人竜合戦
明日は12時~14時に更新予定です。
70話
~アント・ネット街国・城下町正門付近・シャール
視点~
「…………」
「「「あわわわわ…………」」」
今、私は絶望のどん底に落とされている。
「先輩、あそこの5匹って、"厄災"ッスよね?」
「ああ。炎のフレイムドラゴン、氷のグレードラゴン、
風のオゥカードラゴン、水のブルードラゴン、そして
闇のブラックドラゴンだ」
ソードマスターが言った通り、選り取り見取りな
厄災達が、木々をへし折りながら此方へと向かって
きている。
「あ、あんなの…………誰が勝てるってんだよ…………?」
「カルロスさんの攻撃も、通じなかったって話だぞ」
「硬さを突破出来ねぇなら…………フレイでも勝てねぇ
って事じゃん…………」
戦士3人は、完全に戦意喪失している。
(そりゃそうよ。攻撃そのものが通じなければ、
どうしようもないものね…………)
私も同様だった。逃げれば、報酬はパーになる。
街も壊れるから、刺し違えを試みるだけ無駄なのは
明白。
(…………でも)
しかし、後ろで私の元弟子2人が、藁にもすがる
思いで私を見つめている。…………カッコ悪い姿、
見せたくないなぁ。
「バカ正直に鎧を全力で殴っても無意味だ」
「鱗の隙間を、狙うぞ」
…………嘘ぉ? この2人、やる気なの?? 厄災相手に?
「全軍に告ぐ! C級以下の者と戦意喪失した者は、
可能な限り散り散りに逃げろ! 厄災を前に怖じ気
づかない勇気ある者達は、共に厄災討伐の栄光を
掴むぞ!」
しかしソードマスターは、若い芽や恐怖に呑まれた
者達を、可能な限り生かす判断を下したわ。
「師範殿、先程まで良い援護を感謝する。ここは
俺が止めるから、富を手に、後生の育成に励んで
くれ」
更に、私に逃走を許可してくれたわ。
「…………いいえ、元弟子を生かさずして、師範は名乗れ
ないわ。逃げるのは、あの子達の安全が保証されて
からよ」
何を思ったのか、私は残留を選択した。
「それは心強い。む、来るぞ!」
竜達の殺気が強まった事で、彼は全員に臨戦態勢
を取らせた。
(手甲鍵の斬撃は、無意味。なら、最大火力の発勁
を、急所に叩き込むしかないわね)
見栄を切ったものの、考えうる有効打は限られて
いる。その上、竜達の攻撃が避けられるとも限らない。
私の読みは、最悪の形で実現した。
『ジャルルルルルルルルァァァアアアア!!!!』
オゥカードラゴンが、速攻で超音速の旋風を放って
きた。まずい! これは私達ごと直線上の街が抉り取ら
れる!!
「くうっ!!」
「ぬぉおっっ!!」
せめて弟子だけは被弾させない! その一心で迎撃の
技を繰り出せたのは、私とソードマスターだけだった。
スローモーションの世界で明晰に見えるから分かる。
飛ぶ打撃・斬撃1発ごときで、あんな旋風を逸らせる
訳がない。かといって、もう一度技を放てる余裕も
ないわ。
(道場を…………トレーニング設備完備の豪邸に
したかったなぁ…………)
おじいちゃんから引き継いだ道場を大きくする夢、
こんな形で潰えるのか…………。というか、元弟子達
ごと、抉り飛ばされるじゃん…………。
畜生…………せめて鱗の1つでも引き剥がして、強欲
商人に高値で押し売りつけたかった!!
『ボアッッッ!!!!!』
「え…………??」
後悔の念を吐いていた時、突如として光源が旋風に
直撃。刹那、大爆発を起こして旋風を掻き消した。
「うおおおおっっ!!」
「厄災共が爆死している!?」
「熱っ!?」
それだけでなく、更に多くの光源が竜達の鱗の合間
を縫って直撃すると同時に、傷口から大爆発を起こして
いたのよ。
そして、辺りは炎熱に包まれたわ。
「よぉ、お前ら。魔王軍そのものは独力で撃破出来た
ようだな。何よりだ」
目の前に、赤熱した火炎を纏ったフレイが立っていた。
「フ、フレイ殿!」
「彼女の援護が優秀だったので、軽傷者以上の被害は
出ませんでした!」
ソードマスターが、ちゃんと私の活躍を報告して
くれたので、安堵しようとした…………のだが、フレイの
手に掴まれた宝石を見て、気が気じゃなくなった。
「あのっ、s…」
「お前達は全力で散れ。それとラディウス、剣を
借りるぞ」
私は思わず"宝石"について問いただそうとしたが、
彼はラディウスさんのロングソードを掠め取り、
瞬間移動と見紛う速度で竜達の元へと向かって
いったわ。
「指示通り逃げるぞ!」
ラディウスさんはその場の全員に再度呼び掛け、
走り遅れた私の手を引っ張って駆け出した。
「っと、いくら最強のフレイでも、厄災相手に単騎で
勝てるのかしら?」
戦士3人は雰囲気で盛り上がっていたが、先程の
爆撃で討伐できたのは、氷のグレードラゴンのみで
あった。
「問題ない。熱の幻影と宙を舞う両剣で牽制を行った
上で、隙だらけの竜族の鱗目掛けて、本人の剣術を
叩き込みにいった。彼の狙い済ました斬撃を防ぐ術は
無いよ」
『ド『ド『ド『ド『パァン!!!』』』』』
『ジュワオオオオオオッッ!!』
説明を受けている最中、無数に連なった爆音と、
池が瞬時に気化したかのような音が聞こえてきた。
「ッツ!」
一瞬振り返った私の目には、全身に風穴が空いた
オゥカードラゴンと、文字通り三枚下ろしになった
ブルードラゴンが倒れ込もうとしていた。
(ん??)
