振り上げている。
私は勢い余った奴に、殺されるのだろうなぁ…………。
(…………バルディ、今、何してるの? そんなに出血が
酷かったの? 私は、最悪構わないわ。だけど、家族は
守り抜きなさいよ。あなたは、ハルちゃんの英雄なの
よね? …………でも、出来るのであれば)
「せーーno…」
「た…………す…………け…………て!!」
心の声が、…………出て、しまっ…………た。
「ブハッwwwww、ざぁ~~~~」
当然、奴は醜態を晒した私を侮蔑しようとした。
「オイ」
「ゴォエェ…??」
しかし、侮蔑は、遮られたわ。
「ゥラアッッ!!!」
『ドゴォォオオオオン!!!』
奴が、轟音と共に、向かいの山へと吹き飛んだ事に
よってね。
「バルディ!? ッゴハアッッ!!」
駆け付けた息子に、父さんは驚き、吐血した。
「親父、ハル、生きてて良かった」
彼はハルちゃんを1撫でして、私を見た。
「ミュール、ありがとう。仇討ちは俺が果たす!!」
初めこそ、ハルちゃんに向けていた笑顔で感謝を
述べたが、その表情は奴への憎悪に染まっていき、
今まで見たことのない怒りの形相を作り、奴が
吹き飛んだ山へと超音速で飛び立ったわ。
「……………………来て…………くれた…………」
「俺…………に…………ゴフゥ!!」
「パパ!! ミュール姉ちゃん!! 誰か! 助けて!!」
けど、折角バルディがカルロスの相手をしても、
私達自身が動けなければ、特に致命傷を負った
お父さんの命が危ない。
「あそこだ!」
「っ酷い怪我!」
「早急かつ丁寧に医務室に連れていくぞ!!」
…………だけど、冒険者達が駆け付けて、移動の心配は
無くなったわ。…………私達の仇、討ってね。バルディ。
最後までご覧くださりありがとうございます。




