想像を超えし強者
『グルルルルル…………』
「何っ!? グアッッッ!!!!」
レッドドラゴンは、首に人類最高峰の一撃を
浴びても堪えておらず、逆にカルロスを岩壁へと
殴り飛ばした。
「私の番ね。食らいなさい、アイスバーグ!!」
ローズは先程、飛竜の幼体達に放った魔法とは
異なり、巨大な氷塊をレッドドラゴンの頭上に作り、
落としたのだった。
『グオオオオッ!!』
「うそ…………」
対するレッドドラゴンは、業火を吐いて、
容易く氷塊を気化させた。
「カルロスの治療完了です!」
「ご苦労! 生き餌以外の全員でかかるぞ!」
『パァン!』
そう言ったアーロンは、乾いた音を鳴らしながら、
レッドドラゴンの周囲を駆け回り、飛ぶ斬撃を連発した。
この音は物体が音速を超えたときに起こる
衝撃波が由来であり、彼の速度が音速以上で
あることを示している。
「女共! 隙間から援護だ!!」
カルロスも2人を鼓舞しつつ、威力重視の飛ぶ斬撃を
放ちつつ、じわじわ接近を開始した。
「雷轟衝!!」
「壊滅光線!」
氷が相殺されやすいので、雷を放つローズ。一点集中の
光線を放つアリス。レッドドラゴンの動きは止まった。
『グルルルルル…………』
「チッ! 助走距離が延びるほど強くなる
衝撃波斬が効かない辺りで察したが、
奴には俺達の攻撃が通じていない!」
アーロンの言葉通り、これまでの攻撃は、
レッドドラゴンに何一つとして通じていなかった。
『グオオオオッッッ!!』
「ブレスだ! アリスッ!!」
瞬時に後衛達まで後退し、アリスに指示を出す。
「天使の風衣! っつ!?」
息等の攻撃から仲間を守る防壁を張るも、
ブレスは貫通した。
「なんだと!?(光速移動!)」
アーロンは想定外の事態に焦り、女2人を
連れそびれて、天井へと避難してしまった。
「螺旋風!! 熱ぅ!!」
間一髪、ローズが回転する風魔法でアリスごと
自らを守るが、自身は熱風を少々食らった。
「ロ、ローズ! 回復するwa…」
「熱いんだよ! 早くしろ!!」
苦痛故の思わぬローズの暴言に
「回復してもらう立場の分際で、偉そうなことを
ほざくなよ」
アリスは冷たく見下しながら、俺に対しては勿論、
ローズに対しても言えていない事を、平然と吐いた。
「どの口g…」
「ハイハイローズちゃんストップね! アリスちゃん!」
天井に張り付くアーロンが、剣を振って熱風を
防ぎつつ、こちらに指示を出し始めた。いくら
アーロンといえど、流石にローズはムカついたので、
文句を言おうとすると
『ギロッ』
「ッッ!!」
おぞましい形相で睨まれ、声がでなくなった。
「アリスちゃん、ローズ、カルロスの回復をお願いね!
後でご褒美あげるからサッ!」
対してアリスには、笑顔かつ、ウインクすら交えて
お願いした。
「はい…………アーロン様。ローズ、さっきはゴメンね」
「え、ええ…………」
直ぐに表情を切り替えるアーロン、直ぐに惚けた
返事をしたアリスに、ローズは戦慄していた。
「奴は、俺の全力で仕留める!!」
そう言って、衝撃波を撒き散らしながら、超音速で、
それでいて蝶のように縦横無尽に動き出した。
『グルルルルル…………』
ドラゴンも、その動きに付いていけていないように
見える。
「おおおおおおっ! おおっ!」
撹乱の途中、黒焦げで瀕死のカルロスを、
アリスの眼前に蹴飛ばした。
そして、アーロンは乾いた音を鳴らしながら
跳躍し、
「疾迅刺し!!」
天井を蹴り、蜂のように、レッドドラゴンの目に
剣を突き立てた。
『パキッ…………!!』
「バカなっ!?」
この速度で、尚且つ、速いほどに威力が上がる
この技も、竜の鱗には弾け砕けた。それ以前に、
この竜は目が狙いだと認識し、着弾点を眉間へと
ずらしたのだ。
『グオオオオオオッ!!!』
すかさず顎を引き、頭上のアーロンにブレスを
放った。
「アーロン様あっ!」
カルロスを回復途中のアリスが悲鳴を上げた。
「あ、案ずるな、移動スキルで逃げたから無事だ。
だが、悔しいが、我々ではレッドドラゴンに勝てない
だろう」
「逃げるっつったって、兄貴と両脇に抱えれる
女共が限界だろう」
回復し終えたカルロスが、絶望を認識していた。
…………そう、俺が今まで敵なしと考えていた外道共
は、今やそれ以上の魔物によって、逃走のみを考えて
いる。
「…………ショウ」
「え…………?」
アーロンの見せた笑みは、俺が奴と初めて会った時
以上に優しかった。
『にぃっ…………!!』
しかし次の瞬間、いつものような悪魔の笑みを
…………いや、いつも以上の大悪魔に匹敵する笑みを
浮かべ、
「今までありがとうねぇ…………」
両脇に抱えた外道女2人と共に見下した表情で
土産の一言を呟くと、音もなく消え去った。
…………そして
ーーーーーブチッ!…………ーーーーー
「ギャアアアアアッ!!!」
レッドドラゴンとの戦闘前に受けた拷問の傷の
痛みに馴れた矢先、新たに両脚に激痛が走った。
原因は、最後に残ったコイツ…………
「やはり兄貴は天才だな」
カルロスだ。加減された両手斧の一撃により、
両脚の骨が砕けつつも、脚その物は残っている。
しかし、その中途半端な傷は、俺に限界レベルの
痛みを与えてきた。
「兄貴はスキルを用いて後衛の女共と離脱した。
そして現場には血だらけで、肉の焼けた臭いを
放つお前と俺、そして凶悪なレッドドラゴン
だけが残った」
何を…………言っているんだ…………?? じゃあ
一緒に逃げな…………きゃ………………
「つまり、お前の脚を砕いて動けなくして、
その隙に全速力で逃げてこいということだ。
流石は兄貴、本当に天才だねぇ」
…………そう言うことか。リーダーと後衛2人が
去り際に微笑みかけたのって…………そしてコイツも。
…………初めから俺は、仲間じゃなかったんだ。
最後までお読みくださりありがとうございます。