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ゲームと現実【2】

 すべて私の予想になってしまうが、もしもあの子がゲームの世界に行くことを望み、何者かに連れて来てもらったとする。

 あの子はこの世界すべてをゲームだと思ったのかもしれないが、実際にゲームだったのはアルディナだけで、他の国は実在する世界だったのかもしれない。

 以前レオス様も言っていたが、アルディナという国はどうしてこんな場所で発展出来たのかもわからない僻地に国があり、生産率も低く軍事力もない。


「発展して国になったのではなくて、今の状態でアルディナが現れた?」


 さっと周囲を見回せば先ほどまでと変わらず黒い影が歩き回っているが、やはり同じ場所を往復したり同じ仕草を繰り返したりしている。

 ただ、国の中心に近づくにつれて顔のある人影がちらほらと現れるようになった。

 顔の判別がつく人々は黒い影とは違い自由に歩き回っており、聞こえてくる声も何を言っているのか聞き取ることができる。

 もしもこの光景が元からのものだったとしたら、本当に人間として生活している人数はとても少ないということだ。

 本来なら国なんてないであろう場所にある国、生産率と軍事力が低いのは本当に動けるだけの人口が無いから。

 それでも生産が間に合っていたのは、消費する人口も少なかったから。

 しかしファクルでこんな光景は見たことがないし、書類整理の際に見た生産率などは人口と比べても適切な数値だった。

 もっとも私の見ていたファクルの光景が、今のアルディナの様に間違っていた可能性はあるけれど……どうしてもファクルの光景が嘘だったとは思えない。

 ファクルや友人の国は実在していて、元々アルディナなんてなかったゲームの世界観に似た世界がここ。

 そこにアルディナというゲームの舞台になる国を追加したのではないだろうか。

 アルディナにしかゲーム補正のような力が効かなかったのはそもそも他の国々やそこで暮らす人々がゲームの登場人物ではないからで、フィロに記憶の書き換えが作用していたのは彼がアルディナでの生活に慣れたせいでアルディナの住民としてカウントされたからだろう。

 よく考えれば他国からアルディナに来たばかりの人たちは、私の扱いを見て不思議そうにしていた。

 しかし時間の経過と共に周囲の人たちと同じ様に私を悪役として扱う様になっていっていたので、その時点でアルディナの国民ということになったのだろう。

 突拍子もない考え方だけれど……


「合っている気がする」


 私はレオス様ほど確実に勘が働くわけではない。

 ただ前世も合わせて様々な場面で勘を頼りに賭けに出たこともあったが、こういう感覚の時は大体正しかった気がする。

 この考えが正しかったとしたら、アルディナから出ることさえできればファクルに帰れるかもしれない。

 私がこういう風にアルディナをゲームの光景として見る事が出来ているのは、きっと私が純粋なリウムで無いことに加えて、本来ならばないはずの追放後にファクルで過ごした日々があるからだろう。

 前世の記憶が無かったら私もキャラクターの一人だったのかもしれないが、あいにくと今の私にはゲームキャラではないリウムとしての考えや生き方がある。

 だからこそ今こうして私は歩けているのかもしれない。

 わからないのはなぜアルディナがこんな世界から隔離されているかのような状況になっているかだけれど。


「……あのままだと、ゲーム通りにいかないから?」


 おそらくプルムの言う巻き戻しが作用するのはアルディナだけだ。

 他の国の状態が変わらなければアルディナの状況は滅びに向かって一直線だし、そもそも周りの国との時間軸が合わなくなる。


「私がゲームのリウムと違う動きをしたのと同じように、プルムだってゲームとは違う動きをしていたはず。私がこうして動けていることがそれが原因で起こったことだとしたら、同じようにゲームとは違う動きをしたプルムにも何らかの影響があってもおかしくない」


 あの時あの子は何と言っていただろう、確か……


『もう変な調節なんてしないから、ちゃんとストーリー通りに動くようにしてちょうだい』


 調節、というのはあの子が使っていた人を操る魔法のことだろうか。


「……頭が痛くなって来たわ」


 色々と考え過ぎて頭痛がして来た頭を軽く押さえながら、あの子との会話を思い出していく。

 どうせリセットされるからとペラペラ話していたのだろうが、その記憶は今私の中にしっかりと残っているし、ありがたく考察に使わせてもらおう。


「ゲーム通りに動くようにするのが、あの子の言っていた“あいつ”の力? ストーリー通りに動くのも、その間他の国からの攻撃を受けないようにするのもおそらくそっち。その中で自分の思い通り動かしたい時にあの子が使っていたのがあの操る力。でもこの世界の人間の魔力じゃ強い力が使えないからこそのあの特典の石、かしら?」


