戦準備(後編)
3/30 頭痛くて筆が動かないので、次話は
明日の正午前後に投稿します。
60話
「成程な、お前がいつも作ってる謎ゲートを利用
して、敵の多い所に冒険者共を投入しまくるって
事か」
「そういうことだよ。バルディやリョウも、実力は
既に上位クラスだから、戦況に応じてあちこちに
派遣すると思う。その時はよろしく!」
「おう!」
「うん!」
「それにしてもー、皆して私服を着て、馬車に
乗って移動するなんて、何でそんな手間をかける
ことになったの?」
今、デュランが言った通り、ほぼ全ての冒険者達
が私服を着ている。このメンツだと、バルディは
赤いタンクトップの上にメタル系の黒ジャケット
を着て、下半身もメタル系の黒ズボンと黒ブーツ
を着用。
リョウも、バルディと共に購入したと思われる
ヴィジュアル系のロングコートとズボンにブーツ
を着用し、黒一色に統一している。
「ああ、近くに潜んでいる魔王軍に、兵力の分散を
悟らせない為だ。資料に書いてあったと思うけど、
魔王軍は城下町と共に、遠近大小様々な村も襲う
つもりだからな」
「そっか! 奴等が手薄な村を壊滅させようと
している所に、冒険者が目に見えて集まったら、
攻撃を断念してしまうんだね!」
麦わら帽子を被り、タンクトップに皮ズボンを
着用、そして長靴を履いたチックが、この作戦を
理解した。彼の場合、筋肉質だが脂肪も満遍なく
ついているので、桑さえ持たせれば完全に農家の
若者だ。
「あー、それで、護衛の名目で馬車に乗る俺は、
着替えなくて良いと?」
一方、護衛役のデュランは、いつも剣闘士として
着こなしている、半裸に動きやすいズボンの格好だ。
「そう言うことだ。後は非冒険者の方々や、帯刀
しつつ着物姿が標準装備のヤマト王国の方々は、
いつもと変わらない格好だな」
クレインさんの方をチラリと見て、補足説明を
した。
「要するに、作戦に支障をきたす違和感さえ
消せれば良いと言うことだな」
「ええ、おっしゃる通りです」
「そして私のように、そもそも冒険者じゃない
有志も、変わった装備をしなくても良いんだね」
「勿論です。シャールさん、良い褒賞金を確約
されて良かったですね」
「フフッ、その分、ちゃんと働くわ」
と、その時
「皆お待たせーーッス!」
2人分の足音と共に、サタヤナの声が聞こえて
きた。
「活動日なのに、私服を着れると言うことでぇ、
敢えて服を新調してまでお洒落してきました~~
~~ッス!」
自信ありげに胸を張った彼女の姿は、毛先に
近づくにつれて、明るさが増すワインレッドの
ボブヘアに黒いカチューシャを乗せており、衣類
の方は、黒字に白い花の刺繍が入った半袖ブラウス
と、黒い薔薇が飾られた膝丈のフリルスカートに、
足元を漆黒のヒールで固めていた。
「気合い入ってるなぁ~~」
「さっすが街っ娘だぁ~~」
シンプルだが、本人の可憐さに見合った様子を
見て、俺とチックは揃って感心した。
「ゴクリ…………(サ、サタヤナの癖に、可愛い…………
…………だと??)」
そして、デュランの流した1滴の汗から、彼女
の端正な姿に動揺する自分を認められない様子が
分かった。
「アッシを褒めてくれるのも嬉しいッスけどぉぅ、
我が友、ミュールちゃんの生まれ変わった姿を
ご覧あれぇえぃ! ッス!!」
彼女はそう言って、小さな身体から限界まで
両腕を広げ、ミュールをアピールした。
「に、似合って…………る……………………??」
アピールされた彼女の姿は、白のヘソ出し
トップスに、薄青色のミニスカート。そして、
必然的に露出する腕と脚には、花柄刺繍の肌が
透けて見えるアームカバーと白色無地のロング
ブーツを着用していた。
2人とも、異世界だが一周回って現代風かつ、
互いに対照的なコーデで、ミュールはサタヤナ
に推されて購入したことが、明らかだった。
「おー、服だけで随分と雰囲気変わるもんだなぁ」
珍しく、他者の格好に無頓着なバルディが、
1番に反応を見せた。
「す、凄く…………似合っているよ…………!!」
リョウに至っては、秘境の絶景を目撃したかの
ような表情で、感動している。
「本…………当…………!?」
彼の嘘偽りない評価に、ミュールの顔が赤くなる。
「何か…………所々直視出来ねぇ光が放たれてね?」
「これがセクシー系ってジャンルかなぁ? 2人
とも個性が溢れまくりだよぉ」
デュランとチックもすこぶる好印象だった。
「よし、それじゃあお洒落も済んだし、1時間だけ
だが、街を観光しよう」
そして、馬車が発つまでの1時間を、街の観光に
宛がうことにした…………のだが
「リョウ! 一緒に観光しましょう!」
「あっ、ミュールちゃん! リョウはアッシと観光
するッス!」
「え? えっ!?」
速攻で、リョウの取り合いが始まった。
「オラ、テメェら退けや、リョウは俺様とロックな
楽器の視察に行く、先約があるぜ」
更に、バルディまで参加する始末だった。
(昼に食べ放題から、崖で歌っているのが聞こえた
けど、音程は完璧に合っていたな。副業でバンド
活動でもするのかな?)
