リベンジ・オードブル -転-
かなり長めです
44話
「お前らよぉ、最近勢いついてるだか知らねぇけど、
型破りな俺達カッケェとか思ってんのか知らねぇけど
よぉ! 陣形崩して俺達を危険に晒した挙げ句、討伐数
を根こそぎ奪うたぁ、どういうことだぁ!!」
先程まで、迫り来るサイクロプスに対して両目を
瞑り、両腕で頭を隠していた重歩兵・ドグロは、危機
が過ぎ去ったや否や、バルディ達に対して恩を仇で
返すような暴言を放ち始めた。
「そ、そうよー! 皆で固まって迎え撃てば、誰も
傷つk…」
咄嗟の詠唱すら出来なかった魔法使い・サンドラも
ドグロと同調しようとした。しかし、
「あぁ?」
「「…………っつ!!」」
バルディが"うるせぇぞ"といったニュアンスで、軽く
威圧しただけで、2人揃って何も言い返せなくなった。
「ねえ、3人共、ちょっといい?」
「な、何だよ…………」
今度はミュールが話しかけた。ドグロは最早、怯え
ながら返答することしか、出来ていない。
「走りながら見ていたけど、さっきの、まるでお遊び
みたいな立ち回りは、いったいどういうつもりなの?」
この"立ち回り"こそが、ミュールやバルディが呆れて
いる理由である。
「かたや、仲間を守るべき重歩兵が、槍を投げ捨て
自ら防衛力を下げ、かたや、遠距離から援護すべき
魔法使いが、援護に用いるべき口を無意味な絶叫で
浪費し尽くして、かたや、目前の怪我人を癒すべき
回復術士が、重傷者の手当てを瞬時に取りかかれなく
て、…………あまりにも杜撰な立ち回りだったから、
筆舌に尽くしがたいわ」
以上、ミュールが語ったことが、このパーティーの
ほぼ全てを表していた。
「それとね、君達には無理だろうけど、僕達からすれば、
下手に防戦を行うより、仕留めれられる敵を矢継ぎ早に
仕留めた方が、安全にクエストを攻略出来るんだよ。
あと、即興の作戦だったから多少の穴は仕方ないにしろ、
今回の作戦について、君達のリーダーと話したい」
パーティー全体がこの程度でも、サザンはリーダーだ。
ならば、奴には"自分達はこの程度の事なら出来る"という
事実を伝える責任がある。
「ローリー、いつまで回復に時間かけてるの? 戦闘中
なら、とっくにパーティーが壊滅しているわよ!」
ローリーの治療があまりにも遅く、ミュールさんの
機嫌が更に悪くなった。僕も同感だ。
「ぁあ…………あと1工程ですぅ!…………グスッ!!」
失禁したことを見られて焦ったのだろうが、僕達は、
そんなことより、早くサザンを目覚めさせてほしいと
思っている。
「あ、あれェ…………?」
「「サザン!」」
リーダーが無事に目覚めた事で、女子2人は明るい
声を上げて、それぞれ奴の片手を握った。
「どいて」
「「キャッ!?」」
しかし、ミュールさんは心底冷めた様子で2人を
押し退け、サザンの目の前にしゃがみ込んだ。
「ミュールちゃんッ! もしかして僕はァ、君に助k…」
「そんなの聞かなくても分かるでしょ? それよりも、
あなたに聞きたいことがあるのよ」
「なッ、何でしょうゥ…………??」
サザンは場の雰囲気と、何よりも彼女の威圧感に
萎縮した。
「サザンはさ、どうして自分達の実力が、サイクロプス
に及んでいないことを、私達に伝えなかったの?」
「えとォ…………な、舐められたら何されるか分からない
からァ…………」
「まぁ、そこは百歩譲って認めるわね。でも、それなら、
あなたがドグロと共に盾役になって、私達の誰かが負傷で
後退した時に、十分に回復できる安全圏を作ること
だって出来たじゃない」
「で、でも…………、そしたら私は…………、敵が近付かない
限り役に立たない…………」
サンドラが、ずっと安全圏にいる前提で話をしてきた。
「いや敵が遠い時は、サザンと並んで遠距離攻撃をして、
敵が向かってきた時は、下がりながら牽制すれば良い
じゃん。近距離型の僕でも魔法系の基礎戦術として学習
したよ?」
この程度の戦術すら行えないことに、僕は心底呆れて
しまった。
「まっ、要はテメェがしゃしゃり出なけりゃ良かった
