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ベンチ・プレス


~回想~


「大胸筋をデカくするベンチプレッスはぁ~~♪、

胸に着くまでバー下ろしィ~~♪、胸筋のみをォ~、

固めきるゥゥ~~♪♪」


 1年前のある日の休み時間、帰宅してから

野良猫達に持っていくお土産を、1人で考えて

いた俺は、陽筋こと、クラス1筋骨隆々なクラス

メートに謎のラップを聞かされていた。


「死守るポイント2つありィ~~♪、1つ目肩を

外に巻きィ~~♪、2つ目肩を持ち上げなーい♪♪」


(歌上手いのが逆に腹立つって、相当だぞコイツ…………)


~回想終了~


(…………で、持ち上げるときは親指側に力を込めて)

『ブンッッ!!』


 扱う重量がワイルド基準で軽かった為、

挙上(きょじょう)時に空気が押される音が鳴り響いた。


(動作終了の直前に、全力で親指を押し上げる

ように働きかけることで、内側の筋繊維にも

刺激(インパクト)を入れる)


 そして、ある程度コントロールされて

下ろされていく、


(下ろす時は、軽めの重量の場合はストンと下ろし、

重めの場合は安全に配慮してコントロールする。

どちらも小指側に力を込めるのを忘れずにと、

そして、胸にバーが当たる切り返しの直前に、

大胸筋を全力で収縮させる!!)


『ゥウ"オ"ッッ!!』


 等速落下を行っていたバーが、突如加速度的に

上昇し、ラックにかけられた。


「見映えはこんな感じだ。1度に沢山やっても

覚えられないだろうし、今回は予め伝えた3点を

意識してもらうよ」


 俺は6rep()、速度の異なるベンチプレスを

繰り返し、3人に実践を呼び掛けた。


「なる程な、肩を外側に巻く事で、スタート時に

大胸筋を伸ばす」


 バルディが1点目を言った。


「バー…………ベルを押し上げる時に、肩を

ベン…………チ? に押し付ける事で、大胸筋の

収縮を最大化します」


 ミュールが、新たに覚えた単語をうろ覚えで

使いながら、2点目を述べた。


「挙上は親指に力を入れ、フィニッシュで

大胸筋を固める。成る程、確かに大胸筋"のみ"を

全力で収縮させられるのだな」


「そう言うことです。というわけで、一番は

バルディだ!」


 バルディが肩の外旋を意識し、ベンチに

寝そべった。


「最初の数回は遅めに挙げて、筋肉の動きを

覚えるぞ」


「おう!」


 筋トレ熱心なだけあり、初動から筋がよかった

が、それでも細かな粗があったので、修正していく。

というか、陽筋(ようきん)君のお陰でメッチャ筋知識あるなぁ俺。


「次は少し速めよう」


「フッ!」


「良い呼吸だ」


 筋トレでは、挙げる時に息を吐くのだが、中重量

以下の重りを一瞬で挙げる時は、腹の息をこれまた

一瞬で吐くことで、パワー増幅とアドレナリンの

分泌を期待できる。


「もっと速く! 速くっっ! よし、そこまでだ」


「フゥ…………フゥ…………正直軽すぎだが、俺の方も

加速度的な筋トレを侮っていたぜ」


 これにて、1セット目が終わった。200kgの

重さは、バルディにとっても、軽すぎたようだ。

しかし、後半に加速度テクニックを用いた為、

若干息が上がり、微少のパンプアップすら起きて

いた。


「取り敢えず息が整うまで休息だ」


「いやー、こんな方法、訓練生時代は1度も

やったこと無かったぜ」


「私でも普通に()げれそうな感じなのに、

バルディの息が上がっているのが不思議だわ…………」


 ミュールは、この重量でバルディの息が上がった

ことを不思議がった。


「けどよ、加速度テクニック使ったら、何か

スッゲェ、テンション上がるんだよ! ワイルド、

2セット目頼むぜ!」


「OK!」


 重量を500kgに変更し、2セット目が始まった。


「オラッ! ハアッ!!」


「もっと速く! 挙げろっ!!」


 俺は、バーがバルディの胸筋に当たる直前に

号令をかけることで、"切り返しテクニック"を

誘発させた。


 切り返しテクニックとは、筋肉の収縮速度に

応じて発揮可能な最大筋力が減少する特性を逆手

に取り、負の収縮が起きて(伸びて)いる時に、最大筋力を

超えたパワーを発揮するテクニックだ。


「ぜぇ!…………ぜぇ!…………何か…………(たぎ)って

きたぜぇぇエ!!」


(流石は筋肉バカ。私が持ち上げられるか

分からない重さを、あんな加速度で挙げて

いたよ…………)


 基本的に2セット目は、本番()セットに備えて

アドレナリンを大量分泌させるという、目的を

掲げることが多い。

 したがって、全力を出し切りはしないが、重めの

重りを速く挙げる努力を要するのだ。


「うし、本番やってやるぜ」


「号令と補助は任せろ。意識飛ぶくらいの超加速で

ぶち挙げるんだ!」


 筋トレが成功したか否かは、本番セットの出来

具合に全て左右されると言われている。その指標で

有名なものが2点あり、セットのラストで意識が

飛んだ瞬間があることが1点、筋トレ後、速攻で

筋肉痛に襲われるのが2点だ。


「アップ!………アップ!…………アップ! 速く速く!!

アップ!!……………………」


「ォラッッ!! ヌアアッッ!! ンドらッ!!