同時に、何故か歪みまくっているブラックドラゴン
が、"空間を歪める力場"を発するブレスを、明後日の
空へと吐こうとしていた。
~魔境化した前線~
「陽炎騙し。お前と赤以外にも、"歪ませる"奴なぞ
ごまんと居る」
『ドゴォォオオン!!』
フレイはそう言って、脚力と爆炎で音を遥かに
置き去りにしながら、ブラックドラゴンの背骨に
沿って上昇しつつ、その隙間にくまなく斬撃を
加えた。
「業火瞬撃・爆死刑」
『パチン!!』
上昇しきり、指を鳴らした瞬間、ブラックドラゴン
の背骨は木っ端微塵にくだけ散り、生き耐えた。
「後はお前だな」
『グオオオオオオオッッ!!』
宙を舞うフレイに、レッドドラゴンは必殺の火炎を
吐いた。
「敢えて真正面からぶつかってやるか」
これに対し、フレイはロングソードを下へ投げ捨て、
飛来した両剣を手に取り、両手で回しながら絶大な
業火を放った。
『グオオオオッ!!?』
「おおおおおおおおおおっっ!!」
自身の火炎に抗う"業火"に面食らうレッドドラゴン、
自身の力と技を集約させ、全力を尽くすフレイ、2者
の炎は互角だった。
「(絶対業火・焼死刑だったか?)あのガキみてぇに、
こんなことで楽しくなる俺も、大概だな」
フレイは、昔付けた技名を思い出しつつ、パワー
同士のぶつけ合いを楽しいと思った自身に呆れつつ、
両剣を分解して撹乱の飛ぶ斬撃を放った後、再度結合
させてレッドドラゴンに投げ飛ばした。
『グォ!?』
フレイの斬撃を全て、鱗の表面で受けきったレッド
ドラゴンは、"最悪の失敗"に気がついた。
"奴め、纏った火炎を脱ぎ捨てて、何処かに身を隠し
た!!"
それは、本当の意味で命取りとなった。
「業火速攻」
いつの間にやら、周囲の炎熱が消えた空間で、レッド
ドラゴンの鳩尾まで迫ったフレイが握るロングソード
は、蒼く光っていた。
「超熱柱貫!」
ロングソードを刺して抜くと、蒼い光は消えていた。
直後、レッドドラゴンを中心として、蒼から赤へと
変色する炎の柱が出現し、体内を焼き付くしてから
消滅した。
『ドスン!』
「「うわっ!?」」
しばらくして、私達の間にブルードラゴンの心臓が
落下し、向こうからブラックドラゴンの暗黒息器官を
持ったフレイがやってきた。
「剣を借りた礼だ、コレも返しておく」
そう言って、ラディウスさんにロングソードを投げ
渡した。
「素晴らしい三刀流でした。我が剣を貴方に使って
頂き、光栄です」
「流派を名乗った覚えもないし、使えるものを使った
に過ぎん」
フレイは特に、異名とかに興味がなさそうだった。
「あ、あの! あなたが竜族を倒しに行く前に、手に
宝石が見えたのだけど、それってどこで拾いました
か?」
ここで、私は話を切って、どうしても聞きたいこと
を尋ねた。
「宝石? ああ、あの辺に落ちてたジュエリーデーモン
の欠片なら、片手間に拾ったぞ。正直、誰も拾って
いねぇ事に違和感を覚えたがな」
「そ、そうですよね…………」
冒険者でも、一般人でも、事前にルールを決めて
いない場合、ドロップアイテムは拾った人の物に
なる。私は心底、戦士3人の小言に付き合ったこと
を後悔した。
「それはそうと、お前は随分と貢献したらしいから、
俺から1つプレゼントしてやる。受けとりな」
「あ、ありがとう…………ございます…………」
アホな私への哀れみなのか、本当に貢献の礼なのか
はさておき、ブラックドラゴンの暗黒息器官を貰った。
…………だけどぉ、
(竜素材は、ワイルドが変に流通させたせいで、宝石
よりも低価格になってるのよーーーー!!)