訳よ。仮リーダーな俺でも分かる。お前は仲間の側で
戦うべきだぜ。帰ったらコンビの練習でもやっときな」
バルディ君の言う通り、サザンの監督不行きが垣間
見える。今までよく、4人とも五体満足で居られた
ものだ。
「そうね。普段はあなたも仲間の近くで戦っている
でしょうし、あなたの離脱で3人の不安を増大させた
のは今回の反省点ね。次にリザードマンの集団と
戦う時は、その辺の作戦を綿密に練りましょうか」
「それじゃあ、移動しながら早々に組み立てて、上手く
裏を取れたら更に粗を無くそうよ」
こうして、移動しながら作戦を練り上げていった。
「ま、これが妥当だよな」
次は、小~中サイズの人形モンスターを、大量に
討伐する事になる。それ故、サイクロプスのように
急所が高い位置に無いため、速攻後のバルディ君の
復帰速度も速い。
したがって2つのプランが出来た。
・プラン1 : 奇襲作戦
始めに、僕達3人で、大多数を殲滅する。この時の
殲滅数に応じて、AルートとBルートに分岐する。
Aルート : 大多数の殲滅に成功した場合、サザンと
サンドラも積極的に遠距離攻撃を行い、特にサザンは
どんどん前線寄りに出て、素早い制圧を心がける。
Bルート : 半数程度残っている場合、僕やミュール
さんは即座に引き下がって円陣を組み、バルディ君も
隙だらけの個体を倒しながら、円陣に合流する。その後、
防戦で倒しきる。
・プラン2 : 真っ向勝負
バルディ君、ミュールさん、幽霊さんによる速攻を
行うが、脇から1個体でもあふれでたら、直ぐ様防戦
に切り替える。僕自身は、始めから円陣に配置する。
この作戦では、サザン達の働きも重要になる。
「僕を認めてくれた5名は作戦に入れられるけど、
ゲストの幽霊さん達は、人数も強さも呼んでからの
お楽しみだから、作戦には入れられないよね」
更に、零体がすり抜ける特性は、攻めには有効だが、
円陣を組んだ防戦となると、文字通りすり抜けて後衛
に殴り込まれる危険性があるのだ。
「今度は上手くいくと良いわね」
「そッ、そうだねェ…………」
ミュールさんの発言に、サザンは不安げに答えた。
「だーかーらぁ、テメェが不安がってんじゃねーよ!
報酬も山分けしてやるから、安心しろや!」
『ッゴオッ!!』
そう言って、僕らにするような力加減でサザンの背を
叩いた。これは結構なダメージが入ったな。
「ゴフッ!? あ、ああ。皆、頑張ろう!」
「お、おおー!」
「「うんっ!」」
バルディ君の鼓舞と約束により、奴等はやっと
仕事モードに復帰できた。ハッキリいって、そこまで
してやる価値はないが、報酬については誰が相手でも
こうしている筈だ。
「僕達は冒険者の矜持を持っている。だから、どこか
の外道パーティーとは違い、没収みたいな汚いマネは
しないよ」
だけど、不満はあるから軽くカマをかけてやった。
正当なパーティーなら、笑い話になるようなカマだけど
ね。…………んん?
「……………………」
「ゴクリ…………」
「そ、そりゃそうだよね~~…………」
「レイ君、ココロモイケメン~~…………」
…………コイツら、ここまでグズだったのか…………??
それからの道中も…………
「…………」
「んだよ? 言いたいことあんなら言えや」
「い、いや(怖え…………!!)」
ドグロがバルディ君に不服そうな眼差しを向けたり、
「ミュールちゃんッ、今なら入団時に金貨20枚ィ、
クエスト報酬の5割と毎月金貨10枚をあげるからァ、
サウザンドグローリーに入らn…」
「あのさ…………、私の事バカにしてるの? さっき私達
の矜持を聞いておいて、金で釣るとか最低だよ。勿論
断るわ」
サザンがミュールさんの勧誘に大失敗したり、
「レイ君~、私の事~」
「私の事も~~」
「「養ってよ~~」」
「っしつこいにも程があるだろっっ! いい加減に
してくれよ!!」
僕に、性悪な女2人がくっついて来たのだ。
「ねぇ! さっきからレイが嫌がっているでしょ!
というかあなた達、私達に嫌がらせしているの?
