6、芸能人は大体こう
「待ち合わせはあそこか...」
良二は学校を出て少し歩いたところの人の誰もいない公園にやってきた。
ベンチに座って待っていると、メールが来て、内容を見てから立ち上がり周りをキョロキョロし始めた。
「あ、アレか」
良二は大きな白い車を見つけて、その車に乗り込んだ。
後部座席には良二と同い年くらいの女子と、運転席にフォーマルな服装をした男性が一人座っていた。
「こんちわ、仲代さん」
「こんにちは、すみませんね毎回毎回急で」
「仲代さんは悪くないですよ」
そんな会話を運転手の男性と話していると、奥に座っていた女子が話しかけてきた。
「早く乗って」
「へいへい」
痺れを切らした様にイライラしているのが分かる。
良二がその女子の隣に座ったことを確認すると、仲代は車を動かし始めた。
「今日はどういった要件で」
「まぁ内容は一緒だけど、ちょっとムシャクシャしちゃって」
「あーそっちかぁ...」
「何よ、別にいいでしょ」
「須賀、お前『こういうの』もうやめた方が良いんじゃねぇの?いつかバレたら...」
「バレない為に仲代に言ったんじゃない。そうしろって言ったのはあなたよ」
「そうだけどさ...仲代さんも止めた方が良いじゃないですか?流石に」
「雪の調子が崩れるのが、一番あっちゃいけないことなんでね。なぁに、バレない様に頑張りますよ」
「はぁ...仲代さんはシビアな方だと思ってたんですけどね」
「シビアですよ。売れないその子には魅力も何も無いですから、売れるなら手段は選ばないですよ」
須賀 雪、芸名ユキ。良二のクラスに在籍している読者モデルだ。
最近はテレビに出る様になり、女優としての出演もし始め、その才能は留まることを知らない、今ノリに乗ってる売れっ子モデルだった。
そんな売れっ子モデルと何故良二が親しげで、しかもここまで関係が深いのかと言うと、二人は所謂『セフレ』の関係にある。
この関係が始まったのは高校一年生の中盤頃だった。
暑い夏の夜、良二が近くのコンビニにアイスを買いに行こうと夜道を歩いている時だった。
(あ...)
街灯の下で、一人の男性とキスをしている女性がいた。その時良二はクラスメイトの顔はDJしか覚えていなかったので、須賀とは気付かなかった。
濃厚なキスをして、須賀の方は息が漏れている。
「っはぁ!...もう...こんなところで...」
「良いじゃん誰も...ちっ」
二人が息継ぎの為に顔を離した時、良二に気付いた男性が睨んできた。
「何見てんだよ」
「別に、ただ逆ギレはどうかと思うぞ。こんな公然の場でそんなもん見せられて、俺が迷惑してるくらいだ」
「んだとクソガキ...」
「待って、あの人...」
「マジかよ...。おいガキ、この事誰かに言ったらタダじゃすまねーぞ」
「誰に言うんだよ」
良二はその時はその男性が人気若手俳優と須賀だと知らなかった様で、ただの痛いカップルだと思ってその場を後にした。
その後学校で須賀に話しかけられてようやく誰だか分かった。
「私たちのこと、見たでしょ」
「あ?」
「昨日の夜、シテたの」
「あーアレあんただったのか」
「彼の事知ってる?それか私のこと」
「知らね。興味もねぇ」
「そぉ、それは良かった。それは良いとして、私たち友達にならない?」
「ダイジョーブでーす」
「もちろんただの友達じゃないわ、セフレになって欲しいの」
「セフレ?何で?」
「あら、私にコレを言われて理由を求めて来たのはあなただけよ」
「そりゃ随分と用心の浅い人間とつるんで来た様で」
誰もいない夕方の日差しが差し込む教室で、あられもない会話をする二人。まして女子の方は芸能人、誰かに聞かれて言いふらされたら大ごとだ。
「羽島くん...よね?名前は」
「そうだけど、あんたは?」
「私は須賀 雪。須賀でも雪でもどっちでも良いわ、呼び捨てならね」
「じゃあ須賀で。あと、お前の要求の理由を聞かせろ」
「あの人...昨日私とキスしてた男性ね、今人気の若手俳優で、関係を持ってれば大きな仕事が来ると思っていたけど、どうやらそうでも無いみたいだから関係を断ちたいのよ。あなたは口が固そうだし、そういう事もすぐ上手くなりそうだし、どうかなと思ったの」
「なるほど、俺の才能を見込んだわけか。じゃあ衝撃の事実、俺童貞」
「知ってるわ、そんな気がしてたもの」
「なら諦めな。俺は女子のパンツを見ただけでその日は2回シコる程の童貞っぷりだ」
「ふふっ、ユーモアのある子ね。尚更興味が出た、あなたを選ぶわ」
「えー。まぁいいや、興味無かったわけじゃねーし」
「決まりね。行きつけのホテルも私の部屋もある。あなたは何も用意しなくて良い、全部私が用意するわ」
