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戦準備(中編2・魂の大乱闘)

次話も早めに投稿できそうです。

59話


「おい、さっさと初B級クエスト選ぼうぜ!

つーか、全然話が理解できなかったけど、

何で泣きそうになっていやがんだ?」


 コイツッ!! さっきまでこの3人が、私の

尊厳をこれでもかというくらい踏みにじった

事を、理解していないの!?


「ひ、人が必死に(こら)えていることをっっ!!

どうして包み隠さずストレートに聞いて

くるのよーーーーっっ!!!!」


 私は、バルディの無神経さに我慢ならず、

大声で気持ちを吐露(とろ)した。


「うわwww 遂に泣き叫んだよwwwww」

「マジ受けるwwwww」

「醜さの極みwwwww」


 涙が(あふ)れ出す私を見て、3人の()(えつ)は頂点に

達しているようだった。


「つーか、テメェらうるせぇから黙れよ。

それでミュール、俺の攻撃食らって泣き事

1つ言わねぇお前が、何でこんなのと話した

だけで泣くんだよ? 何かの害を与えられたん

なら、力で()()せりゃ良いじゃねーか」


 バルディは相変わらず、自身の道理で助言を

している。平時なら、それが彼なりの親切心だと

判断できたが、


「そんなことしたら…………私が一方的に悪くなる

じゃない…………ッグ…………!!!」


 今の私に判断力はなく、親切心を無下(むげ)にする

否定しか出来なかった。


「か弱い女子達を殴るのは、流石にねーwww」

「女の子っぽくなりたい気持ちは、深~く

共感するよーww」

「てかディー君、女子に向かって"うるせぇ

から黙れ"は言っちゃダメだよ~」


 そして、この3人は、小さな発言の一つ一つ

を拾い、私の尊厳を踏みにじっていく。


「…………いや、テメェらの言い分は違和感だらけだな」


「「「は?」」」


 しかし、バルディは意外な事に3人の言い分

を真っ向から否定し始めた。これには3人も

面食らっている。


「まず、俺が所属していた訓練所を卒業できて

いる時点で、テメェらはか弱くねーだろ」


「いや、力が無かろうと、夜中に教官達を誘えば

余y…」

「バカ! 流石にギルドで言いふらしたらだめだろ!」


 確かに、時に、女子訓練生の痛ましい事件が

起こるような、(けだもの)の巣窟である戦士訓練所を

卒業できている時点で、この3人が"か弱い"

ということは否定可能ね。


「んでレオ、何か俺の言葉に文句垂れてたけどよ、

言葉で(さと)されている内は、優しく対応をされている

ってことが分かるか?」


「…………どういうことよ? まさかディー君、(いも)(おんな)

の肩を持つ気なの?」


 レオはバルディの発言の意図を全く理解

していなかったが、これは、順当に冒険者の

活動を行っていれば、(おの)ずと常識になることよ。


「俺が本気でキレたら、雑魚なテメェらの命なんて

1秒も持たねえって事だ」

「「「ゾクッ!」」」


 "力が全て"。バルディは、威圧を交えた供述(きょうじゅつ)で、

3人に(まご)うことなき事実を伝えたわ。


「なぁ! 野次馬共ォ! お前らも俺との乱闘で、

力こそ全てってよーーーく理解してるよなぁ!!

てか、それ以前に冒険者になった時点で分かって

ねーと論外(ロンガイ)って奴だぜ?」


「その通りだね」


 声のする方を見ると、ギルドの入り口にリョウ

が立っていた。


「君達、流石に自分の程度を(わきま)えた方が良いよ。

ミュールさんは自分の実力を、ひけらかしたり

しないから、知らないのだと思うけど、君達が

まとめて蹴散らされるバルディ君を、10回

以上は打ち負かしているからね」


「悔しいが、事実は事実だな」


「そんな彼女が、バルディ君並にケンカっ(ぱや)

かったら、君達の誰かしらの命は無かったかも

しれないね~~」


 リョウが殺気を放ちながら話すと、群衆達(ぐんしゅうたち)

