泥棒猫との、猫魂荒ぶる奪い合い
「返せ!」
スキル : 加速術レベル8
スキル : 跳躍レベル6
スキル : 時間感覚加速レベル3
俺は可能な限り予備動作を最小限に、それでいて、
速度が最大限に高まるように跳躍を行った。そして、
猫娘の回避動作を注視して、どの方向へと向かうの
かを観察した。
「ニャン♪」
猫娘は、全く焦った様子を見せず、軽やかに
右斜め下へと回避行動を取った。
(中召喚・打ち潮)
俺はその動きを元に、猫娘が行きつく先に回廊を
作り出し、そこから水深100m程の海水を放った。
超スピードの猫娘に、超スピードの海水が衝突s…
『バチィ!!』
しなかった。猫娘が健脚を駆使して、水流を蹴って
移動手段にしたからだ。
(中召喚、ほぼ0距離でもこの娘は
対応するのか…………)
『バチィ!!』
俺も宿屋を壊さないように、海上に設定した
回廊を作りつつ、地球へと戻り行く海流を蹴って、
猫娘への追撃を再開した。
スキル : 神風レベル1
スキル : 加速術レベル8
「速いニャン♪、もうちょっとで縮地に達しそう
ニャン♪」
細やかな超加速で追撃を繰り返す俺に対し、
猫娘は余裕そうに避けながら、アドバイスまで
してきたのだ。
(なんてハイスペックな女の子なんだ! 猫耳着けて
可愛さで猫を超えたつもりのおこがましい女共とは
違い、本当に可愛らしくて! カルロスレベルの
速度で感覚がアイツの比じゃない俺の掴みを余裕で
避けて! その上俺のスキル成長のアドバイスまで
して! そして端金を頑なに返してくれない!?
何なんだよ、この娘はぁ!!)
スキル : アクロバットレベル6
スキル : 軽業レベル7
目の前を、のらりくらりとそれでいて疾く動いて
いく猫娘に対し、様々な感情を巡らせながら、持てる
敏捷性を全て発揮して、追撃した。
「ニャ~~~ン♪♪、楽しいニャ~~~~~ン!!」
少し開いた距離を一気に詰めつつ掴みかかる。
猫娘は床すれすれで右手を軸に俺の後ろへ
回り込む。
俺はその動きに合わせて、バック転で移動と
猫娘の捕獲を同時に試みる。
猫娘は低空で身を捩り、俺の両腕を回避し、
同時に左足の蹴り上げを繰り出す。
今度は俺が左拳を軸に回転して回避し、
離れていく猫娘に脚を追いつかせ、蟹鋏による
捕獲と足の激臭による精神攻撃を試みる。
猫娘は俺が脚を加速させようと身を捩った
タイミングで、既に側転に移行しており、
難なく回避した上、側宙をしながら壁に
両足を着けた。
『ピロリン♪
スキル : 時間感覚加速がレベル4に上がりました。
』
(大召喚)
(ニャ♪)
俺が大規模な門を開いたことで、猫娘は
部屋全体を覆う程の海水を出すものだと予測し、
門の範囲外の壁まで素早く横走りした。
(大激臭!!)
「ギニャーーーン!?」
防護服無しでは侵入すら儘ならない、ゴミ処理場の
臭いを放出したのだ。俺の足とは比にならないレベルの
諸刃の剣だ。
『ピロリン♪
スキル : 激臭耐性レベル4を獲得しました。
』
「サイテー、ニャーーーン!!」
全くだ、俺とて嗅覚レベル8持ちだから、こんな
スキルを獲得する程度にはダメージを受けた。しかし、
盗賊だてら、身なりの良いこの娘に、この攻撃は
効果抜群と見た。何故なら
「ミャーも攻撃開始ニャーーーン!!」
怒りに動かされて、俺に攻撃を仕掛けてきたからだ。
壁からの直線的な突きに対し、俺は仰け反りつつ
身を捩って、更には左腕で猫娘の捕獲を試みたが、
これは猫娘の右足で腕の方向に加速されて空振りした。
「兄ちゃん覚悟ニャーーン!!」
宙で高速スピンを行う俺に対し、猫娘は着地した
壁から再び飛び出し、今度は俺と逆回転をしながら
鋭利な爪を繰り出してきた。こりゃ当たったら
ズタズタとかのレベルじゃ済まねぇぞ。
「ニャ!?」
が、俺は左腕を伸ばして床を押すことで、右側に
物凄い速度で移動することで回避した。
『ピロリン♪
スキル : アクロバットがレベル7に上がりました。
スキル : 平衡感覚がレベル5に上がりました。
スキル : 平衡感覚がレベル6に上がりました。
』
「ウップ…………」
胃液が…………量頬まで込み上げた……………………。
というか、超速消化吸収レベル4由来の胃液の
せいで、頬の内側が結構溶けた…………ヒリヒリs…
『ピロリン♪
スキル : 強酸耐性レベル1を獲得しました。
』
…………アッハイ。
「ふにゃ…………」
しかし、猫娘的にも、先程の回転は慣れて
居なかったようで、尚且つ俺のようにしょっちゅう
全力活動を行わない為か、この手の疲労に動きを
鈍らされているようだ。
「チャンス!」
俺は弧を描くように部屋を走り、猫娘に急接近をした。
「ニギィ!」
猫娘は辛うじて回避したのだが、表情が必死
そのものだった。
「逃がさないよ」
俺も猫娘の急ターンに合わせて、追撃の手を
緩めない。決めるなら今しか無いのだ!