「え、それは男として...」
「ただし、私が提示した時間と場所にすぐ来なさい。拒否権は無いわ」
「お前どこのご令嬢だよ」
「また今度連絡するわ」
そう言って須賀は良二を残して教室を出て行った。
良二はこんな事でも動じない、そんな人間だった。しかし、スマホで女性の満足するやり方を検索したのは秘密だ。
それ以来、良二と須賀は何回も事に及んだ。
夜から次の日の昼まで、時には朝学校に行く前など、様々な時間に。
「初めて授業中に呼ばれた時は殺してやろうかと思ったよ」
「仕方ないじゃない、したくなっちゃったんだもの」
「あん時どう言い訳するかめっちゃ頭使ったわ。頼むから授業中はアレっきりにしてくれ」
「はいはい、それにしてもあなたとこの関係になってから色々仕事が上手く回ってきたわ、感謝してる」
「あっそぉ」
そんな会話をしていると、行きつけのホテルに行き着いた。
ここは芸能人もよく使うらしく、めちゃくちゃ高いらしい。良二が払う事はないのでいつも気楽に使わせて貰っている。
部屋に行くと、もう須賀はヤル気満々で、良二はただそれに答えるだけだった。
「良二...シよ?」
「こういう時だけ下の名前で呼ぶのやめろよ」
「雰囲気作りよ。大事だし好きでしょ?」
「嫌いじゃない」
「あなたのそういう所は好きよ」
「思ってもない事を...」
「そうよ、私たちは好き同士じゃダメなの。この行為に意味を持たせてはいけないのよ」
「別に意味があろうと無かろうとどうだっていいけどな」
その後二人は夜中の1時までホテルにいた。
ヤったり、テレビ見たり、キスだけしたり、お風呂に一緒に入ったりと色々やった挙句、仲代に車を回させて帰った。
車内の会話は、来た時と同じトーン。仲代は全く変わらない二人の距離感が全く変わらない事を不気味だと感じていた。
「気持ちよかった...またシたいわ」
「するのは良いけど、ペースを考えてくれ。勃たない時はどう頑張ったって勃たないから」
「良二くんのヤリ方の良いところは、私だけが気持ちよくなれるところね」
「は?」
「自分もってよりかは、私をさっさと満足させて自分は最後にちょっとだけって感じ。だからあなたのは好き」
「そんなん褒め言葉にも入りやせんぜ」
「あなたとシてると、何も考えなくて良い。調子も良くなるし。セクシーな表情とか写真家に言われても分からなかったけど、あなたとしてる時を思い出したら一発オーケーだったわ」
「俺も、あんたのそういう仕事一筋な所はいいと思うぞ。恋人の一大イベントを仕事のためにこうも雑に扱う所とかな」
「今後ともよろしく」
良二の家の近くに送り届け、良二が降りようとしたところで腕を引っ張られ、舌を入れる濃厚なキスをされた。
「ん...何だよ」
「別に、散々したんだから良いじゃない」
「別に良いけど、いきなりされたらびっくりする」
「意味は無いわ、知ってるでしょ」
「ああ、知ってるよ」
良二はそう言って家に入って行った。
須賀の家に帰る間、須賀と仲代は良二の話をして帰った。
「あなたたちは、どうして付き合わないのです」
「話聞いてたでしょ、付き合っても上手くいかないわ私達は」
「側から見てればあなた達はとても変ですよ。体どころか、心もほとんど繋がっているのに...」
「だからこそよ、心が繋がってるから私の満足行く事をしてくれる。でもそれはそれだけに使える繋がりよ。私を恋人として満足させる事は彼には出来ない」
「難しいというか、面倒というか...。何故距離が縮まないのでしょう」
「近付こうとしてないからよ、あっちもこっちも。もし私が一歩でも近付けば、彼もまた一歩下がるわ」
「なるほど...」
「彼に近付ける人間がいるとすれば、どんな娘かしら...。ふふっ、彼女が出来たら私は用済みかな」
「でしょうね」
「それとも彼なら影でコソコソ...。上手そうよね、隠し事」
「本人のいない所で好き勝手に...。良二くんは元々は良い子なんですから」
「そうね、良二くんは良い子ね」
須賀は外の流れる景色を見ながら微かに笑う。
(ほんと、どんな娘なのかしら...?)
「ん?ハクサン、お腹すいた?」
理沙の家の猫が理沙の足に顔を擦り付けながらご飯をねだった。
理沙は猫を抱いて一階にある餌を取りに行く。餌を頬張る猫を見ながら、理沙は良二の事を考えた。
「今日の先輩、あの電話してすぐに早退したって伊達先輩言ってたけど、どうしたのかな」
「にゃー」
「え〜先輩は意味もなく休んだりしないよ」
理沙は猫の返事を良い様に解釈する。
「明日は最後までいるかなぁ...。いると良いな」
と、思っていた方が気が楽ですよ