緊張感が走った。


「…………確かに、あのバルディと並んでいる時点で、

冒険者としては俺らの格上じゃん」

「俺、ミュールがバルディの拳を全て(さば)ききって、

鳩尾(みぞおち)を蹴り込んでるの見たことある…………」

「…………剣士の私より速くて、つい嫉妬してしまうのよ」

「そうよね…………そもそも、見た目以前に強く

なきゃ、冒険者をやってられないわね…………。

本気で殺そうと思われたら、とても逃げきれ

ないわ」


 先程とは一転し、大多数の群衆は自身の

愚かさを噛み締め始めた。…………だが、


「うわぁ! スッゴくイケメン!!」

「うわわわーーーーー!!」


 ロニー、シロンは空気を無視して、リョウの

端正な容姿に驚きの声を上げた。そして、リーダー

格のレオが、腰をくねらせながらリョウとの距離

()め始める。


「ウフフ…………(ふた)()(まぶた)に輝きを宿す大きな黒目、

(つや)のある傷1つない肌に、適正な高さの鼻。

薄いけど色味を感じさせる細い(くちびる)に、先端部

に丸みを宿した細い(あご)。なぁんて整った顔

なのかしら…………」


 そして、両手を頬に添えながら、自身より少し

背の低いリョウの目を上から見つめた。


「手も爪も、信じられないくらいキレイ…………」

「魔法系でも、手荒れとか悩みが尽きないらしい

のに、これは奇跡よ…………」


 シロン、ロニーもリョウの手を取り、その

美しさに感動した様子を見せている。


「アタシはレオ。右側がシロンで、左側はロニー

よ。良かったら、あなたの名前を聞かせてくれる

かしら?」


「僕の名前はリョウ。君ta…」


「リョウ…………素敵な響き。ねぇリョウ、アタシ、

あなたに(ひと)目惚(めぼ)れしちゃったみたい」


 リョウが自己紹介の後に何かを言おうと

したが、レオはそれに気づかずに告白紛い

の事を始めた。


「それワタシのセリフー!」

「私のよー!」

「こんな風に、アタシ達はあなたの(とりこ)なのよぉ…………」


 レオはリョウとの距離を先程の半分まで詰め、

左右の2人は両手でリョウの手を取り、迫った。


「これからさ、クエストなんて放り出して、私達

とホテルに行かない?」

「自分で言うのもなんだけど、ワタシ達アッチの

自信は凄くあるんだよ!」

「一緒に楽しもうよ~」

「なんならぁ…………、一生、あなたを養うわぁ

…………ね?」


 それこそ、今にも唇が重なりあう程の近距離

まで接近し、誘惑(ゆうわく)を仕掛けている。


「マジかよ…………男を財布としか見ていないレオが、

本気で迫ってるぞ…………」

「リョウレベルの顔ならあり得なくないのか…………」

「私、彼と一緒にクエスト受けてから思ったん

だけど、(るい)を見ない優良物件よ、彼」

「ヒューヒュー! くっついちまえー!」


 群衆は愚か。そういう相場が決まっている

かのように、リョウとレオをくっつけよう

という空気が広がったわ。


「「「キース! キース!」」」


 そして、こうなったのよ。…………見てるだけで

辛い。心底この空気を壊したい…………けど、


(リョウ…………あなたが…………レオを受け入れるの

であれば…………)