 もしかしてあの子がああまでプルムと違う行動を取っていたのは、その“あいつ”にとっても予想外の出来事だったのだろうか。

 プルムがゲームの世界だと思って操る力を使って好き勝手に動いたせいでファクルを怒らせて、どうあがいてもアルディナの平和を維持できなくなった。

 だからあの子の巻き戻しの合図に合わせてアルディナを隔離した、そういうことだろうか。

 もしかしなくても婚約を優先させるために、ファクルへ対応しようとしていた王族の方々を操ったりしたのかもしれない。


「……グリーディの家に行ってみよう」


 ここで考えている事はすべて仮説だ。

 すべてを知るためには、そしてここを出るためにはきっとプルムに会う必要がある。

 幼少期からの話だろうが今の年齢になってからの話だろうが、きっと舞台は家になるはずだし、プルムもそこにいるだろう。


「負けないわ。絶対にファクルに、フィロのところに帰る」


 大丈夫、絶対にまた会える。

 例えば今考えていた私の予想がすべて外れていてゲームの様にやり直しになったとしても、会いさえすれば絶対にフィロは私を思い出して傍にいてくれる。

 初めて出会ってからずっと、書き換えられる記憶を弾き飛ばして私の傍にいてくれたように。

 遠くに見える城、あの近くにグリーディの家はある。

 未だに重い体に力を込めて、そちらに向かって歩き出す。

 何かしらの真実もわかるかもしれないし、私にとって悪い方向に向かっているかもしれない。

 もしかしたらレオス様が敵として出てくるかもしれないけれど。


「……譲らないわ、今度は」


 あの日、フィロだけがいれば良いからとその他のものはすべて捨てて追放を受け入れた。

 それは私にとってのメリットの方が大きく、デメリットが無かったからだ。

 けれど今回は違う、失いたくないものがたくさんあって、プルムはそれを私から奪おうとしている。

 一人になったせいだろうか、失うことが怖いと思っていた今までとは違って失ってなるものかという怒りの方が強くなってきた。

 自分の感情に気が付いてしまえば、もう後ろ向きにはなれない。

 周囲の雰囲気から感じる恐怖やよくわからない現状への不安を上回る、勝って終わるという決意。

 そうだ、私は元々こうだった。

 自分がやりたいと思ったこと、欲しいと思ったもの、それを手に入れるために頭を働かせて、最善の結果を出すために努力し続けてきたのが私だ。


「最近はずっと、フィロにもレオス様にも頼りきりだったものね」


 久しぶりに一人で問題を解決しなければならない不安を、必ず勝って欲しいものを手に入れるという高揚感に似た感覚が打ち消していく。

 前世で初めて降り立った外国の地、不安よりもずっとワクワクした気持ちが強かったあの時を少しだけ思い出した。

 もちろん今の私の感情にワクワクなんて感情はまったく無いが、戦意のようなものが湧き上がってくるのはわかる。

 初めての外交でファクルへと向かった日の気持ちとどこか似た感情。

 一人で戦ったのはあの日が最後で、その後はフィロと出会って精神面でずっと支えられてきた。

 ファクルに行って味方が増えて、レオス様たちにも頼るようになった。

 けれど頼らなければ何一つできないなんて、そんなのは私じゃない。

 プルムが特典とやらであの特別な力を貰ったのだとしたら、私にとっての特別な力は前世から繋がるこの考え方や自力で結んできた縁、今の私すべてだ。


「悪役令嬢対主人公の第三戦目、これで最後。私が勝って終わりよ」


 気合を入れるようにそう口に出して、遠くに見えるグリーディの家を睨みつける。

 もう何一つ譲らない。

 フィロとの日々も、あの誰よりも強く優しい魔物たちも、ファクルで得たものは何一つだって譲らない。

 顔を上げて周囲の風景をじっと見つめる。

 ここがゲームの世界で、プルムが幸せになるために望む場所だというのならば好きにすれば良い。

 私はファクルに、現実に帰らせてもらう。


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