逆恨みもいいところよ!」
ミュールさんが正論でフォローしてくれた。
その、数秒後だった。
「あぁんの芋女ぁ…………、腹立つわぁ…………」
「この際、背後から脚を焼こうかしらぁ?」
ボソボソ声だったが、女2人が本性を表し出した。
僕には断片的にしか聞こえなかった声だったが、
五感が優れる彼女は、全て聞いていた。
「ん?」
「あっ! えーと…………、ミュールさんって脚キレイ
だなーって、思いましてぇ…………」
「そう! そう! ボディラインがハッキリとしている
と、いいますかぁ!?」
「そ、ありがと(思っても無いことを…………)」
幾ら事実でも、取って付けたような言い訳が嬉しい
筈がない。この時の僕は、そう解釈していた。
「…………なぁ、あのレイって奴さ、やっぱりリョウって
いう陰キャ野郎と同一人物じゃね?」
「ドグロもそう思うかァ? 髪型が違いすぎてェ、僕も
最初は気づけなかったがァ、幽霊を出す事といいィ、
類似点だらけだ」
「ちょっと顔とスタイルが整ってると仲良くしている
からって、調子に乗りやがって…………、俺にボコられた
雑魚の癖に!」
「あれだと物足りなかったようだなァ。クエストが
終わった後ォ、背後から奇襲をかけてェ、リョウの
目の前でミュールをヤるぞォォ」
「グフフ…………、今日は刺激的な日になりそうだな…………」
男2人が正しく獣の本性を表した。そして、この
会話を聞いたミュールさんは、いよいよ僕の行動に
ついて聞いてきた。
「ねえ、リョウ…………、リョウがアイツ等にレイって
名乗ったのは、前から知り合いだったからなの?」
表情には、罪悪感と不安が混ざっていた。今朝、
奴等と合流した際、僕の異変に気付けなかった事と、
そもそも何故、僕があんな奴等と関わりがあるのか
が不明な点が、理由だと思われる。
「うん。僕は以前、奴等のパーティーに所属して
いたけど、理不尽な追放をされたんだ。円滑な攻略
の為に偽名を名乗っていたけど、もう必要無いみたい
だね」
少なくとも、あんな下衆共と志が同列でないこと、
これを示すためにも、事のあらましを正直に話した。
「そう…………。早くに気付いてあげられなくて、ゴm…」
「ううん、今の僕は、奴等程度に負けない。だから、
君が謝る必要は、欠片も無いよ」
何より、こんな奴等と僕の下らない因縁の為に、
家族を想う2人の稼ぎを、邪魔立てされる筋合いは
無い。
奴等は圧倒的に弱く、どうしようもないグズだ。
そんな奴の為に、生まれ持った名前を隠すことも
馬鹿馬鹿しいと、僕は思った。
~リザードマンが巣食う洞窟~
「…………!!」
『クイッ』
リザードマン達の裏を取れたので、サイクロプス戦
と同じスタートで、戦いの火蓋を切り落とした。
「ドルルルルルゥァアアアッッ!!」
バルディ君が、縮地でリザードマン達の目前まで
瞬時に距離を詰め、超高速回転をしながらS字を描く
ように動き、群れの大多数を殲滅した。
作戦1・Aルートの遂行が決定した。
「フッ! ハッ! ハッ!」
「怨霊招来!」
ミュールさんは走りながら、手頃な岩をリザードマン
達へ弾き飛ばした。岩1つにつき、1~3体程仕留め
られている。その間、僕はいつもの5名とゲストの
幽霊さん達を呼んだ。
『ワン!』
・・・柴犬?
