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それは、あまりにも呆気ない幕切れだった。
「あなたの気持ちにまで、あたしが責任とらなきゃいけないの? どうして?」
プラスチックのように冷たい声で、純子はそんなふうに言った。
責任とかそういうんじゃないんだと思うけど、と僕は半ばしどろもどろになりながら答えた。しかしよく考えてみると、無責任だと罵ったのは僕のほうだった。
ともかくも、僕たちはこれで何もかもすべて終わったらしい。
こんなふうに言ってしまうのはそれこそ無責任かもしれないけれど、僕はまるで夢を見ているかのように、直面している現実にリアリティというものを全く感じなかった。
僕たちはよく手をつないで歩いた。だから僕の左手にはまだ純子の右手のぬくもりがはっきりと残っていたし、でも同時にまた、僕の右手には最期の瞬間に純子の頬をぴしりと打ったときの鈍い痛みも残っていた。
そんな感触を深く胸に刻み込んだまま、僕は、コンドームを付けてセックスをするように、いいかげんに世の中と関わることに決めた。リアリティなどというものは、僕にはもう必要ないのだ。なぜならぼくは純子を失ったのだし、現在の僕にとってそれは、全世界から拒絶されることと等しいからだ。
そして純子は、僕を愛してなどいなかったのだ。
屈託のない微笑みの中には、明け方近くに道端を汚す反吐か何かを見るときのような目があって、僕を侮蔑しながら眺めていた。やがて微笑みも侮蔑もどこかに消え失せて埴輪のような無感動な表情に変わると、僕から視線を逸らし、何事もなかったかのように女友達と流行歌手の話題などを姦しく語らいながら立ち去って行ったのだ。
純子の残忍さ──目を堅く閉じて刃物を振り回すような「無意識」という名の怖ろしい罪悪──は、無垢な処女だけに許された特権の行使にすぎないのかもしれない。
しかし僕はそれに傷ついた。確かに、傷ついたのだ。
それを愚かしいことと片づけるのは容易い。けれども僕の傷が癒えるどころかその深さを増し、どす黒い夥しい量の血が傷口から流れ続けるのを、誰も止められはしないのだ。