 レオが死角になって、表情こそ見えなかったが、

リョウの気配が不自然なレベルで平時と変わら

なかったから、私はてっきり、彼女を受け入れる

つもりだと思い込んでいた。


「一旦、2歩下がって」


「えっ??」


 だけど、彼はレオを軽く押し退けて、キスを

回避したわ。


「「あれっ?」」


 手を取っていた2人も、リョウの手が抜けている

事に驚いている様子だ。


「もしかしてぇ、私より背が低いことに負い目を

感じてるのぉ? ウフフフッ、こぉんなイケメン

なんだから、気にすることは無いわ~」


「そうよ、レオが言ったのだから間違いないわ!」

「うんうん!」


 3人は、レオとの身長差が原因だと推察(すいさつ)した。


「そうじゃないよ。単に出会ったばかりの人達と、

あろうことか三股みたいなことが出来ないだけ。

そして、それ以上に」


 しかし、リョウは始めに、常識的な断りを入れて

から、(まと)う空気を一変させ、


「僕の友達を泣かせるような下衆(げす)共と、死んでも

交わりたく無いからだよ」


 持てる殺気を全てレオに向けながら、()(ぜん)とした

態度で拒絶した。


「ッツ!?」

「ちょ、嘘でしょ!?」

「リョウ君ッ、あろうことか芋女の肩を持つの!?」


「せめて名前で呼べよ。そんな呼び方するなんて、

本当に軽蔑(けいべつ)するなぁ…………。っと、君達の相手は後だ」

『フッ!』


 リョウは、3人に軽蔑の意思を伝えた瞬間、

彼女等が目視不可能な速度で私の前に移動した。


「一旦、1人で落ち着くといいよ。クエストは

バルディ君と探しておくから」

「リョウ…………」


 彼はハンカチを手渡して、優しく諭してくれた。


「え…………あんなのに、ハンカch…」

「下衆は口を開くな」


 レオがリョウの行動を利用して、私を()(べつ)

しようとしても、即座に牽制(けんせい)してくれたわ。


「イ、イケメンだからって、レオをいじめるなんて、

あんまりじゃない!?」

「美女を踏みにじって、自分のヒエラルキーを

誇示(こじ)しているつもり?」


「…………僕の顔の良し悪しはさておき、僕がレオ

さんに威圧しているのは、さっきも言った通り

僕の友人を泣かされた事に、腹が立ったからだよ。

外からも聞こえたけど、立場を履き違えた独自の

論理で、有能且つ誠実な人物を(おとしい)れようとする

なんて、小物で下衆な人間のやることだよ」


「「「こ、小物でぇ…………下衆ぅうぅ…………!?」」」


 リョウに否定されたことで、これまで殆ど

男に否定されなかったであろう3人は、大きく

動揺した。


「そうでしょ? 君らが何を考えて冒険者に

なったのかは知らないけど、冒険者の最重要

項目は"戦闘力"。いくらファッション界で

最高のcastle(キャッスル)製品を身につけていても、

戦闘力でミュールさんの足元に及ばない君ら

は、間違いなく小物だ」


「ぐうっ…………こんな…………(クソ)なイケメン…………」

「初めて出会った……………………」

「私達のこと…………全否定しやがった…………」


「"全"否定は誤解だよ。使い道は本当に酷いけど、

男を虜にする誘惑スキルは、間違いなく君達の強み

だ。まぁ、僕には効かなかったけどね」


「「「………………」」」


 リョウに()(じょく)する意図は無かったが、(とら)え方次第

で侮辱に聞こえる弁論(べんろん)を聞き、3人は涙を堪える事

で精一杯になった。


「後、僕が君達に出会うのは、実は"2回目"

なんだよね」

「「「!?」」」


 突然のカミングアウトに、3人は動揺を見せる。


「もう記憶にも無いかも知れないけど…………、

目を前髪で隠した、こんな感じの陰気臭い男が、

君達のパーティーに入ろうとしたこと、無かった?」


 リョウは、左手で前髪を鷲掴(わしづか)みにし、両目を

隠して見せた。


「!!」

「あの時のクソ陰キャ!」

「嘘だと言いなさいよぉ!!」


「何か、僕の顔が好みだったみたいけど、残念

だったねぇ~~(ちょっと前にも似たようなこと

があったよね…………)」


 あるパーティーに復讐した時の展開と似ている

ことに、リョウは思いを馳せながら泣き崩れる3人

(あわ)れんだ。

 と、その時


「ふざけんな! 偽物!!」

「何?」


 殺意を纏って投げ飛ばされた槍を、錫杖(しゃくじょう)

