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日が暮れてゆく。日は暮れてゆくにもかかわらず、空が茜色から変わることはなかった。空だけではない。緑生い茂る山も、澄んだ小川も、街も、街を行く人も、目に映る全てが赤橙色に染まっている。どこまでも高く広く燃え盛る炎に包み込まれている。炎は些細な火種から広がったものではなく、精霊の悪戯というわけでもない。この国は数刻前から巨大な竜に襲われて地獄と化したのだった。
竜とヒト族の争いは今に始まったことではない。理由も忘れるほど昔から続いている戦争、落とし所を失い種族の滅亡を望むまでに肥大化した戦いだった。この国はそんな戦争の犠牲として、竜と人の狂気が生み出した炎に焼かれていた。
炎は逃げ惑う者たちを呑み込み、彼らの悲鳴すらも赤く染めあげる。竜の炎は身体を焼くとき、とくに激しく燃え上がり炎の色は深紅へと変化した。その美しさと恐ろしさはまさに命を燃やす業炎の色をしていた。
地獄は数日間も続いた。炎からは誰一人として逃げ延びることなく、ひとつの国が灰となって終わりを迎えた。
やがて炎が静まり空を覆う茜色の雲すら消えた頃、国の王都があった場所を野望ある者が3度と訪れた。1度目は諸地域の領主たちである。王権を示していた国宝が残っていまいか、と崩れ落ち荒廃した城の中を無残にも荒した。
2度目は盗賊団の首領、炎の手を逃れ残された金品を盗もうと国中を漁った。
3度目はそれから半年後、国を焼いた巨竜とは別に1頭の竜が現れた。竜は白銀に輝く美しい翼で風を操り、朝日に照らされる残骸の上に舞い降りた。かつて国の都だった場所では浅ましい賊が10人ほどおり、焼け跡から金品を漁っていた。皆同様に竜の姿を見て驚き、盗品を捨てて一目散に逃げだしたのだった。
しかし、白銀の竜が逃げ惑う賊等を相手にすることはなかった。ただ賊の手に握られた煌びやかな金品宝石よりも美しい翼を閉じて静かに佇む竜の姿は無慈悲な戦争の犠牲になった者達を憐れむ追悼のように見えた。
作品を読んでくださった方ありがとうございます。
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