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豆腐の角を頭にぶつけて死ね  作者: とあるイカ
1/2

前編

「豆腐の角に頭をぶつけて死ね」


そういわれて、果たしてまともに受け取るような人物はいるのだろうか。

多少汚れた眼鏡の位置を元に戻し、私はコーヒー片手に深く考える。


静かな研究室でゆったりと椅子に座り、ネットニュースのコメントを眺めていた。

慣用句を真面目にとらえるほうが馬鹿げている。

しかし、物理を嗜んでいる者としては、この事象を実際にどう起こせるか――非常に興味深い。


私が考えていることは、他の研究者も考えるであろう。

早速カップを机に置き、机の上においてあるパソコンに関係する単語を打ち込む。


………本当に自分が考えそうなことは、先人がいるもんだと痛感する。

研究室内で、リンクを踏むためにマウスを動かす音だけが静かに響く。

しかし、心はサンバのように踊りまくっている。


長い読み込み時間は、式の導出を演出するために準備していることだろう。

検索エンジンから目的のページへと移る。


そこに示されていた結果には、様々な文字の羅列が並べられていた。


『豆腐を頭にぶつけて死ぬには、"秒速340m"でぶつけること』

『少なくとも"音速"でないと』

『凍らせてください』


思っていたのと違う。

いや、音速であることに何の意義はない。

多くのサイトを覗いて、自分が感じた一番の不可思議な点―――『()()()()


私は怒りをあらわにした。

定説なら、参考文献や導出過程が出ていてもおかしくはない。

自然現象ではなく、実際に計算を行わないと得られないはずなのだから。

馬鹿の一つ覚えで、当たり前のように結果を出されていても意味はない。


次に英文で検索をかけてみる。

だが、そこは日本の慣用句。

海外では、「豆腐を頭にぶつける」が別の文章になっていることが原因で、

豆腐にて考察を行っているデータは見受けられなかった。


***************************************


結果は出ているが、どうして得られたのか明記されていないのは大変気持ち悪い。

もしや定説と誰かが書いているだけで実は違うのかもしれないと、疑惑をかけてしまう。

こうなれば、自分で作るしかない。

実をいうと、役に立たないものほど自分で考えたほうが楽しい。

机の引き出しからペンと白紙のノートを取り出す。


考えるにはゴールと前提条件が大事だ。


今回のゴールは「人体の頭部の致死域である19kN」

ちなみに、これは高いところから落ちてきたもので考察されているため、

エネルギーでは重力加速度で考えなければならない。

つまり、エネルギーとして「18.62kJ」を超えることにしよう。

ペンを走らせ、必要な情報を書き足していく。


そういえば、ビール瓶で十分な頭蓋骨の骨折しきい値を得て、賞を取った研究があることを思い出す。

「こういう話を研究室のメンバーと語りたいのにな」

ノートにイメージをまとめながら独り言をつぶやく。


エネルギーの計算は、中学校で習うそのまんまとして


エネルギー = 質量 × 速度の二乗 ÷ 2


を流用する形になる。

軽めの考察には、至ってシンプルな式のほうがまとまりやすいだろうなと案じてだ。

勢いよく短い時間で発生していることを考えると、空気抵抗は考慮しなくてもよいだろう。

足りなくなったペンのインクが、休憩を勧める気がした。


少し筆を止め、椅子に深く腰を掛ける。

時計の針が進む音が聞こえるほど、部屋が静かだ。

この間に何分か過ぎていたようか、コーヒーが少し冷めている気がした。


昼過ぎなのに、誰も他の研究生が来ない。

「どれくらいの速度で豆腐をぶつけたら死ぬと思う?」

そんな問いを彼らにも投げかけてやりたい。

ぬるくなったコーヒーを一気飲みし、次に前提条件をまとめる。


使う豆腐にも木綿、絹、高野などいろいろ種類がある。

全て考察するにしても硬度や形状の値を変更すればいいだけだ。

自分の好きなものという不純な選択であるが、一般的な木綿豆腐として考えてみようと思う。

はてさて、どれだけの質量だったか…


画像検索で「豆腐」と検索ワードに探してみると、

そこには一日では食べきれない量の白い直方体がディスプレイに映し出される。


スーパーではよく見ない食品を、ただぶつけるためだけにまじまじと眺める。

他人から見たらなんとも言えない状況だろうな、とカーソルを進めながら感じた。


……この後、別の問題点が現れるのも知らずに。


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