いなした。


「イケメンだからって、美女達を泣かせやがって

…………許せねぇ!」


「その基準なら、まずはミュールさんを泣かした

彼女達を説教すべきだよ」


「な!!?」


「そうでしょ? この3人が一方的に嫌っている

だけで、ミュールさんの容姿が優れている事が(くつがえ)

訳じゃない。(むし)ろ、僕的にはファッション面も、

TPOに沿っている彼女が上だと思うよ。そんなに

性能が壊滅したブランド品を推したいなら、(はだか)一貫(いっかん)

で同じランクのモンスターを倒してから推奨しなよ」


「ぐぅぅ…………バルディじゃあるめぇし…………」

「常識でモノをいえや…………」

「テメェなんて…………バルディがいなけりゃ

フルボッコだぞ…………!!」


「そう? そんなに僕とケンカしたいんだ。なら

バルディ君、今回は僕たちのケンカを見守って

くれるかい?」


「ま、たまには見て学ぶのも悪かねぇか」


「うん、彼は終始見学するみたいだから、存分に

殴り合おうよ! あ、君達へなちょこ達を相手に、

死霊術士の力は使わないから安心してねー!」


「言ってくれたなぁーーーー!!」

「ぶっ殺してやらぁーーーー!!」


 早速、戦士系の男1人と先程槍を投げた重歩兵

が突撃してきた。


「初手不意打ち~!」

「がはぁ!?」


 リョウは最高速度で重歩兵に密着し、発勁(はっけい)

即落ちさせた。


「ぬぅおお!?」


 リョウの動きを見切れなかった戦士は、掴みで

動きを封印しにきた。


(じゅう)よく」

「!?」


 が、リョウは戦士の両肘骨を掴み、最小限の力

で膝をつかせると、


(ごう)を制す!」

『ズドドドドッ!!!』

「カハァ!!?」


 5発程度の蹴りを鳩尾に入れ、ダウンさせて

しまった。


「こうなりゃ武器で殺せ!」

「ドルオタ舐めんなよ!!」

「元陰キャイケメンなんざ、認めねぇ!」


 リョウのフィジカルを理解した男達は、武器を

持ち出し始めた。


「全力でぶつかろう!」


 そういってドルオタ軍団に向かうリョウの表情は、

心底楽しげだった。


「当たらn…グハッ!!」

「えっ!? ゴフゥ!?」

「グオオッ!?」

「あっ! ガハァ!!」


 時にラッシュを全て避け、時に素早さで翻弄(ほんろう)し、

時に相手の力を利用したカウンターを決め、時に

武器を奪い取りながら殴り倒した。


「バルディ君! ケンカって(モノ)(スゴ)く楽しいね!!」


「やっとわかったか! この瞬間を楽しめ!!」


「うん! 待て待て~~!!」

「「ヒィイィィィ!!」」


 乱闘者の人数が減った頃、


「…………まーたバルデye…リョウ!!?」


 御手洗いで心を落ち着かせつつ色直しを終え、

戻ってきたミュールだったが、乱闘で暴れている

人物がリョウであることに動揺した。


「あ、ミュールさんお帰り~! ケンカ楽しくて

仕方無いんだー!」


 リョウはハイになっているのか、楽しげに私の

復帰を喜んだ。


「おおおっ!」

「甘~い!!」

「グハァ!?」


 そして、最後の1人をカウンターの拳で倒して

しまった。


「あー楽しかった~。僕のケンカ、どうだった?」


「ああ、シャールの格闘技ベースにステゴロの

熱さも混じって、お前の(タマシイ)を感じ取れたぜ」


「それは何よりだよ!」


「う、うう…………」

「テメ、マジぶっ殺す…………」


「あっ、まだまだ語りきれない人が要るみたい。

2人とももうちょっと待って」


 そう言って、ヨレヨレの2人に向かったが、

妨害が入った。


『全冒険者に告げる。これより、大規模魔王軍討伐

作戦の説明を行う。従って、空いている席につき、

職員が配る資料を受け取るように!』


 ワイルド、フレイ、女王を筆頭に考えた作戦が、

全冒険者に通達されたのだ。

最後までご覧下さりありがとうございます。

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