「来るにゃあ!」
必死の猫パンチ等、最早捌くのに難儀しない。
前世の頃ですら、白猫ちゃんの猫パンチを捌いた
ことがあるからな。…………まぐれで1発だけだけど。
「掴まe…」
「ンニギャアッッ!!」
『ドゴォ!!』
が、俺も所詮はガキ。最後の最後に直線的な
掴みを行ったために、猫両足キックで距離を
取られてしまった。
「ギャ! ムッ!?」
それでも着地した俺に対し、猫娘は蹴りの
反作用で天井、壁に衝突し、床に叩きつけられた。
自業自得だが見ていて痛々しい。
「終わりだぁ!!」
蹴られた痛みでアドレナリンを発生させた俺は、
縮地習得1歩手前の加速で距離を詰め始める。
(逃げニャ!)
猫娘も逃げるために足を動かし始めるが
「んにャアッ!?」
片足を滑らせ、もう片足にも重心が乗って
いない。即ち、視覚的にその様子を認知できない
距離まで接近した俺と、衝突することになる。
そして、速度は既に急降下中の隼をも超えている。
(!、動かない!? そしてこの顔!)
が、お互いに想定外だった。俺は、猫娘の
動かなさと焦る顔を見て、彼女とそのまま
衝突すると悟ってしまい…………
スキル : 剛力レベル6
優しさが出てしまい、衝突の寸前で急停止して
しまったのだ。流石に床の板も割れた。
「…………ニュン」
彼女から謎の声が聞こえたかと思いきや、その姿は
既に窓際にあった。そしてその手には…………
「竜肉換金した金ぇ!!」
俺の全財産が握られていたのだった。
「お兄ちゃんの優しさに、ミャーはニュンとした
ニャン♪でも、いつもはミャったく報われないのが
見ていて辛いニャン♪。だから、最後にお礼をして
から帰るニャン♪」
(ニュンとしたって…………キュンとしたって事か
…………??)
彼女は2往復ほどお尻を振ってから、横へと消えた。
「バイニャ~~♪」
壁に爪を引っ掻けて移動する音をならしながら、
風のように去っていったのだ。
「…………んなお礼されたってぇ、俺は嬉しくない
ぞぉーーーー!!」
俺に、ああいう娘のサービスシーンで喜ぶ趣味は
…………断じて無い!!
そして"おつり"として残ったのは、銅貨5枚
だけが入ったクエスト報酬(宿賃で減った)のみ
だった…………。
~回想終了~
「…………はぁ、上には上が居るんだよなぁ。あんな
娘に身体能力だけで遊ばれていては、アーロン達
への復讐なんて出来っこ無い。召喚も肉体も、
来るべき時まで最大まで研ぎ澄ませるまでだ」
そう言って、俺は眠りに着いた。
その様子を見ている影が居るとも知らずに
「あー、獣人の真似事も面倒くさいものなのねー」
暗がりで見えないが、細く長い足に、鋭い爪、
夜によく光る瞳孔を持つ長身女性であることが
分かった。
「この街なら、やっぱりあの男が最大の驚異
かしら? まぁ、その他大勢と徒党を組まれなきゃ
怖くないし、何より…………妙に惹かれる何かが
あるのよね~~。ワイルドって名乗っている
ショウって男には」
最後まで読んでくださりありがとうございます。
 