現時点で、バルディを3度しかクエストに同行
させたことがない俺は、この"歌"の強すぎる癖を
把握できていなかった。
「それなら私達も同行するわ。サタヤナもそれで
良い?」
「もっちろんッス! バント活動とか面白そうッス!
リョウと出来るなら尚更!!」
「ぼぼぼぼっ、僕…………素人…………だけどっ……ねっ…………」
2人の美女に挟まれたリョウは、緊張から口調
がコミュ障時代に戻っている。
「…………何故、奴はこうまで両極端なのだ?」
「先程もミュールから、ブランド品大好き系美女
3人を軽くあしらったと聞いたが、全くその様子
を想像出来んな」
残された武闘派系女子の2人は、その様子に
呆れながら、武器屋の方へと歩いていった。
「…………リョウ~、羨ましすぎだぜ~~!!」
「僕的にはあの中にズカズカと入れるバルディ君
の胆力が羨ましいかなぁ?」
「俺は両方羨ましいな。顔も気質も、力を得る
だけでは、中々変えられないものだ」
アースヒーローズの外道に地獄を与えるべく、
奴等を一捻り出来る力を得た俺だが、完封可能
とまでは言いきれない部分がある。
…………悔しいが、根っこはビビりなままのようで、
これまた腸が煮えくり返る事だが、ビビりな点が
俺と共通しているアーロンの、警戒心、探知能力、
そして速度を掻い潜る確信を、未だにもてない。
「そうかな~? 俺としちゃあ、ワイルドさんの
肉体を限界以上まで追い込める精神力とか、マジ
リスペクトなんだけどな~」
「ハハ、嬉しいこと言ってくれるね。デュランは
剛剣の使い手として、世界中に名声を轟かせたいん
だったっけ?」
「ああ! しがない孤児の俺が、自身の努力のみで
世界最強クラスに名を連ねれば、同じ境遇で腐って
いる奴等も前を向いて生きれると思ってな! んで、
その頃俺は、美女ハーレムに囲われてウハウハだぁ!」
「なるほど、やはり最強を志し続けるなら、いかに
自らの下心を燃やし続けるかが肝心なんだな」
「話聞いてた!!?」
「冗談冗談!」
「でんも、ハーレムを含めて素晴らしい目標だと
思うよ」
「おう! その為に、偶々遭遇したバルディの誘い
に即応じて、皆と鍛えまくっている訳だ。そういや、
チックは何で俺達の同士になったんだっけ?」
「僕は…………ワイルドさん、コレ、言って良い?」
「そうだな、奴等の名前だけ伏せてくれれば良いよ」
「ありがとう。僕はね…………」
~回想・1ヶ月前・古びた倉庫~
「醜い顔を向けるなっ!!」
「ガハァ!!」
僕は当時、とある上級パーティーの荷物持ちを
していたのだけど、そのパーティーのメンバー全員
が極悪非道で、加入して3日目で精神が崩壊する
ようなパワハラを受けたんだ。
「お前さ~~ぁ、加入するとき言ったよなぁ~~、
"誠心誠意荷物を預かり、旅路をスムーズに歩める
よう、サポート致します"ってなぁ!!!」
「ゴブッッ!!?」
フィールドでは、敏捷性の差を利用して、
わざと僕の全力で追い付けない速度を出したり、
足をかけて転ばせることで、失敗という泥を付け、
そして、帰ってきてからは、顔や急所をお構いなし
に殴り付け、全身の骨すら砕く程の威力で何度も
殴り付けられたんだ。
でも、最も怖かったのは…………
「ウフフフ…………もっとその醜い鳴き声を聞かせて
下さ~い、ひ・つ・じ・ちゃん。えいっ♪」
「ギャアアッッ!!」
熱光線でモンスターをなぶり殺す時や、僕を
いたぶる時に、邪悪な笑みを浮かべる聖職者の
女と、
