正体不明機?
【護衛艦あたご】司令官室
自分が異世界に来て3日目の朝だ。 護衛艦あたごは、周辺の航行船舶を回避しながら単艦で公海上を航行している。
〈総員戦闘配置、総員戦闘配置、総員対空戦闘配置につけ、これは訓練ではない。〉
スピーカーからサイレンが鳴り、CICからの放送がかかる。
〈方位080、距離324000に高度5000フィートで飛行中の正体不明機4機を探知した。240ノットで本艦に向け飛行中。〉
240ノットを維持して飛行するなら護衛艦あたごに到達するのは約40分後だ。護衛艦あたごがターゲットとは考えにくい気がするが... 念のためという訳だろう。」
電話が鳴った。CICから高橋艦長が掛けてきたようだ。
「〔司令官、SPYレーダーが正体不明機4機を探知しました。軍用機の可能性があります。このままいくと約40分で本艦と会敵します。〕」
やはり報告のようだ。護衛艦あたごが攻撃対象なら最悪、自衛権行使もやむを得ないが出来るだけ接触は避けたい。方針も決まっていない状況下で異世界人と接触するのはかなり危険だ。
「高橋艦長、護衛艦あたごが攻撃対象である可能性はあるか?」
「〔不明です。進路を変更して様子を見ますか?〕」
そりゃそうだ。約320キロの距離で編隊飛行している軍用機の可能性がある航空機。この情報だけでは本艦は攻撃対象であるか判断は出来ないだろう。
「そうしよう。状況に変化があったら教えてくれ」
結局、様子見だ。正体不明機に護衛艦あたごを認識されなければ良いのだが。
「〔了解いたしました。〕」
戦闘配置が始まって20分が経った。
再び、電話が鳴った。
「高橋艦長、状況は?」
「〔先ほど、本艦が進路変更をした直後、正体不明機は本艦の進路変更に合わせるよう飛行ルートを変更しました。本艦が発見されている可能性があります。〕」
この世界の文明レベルや軍事力の情報を考えると、発見されている可能性は低いと思っていた。
「迎撃も視野に入れて対応してほしい。しかし、あくまでも逃走を優先してくれ。」
「了解しました。引き続き、正体不明機から回避行動をとりますが、迎撃も視野に入れて行動します。」
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【ブリュンヒルド王国海軍】グリーピル攻撃飛行隊 C小隊 隊長機視点
零式艦上戦闘機がブリュンヒルド王国海軍 東飛行場を離陸した。洋上飛行の訓練を行う事が目的だ。
この零式艦上戦闘機は20年前に異世界の日本国から来たという技術者が作り上げた戦闘機だという。5年前から量産配備が始まり、全ての旧式戦闘機を置き換えた。我がグリーピル攻撃飛行隊C小隊が最後の配備先として選ばれ、つい先日配備が完了した。この訓練は機種転換訓練の一環だ。
離陸からしばらくして洋上に出たその時、4番機がこんなことを言い出した。
≪隊長、やはりゼロ戦は性能が段違いですね!操縦しているだけでワクワクします!≫
この馬鹿は何を言ってるのか... 少し呆れるがこればっかりは同感だ。ゼロ戦は旧式機に比べて加速性能、運動性能、航続距離、最高速度、武器搭載量すべてが向上しているのだ。
「≪落ち着け、気持ちはわかるが訓練中だぞ。≫」
2番機が止める。彼はグリーピル飛行隊でもゼロ戦の飛行時間は断トツだ。
この時は想像すらしていなかった。我が隊がこの後見つけることになる1隻の船によって王国が混乱の道を歩むことになるなど...
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正体不明機は護衛艦あたごの存在に気付いてもいなかった。