外道の狼藉
あの男が動くので、不快なシーンがあります。
74話
~1分前・ラッシュ家~
「お前、元祖S級冒険者のポール・A・ラッシュだな?
戦士の座学書で見た顔まんまだ」
防衛任務を放棄し、屋敷を荒らしに来たカルロスと、
家主のポールが対峙している。
「フン、昔の話だ。そして貴様は何故、持ち場を
離れてここに来た?」
ポールは既に斧を構え、カルロスの一挙一動に
警戒網を張っている。
「ヒマなんで、散歩してたんだよ。しっかし、やっぱ
S級って儲かるんだな~。こんな豪邸に住みやがってよ」
対するカルロスは、心底見下した様子で思ったこと
を話している。
「貴様は金が欲しいのか。ならば、暇だろうが真面目
に持ち場で警戒をしろ。先程まで、若者達が厄災
相手に、勇敢に挑んでいたのだが、貴様にはその姿
が見えなかったのか?」
あまりに不誠実な態度に、ポールは怒気を込めて
問いただした。カルロスがバルディ達に加勢すれば、
更に危険度が下がっただろうという思いが込もっていた。
「あー? 俺様が、あのチンケなガキ共に何で力を貸す
のー? 幾らでも替えの利くカス共なんてどーでも
良いだろ?」
最大までポールを嘲笑する表情。それは、バルディ
がポールの息子だと分かっていながら、"替えの利く
カス"と表現できたからこそ、付随したものであった。
「俺様は魔王討伐を1番に期待されてる、アース
ヒーローズのカルロス様だぜぇ? カス共100人
犠牲にしても、守られるべき尊い"い・の・ち!"
だぜぇ~~。ヒャヒャッ!」
その上、自身をまるで神であるかのように、賛美
した。
「成程、貴様は肩書きで威張り散らすだけの、本当は
臆病で無能弱小、尚且つ人を差別するような、最底辺
冒険者というわけだな。貴様の事は、作戦終了後に
ギルドへ無断違反者及び、作戦妨害者、名誉毀損
として報告する。分かったら持ち場へ戻れ」
「ハァ…………ハァ…………」
父がカルロスを罵詈雑言ごと否定し、持ち場
へ帰そうとしていた時、ハルは全身から汗が
止まらなくなっていた。
「テェンメェェエ!! 俺様に面と向かってェ、
よーーーく口答え出来たなぁぁぁああ!!」
両目の白目は深紅に染まり、父を真っ直ぐ見据えた
カルロスが立っていたからだ。
「それに、作戦妨害たぁ、どういうことだよ? テメェ
こそ、年だけ食って何1つ出来なくなった無能オヤジ
じゃねーかよ。あ?」
カルロスは、心底怒りながらも疑問に思ったことを
1つ聞いた。
「俺がロートルと化したことは否定せん。だが、ギルド
は俺の腕を信じ、"最終防衛任務"を依頼してきたんだ。
家族を守ることにと繋がるから、断る理由など無い」
「守るだと? この家の財産か? 秘宝か? ああ?」
ポールの返答に、カルロスは更に食ってかかる。
「貴様のような無責任者には断じて教えられん。
これ以上の狼藉を行うなら、侵略者として強行
手段に出る」
「そうですか~~。まぁ、俺は好きなだけこの家を
物色しますわ~~。オラァ!!」
カルロスは、名実ともに広まっている自身を前に、
1歩も引き下がらなかったポールに腹を立て、屋敷の
壁へと距離を詰め、斧を振り下ろそうとした。
「させぬ」
「おー、マジで俺様に歯向かいやがった! 度胸だけは
現役だね~~wwww」
だが、ポールが横から鋭い蹴りを繰り出した為、
横跳びで回避することになった。
「2度目は無い。悪意を収め、速やかに持ち場へ戻れ。
拒むなら、2度と名声は得られなくなる」
「あー、それさー、クソオヤジさんのことだよね~~
ww。ロートル風情が、俺様を再起不能にしようなんざ、
舐めるのも大概にしろや~~」
口調とは裏腹に、最後の一言にはポールへ向けた
膨大な憎悪と殺気が籠っていた。
「ハアッ…………!! ハァッ…………!! パ…………パパ…………!!!」
家族の誰も、自身に暴行を加えた隣家の息子ですら
向けなかった"純粋な殺意"。ハルが過呼吸気味になるの
も無理からぬ話である。
「テメェごときの戯れ言でぇ~~、引き下がる俺様
じゃありませーーーん!!」
カルロスは、直線的にポールへと突撃した。
「参る」
対するポールも、カルロスと互角か、僅かに高速で
突撃し、斧を振った。
「ロートルの分際で速ぇ~~wwww」
カルロスも斧で迎え撃ったことで、つばぜり合いが
勃発した。
「でーも、パワーじゃ若者に勝てまへ~~~ん!!」