「醜さが足りなーい! 聖女に恥をかかせた罰を
下ーーす!」
「ガアアアッ!?」
「でも、この世界一の美男子を、醜い声で汚そうと
した罰を与えねばなぁ!! チクチクチクチクチク
チクチクチクっ!!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ
っっ!!」
理解不能な屁理屈を付け、事あるごとに配下達に
折檻を命じ、時には自らが配下とは比べ物にならない
恐怖を与えてくる、リーダー格のソードマスターの
男が、怖かった。
「はーぁ、どーぅして荷物持ちってこんなカスしか
居ないのかねぇ?」
「きっと、前世で信じられない悪行を重ねたのですわ」
「そうとしか思えないわね。醜く汚い、クソデブがっ!!」
「…………」
刺し傷が痛みすぎて、魔導士の女に蹴られた衝撃
すら、ちょっと押された程度にしか感じなかった。
「俺達は英気を養いに行く。テメェは雑務を完ッッ
ッ璧にこなせよ!!!」
そして、死にかけの僕を放置して、各々酒場や
夜の店へと向かっていったんだ。
(…………僕は…………神様に見捨てられたんだな…………)
こうして、死神に首を刈り取られるのを受け入れ
ようとした時、
「…………これでよしと、後は特上栄養ポーションと、
特回復ポーションだな。さあ、飲むんだ」
「ゴクッ、ゴクッ、…………あれ? 僕、生きて…………」
どこかから回廊を潜ってきた、ワイルドさんに
助けられたんだ。
~回想終了~
「この経験から、荷物持ちも強くならなくちゃ
ダメだと知って、そのまま鍛える事にしたんだ」
「そっか、大変だったな。今度ソイツらが現れた
時、お前に牙が向く前に、俺が斬り伏せてやるぜ!」
チックの話を聞いたデュランは、奴等への怒りに
震えて拳を握りしめた。
(…………チーム名を言わせなくて良かった。デュラン
の正義感が、格上への恐怖感に勝ったら、間違いなく
奴等に襲撃をかけていたな)
俺は、チックに奴等の名前だけ口止めしたことを、
心底良かったと思った。
(ククッ、魔王軍を退けてからは、もっとディープな
プログラムを組んでやるぜ)
そして、勇むデュランを見ながら、(俺基準で)悪い
笑みを浮かべた。
「な、何だ? 顔がその…………キショくなってるぞ??」
~1時間後~
「よし、全員集まったな」
約束通り、全員が集合している。
「デュランとクレインさんは、馬車に乗らないと
駄目だから、お別れだな」
「ああ、拙者は偽の客人役だから、居なくても良い
ようだが、護衛役のデュランを1人にするのも酷
なので、同行する」
「クレインコーチ、お心遣い本当にありがとう
ございます! そういうわけで、しばらく会えねぇ
けど、皆無事に会おうぜ!」
「おう、今度俺様の家に招待してやるよ」
「私の家で、取れたて野菜パーティーしようね!」
バルディ、ミュールがデュランに返事をした。
田舎の家は大きいから、自慢したいのかな? と、
俺は思っていた。
「私も、ジムを整理したいので、ここで別れよう」
「分かりました」
そして、シャールさんも、この街にあるジムの
メンテナンスに向かった。自身の精神統一も
行いたいのだろう。
では、残った俺達はというと…………。
「よし、まずはリョウの家に向かおう!」
「「「「「おーーー!」」」」」
故郷の親に挨拶したい人々の家へ、お邪魔する
ことにしたのだ。
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