「た、頼りにしてるよ! 皆さん、最大パワーの一撃を
お願いします!」
『『承知!』』
『アース・ジャベリン!』
ヴィヴィアン様が地面から岩の槍を大量に出し、
10体を倒した。
『乱れ打ちぃ!!』
『グワォオオーーー!!』
次に、ニーナちゃんが2体を鞭の連打で仕留め、
ゲイルが1体の喉元を食い破った。
『絶技・無明鎌鼬の乱!』
アンドレさんの鎌鼬と電光石火の斬撃の合わせ技
が、6体を葬った。
『蜂・連・槍!!』
「スピニングクラッシュ!!」
レオンさんは、連続突きで4体を貫き、ミュール
さんは、スピンで遠心力の乗った戦槌に6体を張り
つかせ、壁に叩きつけることで倒しきった。
「(こういうところは戦士ならではだよね)うおおっっ!!」
「グギャアッ!!」
僕だって、戦士達には及ばずとも、急所さえ
殴り付ければリザードマンを即死させる程度の
力はある。
「ギャオオッッ!」
「おっと!」
更に、ワイルド君に鍛えられた筋力と、シャール
さんから学んだ体捌きを駆使し、至近距離からの攻撃
を回避する事も出来る。
『アオーーーン!』
ゲストの柴犬君が、1体の首筋に食らいついた。
パワー不足で牙が通っていないが、両者の表情から
因縁の相手だと分かった。
「助太刀するよ!」
零体がすり抜ける特徴を活かし、柴犬君の上から
リザードマンの首筋に、錫杖を命中させた。
『ガブッ!!』
「ギャガッ…………」
結果、硬度が低下した鱗に牙が通り、柴犬君の
復讐は完遂された。
その後は、幽霊さん達が左右から、ミュールさんと
僕が正面から、バルディ君が後ろから群れを攻め立てる
ことで、あっという間に殲滅が終わった。
一応、包囲網から抜け出た個体を、サウザンド
グローリーの連中に任せた。
「雷撃!」
「グギャアッ!?」
向かってきたリザードマンに対し、サンドラが
電撃を放った結果、麻痺効果が発動した。
「ヌゥリャッッ!!」
「カアアアッッ…………!!」
動けない的なら任せろとばかりに、ドグロの
狙い済ました一撃が、心臓を貫いた。
「斬風脚ゥ!」
サザンも、脚に切断力が生まれる程の暴風を纏い、
後ろ回し蹴りの一撃で、1体の首を切断した。
「うっし、終わりだな!」
「素材を回収して帰りましょう!」
任務を達成した戦士2人は、清々しい表情で
帰り支度をし始めた。
「そうだね!」
僕も、後ろの奴等が居ることはさておき、柴犬君が
仲間になった事で、それなりにいい気分だ。
「…………4体ィ、かァ」
「対するバル君達は…………」
「50体以上は確実だ…………」
「個人討伐数だと、誰もレイ君本人にも勝ててないよ…………」
対するサウザンドグローリーは、歴然とした討伐数
の差に、誰1人として笑顔を浮かべられなかった。
~帰り道~
「…………通りでイケメンなのに、どこかしっくり
来なかった訳ね」
「クソ陰キャ風情が、調子に乗りやがって…………!!」
「目にもの見せてやろうよォ」
僕達の背後では、こんなヒソヒソ話がされていた。
「ま、好きに遊べばいいんじゃね?」
「向こうから来てくれるみたいだし、良かったわね」
「うん。2人とも、"最初"だけ頼んだよ」
だが、僕達の方も準備万端だ。
~ギルド・受付~
「って感じでよ、さっさとワイルド達に追い付き
てーんだわ!」
「フフフ、お三方なら直ぐに追い付けると思いますよ。
サウザンドグローリーの皆様も、エースルーキーな彼等
と組めて、運が良かったですね。皆様の報酬金です!」
僕達がリズさんから報酬金を貰った後、4人にも
報酬金が渡された。1欠片も悪気の無い、皮肉と共に。
「あァ、ありがとうゥ。リズちゃん…………」
「さっさーて、もっと可愛いローブを新調しよっと!」
個人的には、既に胸が空いているのだが、奴等の
士気は頂点に達しただろう。さぁ、フィナーレだ。
「前に俺と入ろうとしたら、兄妹はお断りですって
言われたもんなーwww」
「全くよ」
戦士ペアの、骨折り損エピソードを交えつつ、行動を
開始する。
「ま、2人で楽しんで来いよ」
「うん。ありがとう」
「行ってくるわ」
まずは、恋人限定の料理店に行くという口実で、
見るからに強いバルディ君と別れる。
「フフッ、緊張しなくても良いのよ? リョウ」
「そ、そうだよね~。本当にカップルな訳じゃ無いし」
そして、イチャつく演技を行った。この時、僕は
本当に心臓が高鳴った…………、というのは置いといて、
その結果、
「ウラァ!!」
脚に纏った風魔法で加速したサザンが、僕を殴り
付けてきた。
『カァン!!』
「やっぱり来たね」
僕は錫杖で、軽く受け止めてやった。
「らッ!」
奴は更に、宙で脚の風魔法を炸裂させ、ミュール
さんに蹴りを繰り出した。大したコンビネーション
だが、バルディ君の速攻すら回避せしめる彼女に、
そんな脚が当たるわけが無い。
「女を足蹴にしようとするなんて、本当に録でもない
男ね」
案の定、冷やかな表情で軽口を叩かれている。
「今だァ! やれッッ!!」
「うおおおおおっっ!!」
正面から、ドグロが突撃してきた。うん、欠伸が
出る遅さだ。
「炎球!」
何故か怒り顔のサンドラが、背後から炎球を放って
きた。コイツはそこまで接点が無い筈だが…………?