ウォオアッッ!!! ドルゥアアッッ!!……………………」


 極限まで大胸筋に集中し、他は全て無視する。

ただ、目の前の800kgバーベルを、大胸筋で

挙げるだけだ。次第にバルディの視界がぼやけて

いき…………


「ラストォォオオオッッ!!」

「ウオオオオオオッッッ!!」


 ごく僅かのみ、加速度が落ちた一発を挙げきり、

バルディの大胸筋は、"力が入らなくなった"。


「あっ!」


 ミュールが声を発した。バーベルが星の重力

加速度に即したスピード感で、落ち始めたからだ。


「よく頑張ったぜ。意識は飛んだか?」


「ゼェッ!!……ゼェッ!!……ゼェッ!!…………フゥ

…………フゥ…………ああ、最後の方、…………俺、どんな声

出していた??」


 この様子なら、限界は超えれたと見れる。


「フゥ~、そーいや、この後に軽めの重さで筋肉を

限界まで膨らませるのが良いとか、言ってたよな」


「パンプアップか。重りを半分にして、動かなく

なるまで大胸筋を膨らませよう!」


「あいよっ!」


(…………もう、十分膨らんでない? まさか私の

バストサイズを超える気なの??)


 この時点で、バルディの大胸筋は、結構

パンプアップしていた。


「アップ! アップ! アップ! 速くぅ! アップ!」

「フッッ! フッッ! フッッ! フッッ! フッッ!」


 パンプアップでは、動作の最後に一瞬だけ

筋肉を固めるプロセスを挟む。こうすることに

より、乳酸を始めとした様々な物質を分泌させ、

早急に筋肉を膨らませる事が出来るのだ。


 当然、他の筋トレ同様、1セットは45秒以内の

無酸素運動で終わらせ事が理想であり、高速低重量の

条件から、短い呼吸がとても役に立つ。


「うおっ…………」


 限界間近で加速がおぼつかなくなったら、


「ワンモア!」


 補助者が居る場合、テンションをキープできる

高加速の補助をしてあげる事が望ましい。


「ぐああっっ!!」


「お疲れバルディ、本番もパンプも完璧だな!」


「あたぼうよ!」


 バルディの大胸筋は、見事に巨大化していた。

それこそミュールの胸に匹敵する程にだ。


「少しおさらいさせてくれ。最初の3セットは、

物理的な刺激を加えることで、筋肉に成長の

必要性を覚え込ませるのだったな」


「その通りです」


「そして、さっきのパンプアップは、体内で発生

する化学物質の作用によって、筋肉を大きくするん

だよね?」


「それプラス、単純にボリュームアップさせる

ことで、自分の脳に"これくらい大きくなっても

平気だぜ"って認識させることが目的だな」


「次は拙者に教えてくれ。腕力も剣速に貢献しそう

だからな」


「勿論です」


 クレインさん、ミュールもバルディの筋肉から

筋肉の動きのイメージが出来ており、初めてに

しては破格の効果を得られた(特にクレイン)。


 ミュールもトレーニング後に相当喜んでおり、

筋トレ信者が一気に増えた気分になった。因みに

俺も、こう見えて数日前から、筋トレ信者なのさ。


(パンプだけでこれだけ大きくなるなら、訓練生

時代に私をクソマジメ芋娘ってバカにしたあの人達

を見返せる!)


 ミュールの喜んだ理由が、筋トレそのものと

離れていることには、気づけなかったのだが。


「しかし、バルディの奴は筋トレの才能が(あふ)れすぎ

なんだよなぁ」


 クレインさんに攻撃のフォームを見てもらっている

バルディを見つつ、考える。


(このまま鍛えていったら、カルロスすら一蹴

する程の剛力無双男になるのも夢じゃないかも。

免許皆伝の日は遠くないな)


 そしてその直後に思った。


(陽筋君から免許皆伝もらってから転生すれば

良かったぁ~~!!)


~アースヒーローズ・カルロス視点~


「し、死んだか…………??」


 目の前には、岩の鎧が砕けて丸裸になり、腹に

抉られた穴が空いた巨岩竜。左には流血が止まらない

ローズと、必死こいて治療しているMP切れ間近の

アリス。右前には…………


「俺の…………顔が…………(ほこり)まみれに…………」


 顔が汚れ、大層ご立腹の兄貴が(たたず)んでいた。


「ギャウゥウウンッッッ!!」


 兄貴の姿が消えたかと思いきや、治療中の

アリスが奇声をあげて転がっていった。


「なぁなぁ君達ィ…………」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!! やめてアーロン!!!!!」


 兄貴が俺達に声をかけつつ、ローズの傷口を

高速の剣で斬り着けるものだから、甲高い声を

張り上げやがった。


「何だこのザマはぁぁあ!!!」

「ガハァアアッッッ!!!!!」


 痛ぇぇええええええっっっ!!!!


 俺もまた、へし折れた肋骨数本の痛みに悶絶した。


「それでもエリートなのかねぇ!? A級

モンスター程度! 土埃1つ無い速攻で

瞬殺したまえよぉ!! ぇええ!!?」


 ……………………恐すぎるぜ、兄貴ィ…………。


 悪かった、からよぉ………………。


「カルロォス!! 貴様はぁ!! それでも

人類最高の物理攻撃力なのかねぇ!!!

オイ!!!!!」

「ガハァ!! ゴホォ!! グホォ!!」


 ターゲットの討伐が終わり、A級昇格は確定

したのだが、それを身分証に書き記すのは、

兄貴の折檻(せっかん)が終わってからになるだろう。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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