その後、自由に竜素材を解体して良いと言われた
ので、弟子達がドン引きするのもお構いなしに、素材
を大量に剥ぎ取ってやったわ! ワイルドに定価の5
倍で押し売ってあげる!
「ワイルド、落ち着いてから、街の前に散らばって
いる竜素材の残骸を回収しろ」
冒険者達が、竜素材に群がっている時、フレイは
ワイルドに業務連絡を行っていた。
その頃、多くの場所で、A~SS級の竜種が謎の死に方
をしていた。
「多数大召喚・海底攻城砲!!」
ある竜達は、突如真上から降ってきた海流に押し
潰され、
「多数中召喚・海底砲撃嵐!!」
ある竜達は、顔サイズの極超音速の海水に連続殴打
され、
「多数中召喚・地獄の水分補給!…………開門時間が
長いから、コスパ悪いな。解除!」
また、ある竜達は、腹が破裂する寸前まで海水を
飲まされ、真上に吐き出さされた。
そして、この様子は、魔王軍に…………、
~魔王城~
「アヤツが居ない場所の斥候が、ほぼ同時に死んだか。
炎、圧力、電撃、斬撃、貫通…………多彩な攻撃で殺され
たのは、冒険者共の仕業に見せるためじゃろう」
ゼブルは、斥候の死因から、誰の仕業かを分析している。
「じゃが、それ以前の一斉死を除いた死は、十中八九、
正面からの撃破じゃった。炎の温度の低さからも、
フレイではなく、アヤツじゃな」
犯人を特定し、その後は、
「それだけの隠密性があるんなら、先ずは竜族の寝首
を掻きたい筈。じゃが、雑魚の監視を殺す事を優先
した。つまり、余程竜殺しを見られたくなかったん
じゃな」
犯人の動機を推察した。
「うむ。お主ら、少し様子見してこい」
「「「「…………はい」」」」
そして、竜族の死因を元に、殺害方法を確認する
べく、生け贄を4匹放った。
~とある町~
「「「「暗っ!? …………臭」」」」
生け贄に選ばれた4匹は、最期の発言が全く同じで
あり、死因もまた、同様の焼殺だった。
~魔王城~
「ぬぅ!! なんと高性能なアンテナよ!」
あまりにも広範囲かつ高速なレーダーに、ゼブルは
思わずワイルドを称賛してしまった。
「次ぎぃ! お主!!」
「ま、待ってください!!」
斥候が待ったをかけた瞬間、
「…………コヤツを拷問室に連れてけぇ」
「「ハッ!」」
「ど、どうか私の意見をををーーーー!!!」
ゼブルは真顔になりつつ、彼を拷問室に連行した。
「まぁ、しばし後で送っても、死骸の解体は終わって
いまい。リジョンでも観察するかのぉ」
推察事態は概ね当てられたが、"死骸の処理状況"を
見れなかった事で、ゼブルはワイルドの能力を見誤る
事になった。
~リジョン・ラッシュ家~
「パパー」
「しーっ」
バルディの妹、ハル・B・ラッシュが、父、ポール・
A・ラッシュに声をかけたのだが、人差し指を唇に
当てる仕草で沈黙を促された。
「今、外に恐いドラゴンがいてな、バルディ達が
頑張って戦っているから、邪魔をしちゃあダメだ」
「パパもその斧で戦うの?」
「…………いいや、俺だと既に力不足だ。だから、お前を
守りつつ、奴の隙を作れないか狙う。お前は屋敷の中
に隠れていなさい」
「うん」
ハルはそう言って、首に下げた"勾玉のペンダント"を
握りしめた。
「ママ、お兄ちゃん達とパパを守って…………!!」
そして、何処かで旅をしている母親に、願いを
呟いた。
~屋敷への坂道~
「うーわ、レッドドラゴンとバトるとか、マジで無理
だわー」
見張り台の死角となる場所を歩くカルロスは、レッド
ドラゴンとバルディ達の様子を見て、汚いものを見る
ような表情を向けた。
「俺様は小銭稼ぎをしつつ、女共を持ち帰るだけだぜ。
今夜は野外で楽しむのもアリかもな~~」
下劣な思想を胸に、1歩ずつラッシュ家へと歩んで
いく。
~最前線~
『グオオオオオオオッッ!!』
レッドドラゴンの業火が、バルディ達へと迫る。
最後まで御覧くださりありがとうございます。