ドグロと挟撃される寸前に、サザンの居ない方向へ
回避する。
「あっづぅう!!」
「ふぇえ!?」
当然、ドグロに被弾した。鳩が豆鉄砲を食ったような
表情をしながら、ローリーが回復に駆けつける。
「君達さ、どうして僕に攻撃するの?」
理由なんて、たかが知れているだろうが、奴等の
口から直接聞こうではないか。
「黙れ! 弱くて根暗だった分際で! あたかも期待の
新人のような扱いを受けているのが気に食わないんだよ!」
「そうよ! その上、イケメンのふりして私達を欺こう
として!」
「私達の夢を返せ!!」
…………ああ、それでサンドラは、隣の小便漏らしと
一緒にキレているんだな。被害妄想を押し付けるのも
いい加減にしろよ。
「そっくりそのまま返してあげるよ。悔しかったん
でしょ? 僕の顔が、本当は好みだったのに、以前は
見抜けず逃してしまったことがさ」
「「!!」」
「もう手遅れだ、僕は君達が大嫌いだ。今後も
そうやって好みの男を逃がしていくと良いよ」
「雷撃!!」
「おっと!」
魔法の着弾位置を見切り、回避する。
「ひゃっ!?」
「いい加減にしなさい。これ以上リョウに危害を
加えるなら、私も我慢できないわ」
「ガッ…………ッッ……………………!!」
ミュールさんが、サンドラにチョークスリーパーを
かけながら、脅した。
「てんめぇえぇ~~…………」
その様に、ドグロが怒る。
「非力で、愚鈍で、それなのに性悪で、そんなあなた
達のパーティーに、どうして私が加入すると思ったの?
サザン」
「お前の意見なんて知ったこっちゃねぇ! 僕が入れと
言ったら入るんだよ! そして3人目の愛人として可愛
がられろ!」
「勿論奴隷身分でね!」
サザンとローリーが、2人がかりでミュールさんを
攻め立てた瞬間、僕の堪忍袋は音を立てて切れた。
「その腐った根性、男の自信と共に叩き潰s…」
「待って、それ、僕がやるよ」
だから、ミュールさんが起こすであろう決闘を、
僕が起こすことにした。というか元々、こうして
誘い混んでから起こそうと思っていた。
「元々、僕とコイツらの問題だったし、何より、
ミュールさん強いから、君に負けてもサザンの
腐った根性は潰れないと思う」
彼女相手では、4人がかりだろうと、無傷で圧勝して
しまう。そしたら、"相手が悪かった"って開き直って、
反省しないと思う。
「…………でも、リョウだって私と変わらない強さだよ?」
「だから、僕は幽霊さん関係の技を一切使わない。
使うのは、肉体と錫杖のみだ。どう? 挑んでみる
かい?」
MPと引き換えに、幽霊さん達の力を使っても、結果は
変わらない。…………いや、"他人の力を借りただけのお前
には、負けてない!"と、更に増長してきそうだよ。
ならば、戦士達に敵いようの無い、"貧弱な力"
だけで、敗北を与える。そう、徹底的に、"身の程"を
教えるしか、ないよねぇ?
「…………本気かよww」
「私達の楽勝じゃーんwwwww」
「男前になったってところは認めてあげるwwww」
「挑むよォ。そしてェ、僕らの1人でも勝ったらァ、
ミュールちゃんは頂くぜェ…………!!」
案の定、奴等は正気を見出だし、下衆の笑みを
浮かべた。これで、下準備は完璧だ。
「ああ、お前らの誰かしらでも勝てば、ミュールさん
を好きにすれば良いよ。まぁ、勝たせるわけ無いけどな」
(リョウが態々"好きにすれば良い"って言ったのは、
恐らく万が一の時は、私も自由に動けって事を伝えた
のね…………)
「じゃァ、勝たせてもらうねェ!!」
サザン達が、一斉に攻撃を放ってきた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。