だが、純粋な力比べでは、ポールに勝ち目が無い
ことは、素人のハルでも分かるだろう。
「そう来ると思ったぞ」
「うおお!?」
ましてやポールは歴戦の戦士。いきり散らした
カルロスが、力押しで来ることなど、最初から
分かりきっており、彼の押し込みに合わせて、
受け流しを行った。
「精々後悔しろ」
受け流しの勢いも乗せ、カルロスの軽鎧ごと、腹部
を強化斬撃で逆袈裟斬りにした。
「ッぬ!?」
だが、ここでポールにとって、初の出来事が起こり、
一瞬の隙が生まれてしまった。
「はいやっぱ雑魚ぉ!!」
「ぬ"ッッ!!!」
容易く切れた軽鎧に対し、カルロス自身の腹筋は、
筋繊維数本を斬らせ、残り全ての筋繊維で刃を止めて
いたのだ。
ポールは直ぐに得物を手放し、間合いを取ろうと
したが、その前にカルロスの拳が腹部にめり込んだ。
「オラァ!!」
「ガハァッッ!!」
更に、2発目を顔面に入れることで、顔の向きを
変えさせて、ハルの方へと勢い良く吐血させた。
「きったねぇ血を俺様にかけようとすんなボケェ!」
「あ…………」
父の鮮血が頬にかかったハルは、
「キャアアアアアアアアアアアッッ!!!」
これまで蓄積した恐怖を爆発させるように、
悲痛な叫びを上げた。
「おーおーwww、嬢ちゃんイイ声上げるねぇ~~ww
www。良いぜぇ~、俺ぁ、前世の頃から、女の叫び声
が大好きなんだよ~~」
その叫びを聞いたカルロスは、卑下た笑みを浮かべ、
舌舐めずりをしながら、腹に刺さった斧を抜き捨てた。
「!」
それを見たポールは、瞬間移動と見紛う速度で斧を
拾い、
「ヌゥン!!!!!」
カルロスへ飛ぶ斬撃をフルパワーで放った。
「老害の一撃なんざなぁ!」
カルロスは飛ぶ斬撃を見切り、雑な一閃で掻き消す
と、
「俺様に効くかぁ!!」
屋敷の奥にいるハルへと、飛ぶ斬撃を放った。
「!!」
「おおおおおっっ!!」
飛ぶ斬撃は…………、
「ぬぁぁぁあっっ!!」
『バギャン!!!』
強化斬撃の核となったポールの斧の破損と引き換え
に、ハルの眼前で消えた。
「出血大サービィーーーーーース!!!」
「グアアアアアアッッッ!!」
そして、その時に出来た隙は、カルロスがポールに
袈裟斬りを決めるのに、十分すぎる程の長さであった。
「さぁ~て嬢ちゃん、お兄さんと遊びましょうね~~」
卑下た笑みを浮かべ、手に持つ斧からは、父の鮮血
が滴る。その父は胸から腹にかけて深々と傷を負い、
痙攣しながらドクドクと流血を起こしている。
「兄…………ちゃん…………」
「なぁにぃ~~?」
怯えるハルに、カルロスは嬉々として腕を伸ばす。
「助けてぇぇえええええええっっっっ!!!!!」
父を助けるために、ハルは恐怖を振り払って、
自分にとっての英雄に助けを求めた。
「!? 」
『ゴシャァァアアアアン!!!!』
「グオオオオオッッ!!」
次の瞬間、戦槌を振りかぶった人物が奥で踏み込み
を行い、カルロスを横から吹き飛ばした。
「ハルちゃん! 大丈夫!?」
「ミュール姉ちゃん!!」
超音速で助けに入った人物は、ミュールだった。
「っつ、お父さん!」
だが、カルロスに大怪我を負わされたポールを
見て、顔を青ざめた。
「ぐおおおおっっ!!」
その瞬間、鬼の形相でポールが上体を起こした。
「芋女がぁぁああああ!!!!」
しかし、カルロスも全速力でこちらへと走ってきた。
「下衆が」
対するミュールは、速度バフを活かして音速で
間合いを詰める。
「ハアッ!!」
そして、カルロスの"1m前"で叩きつけを繰り出した。
「バ~k…『ガッ!!!』フゥウゥゥッッッ!?」
その様を見て、更に間合いを狭めて横薙ぎを
繰り出そうとしたカルロスだったが、真下から
超音速でうち上がった石に顎を打たれ、自身も
後方超速回転しながら宙を待った。
「お前は完膚なきまで叩きのめす」
ミュールの目は、過去最高に憎悪に満ちている。
「ハル"…………一緒に"逃げる"ぞ」
その頃、大量に血を流しながらもポールはハルの
手を握り、無理やり声を出しながら走り出した。
「えっ…………」
一方のハルは、ミュールが残されることを気にして、
彼女に視線を送った。
「大丈夫、この程度余裕だから、2人で逃げて!」
振り返った彼女の顔は、普段と変わらない可憐さ
を放っていた。
最後まで御覧くださりありがとうございます。




