3、イケナイと分かっていても二人乗りはしてみるべき
夕方、今日の授業が全て終わったので、良二は自転車に乗って家に帰ろうとしたところで理沙に声をかけられた。
「せーんぱい、今帰りですか?」
「そうですね」
「自転車ですか、良いですね」
「何か用?」
「一緒に帰りましょうよ」
「あれ、お前チャリだっけ?」
「いいえ、歩きですよ。なので...ね?」
「じゃあな」
「まぁまぁ待ってくださいよぉ」
自転車の荷台の部分を掴んで、帰ろうとする良二を止める理沙。
「二人乗りすれば良いんですよ」
「やだよめんどくさい、重いし」
「重くないですよ。ちょっと連絡遅くなったら浮気を疑うくらいです」
「何の話だよ。結果重いじゃん」
良二はグダグダ言いつつ理沙を荷台に乗せて二人乗りで家に帰る。
「次、曲がります」
「どっちの家にも着かないので真っ直ぐ行ってください」
「お降りの際は、かなり野太い声で雄叫びください」
「恥ずかしいんで無理です」
「次は〜ファッション・プレイス・ウェスト駅〜ファッション・プレイス・ウェスト駅〜」
「アメリカ・ユタ州の駅の名前言って誰が分かるんですか」
ゴリゴリにニッチな会話を繰り広げながら帰る二人。
心地よい風が理沙の長い髪をサラサラと揺らしていく。
「風が気持ち良いですねー」
「お前だけだけどな」
「おや先輩辛そうですね?日頃の運動不足がたたっていますか?」
「人一人分運んでりゃ流石に疲れるわ」
「嘘でも軽いと仰って下さいな」
「クソ重いですねお嬢さん。お太りに...待って揺らさないで転ぶ!!」
ふざけていると、急に良二が理沙を自転車から降ろそうとした。
「やばっ...降りろ降りろ!」
「何です、警察ですか?」
「いや同じ学校の奴だ」
「あーじゃあ大丈夫ですよ」
「何がだよ早く降りろ!」
「あ...」
「?」
理沙の方を向かずに片手で体を押して降ろそうとしていた良二は、理沙を押す手に柔らかい感触を覚えた。
明らかにそれは女性のソレだ。
「あ...悪い」
「降りないとですね」
「あ...おう、助かる...」
理沙はヤケに静かになって良二は焦る。
いつもなら「先輩ったらエッチですねぇ〜」とからかってくるところ、それが無いという事はめちゃくちゃ怒ってるんじゃないかと考えてしまう。
なんとか同じ学校の生徒とはち会う事は避けられたが、理沙は良二の自転車に乗ろうとはしなかった。
無言が続き、理沙の家に向かう道に差し掛かった。
「それでは、また」
「おう」
「あ、先輩アレ見て下さい」
「あ?」
「よっ」
良二の視線を別に向けさせ、その隙に理沙は良二の手を取って自分の胸に押し付けた。
良二はすぐに手を退けようとしたが理沙の力が意外に強く離れない。
「な、何してんだお前!」
「揉んでも良いですよ?」
「揉まねーよ!」
良二はバッと更に強い力で理沙の手から逃れ、信じられないと言った目で理沙を見る。
「良いじゃないですか、一度触ったんですから」
「どういう考え!?」
「別に何とも思ってない人から触られても特に何も感じないですよ。まして先輩なんて」
「ちょっと怒ってない?」
「胸なんてただの脂肪ですよ」
「エロガキが言うセリフじゃん」
「だからそんなに気に病まなくて良いですよ」
理沙なりの気遣い、優しさなのだろう。こういう時、気まずいのはどちらかというと良二の方だと分かっているのだ。
「じゃあ先輩、また学校で」
「あ、ああ...。ありがとな」
「先輩、素直になるのは良いことですけど、そこまで触れた事に対してお礼を言われるとちょっと...」
「そっちじゃないわ」
理沙はぺろっと舌を出してからかえて楽しそうだった。
その後、家に歩いて帰る理沙は、そっと自分の胸に手を当てる。
(手、意外とおっきぃ...。顔真っ赤だったなぁ〜)
可愛いと呟いて人知れず笑う理沙だった。
次の日、良二はまた理沙に絡まれていた。
「先輩、昨日は私の胸の柔らかさでさぞムラムラしたでしょう?私の写真を送ってあげます」
「マッジでキモい」
「冗談ですよぅ。ところで...」
「良二」
二人で会話していると、良二を呼ぶ声がした。
「DJ」
良二が呼ばれた方を振り向くと、DJという聞き馴染みのある名前を呟いた。
「伊達...さん?」
「...君誰?」
「どしたのDJ」
「次移動教室だよ、視聴覚室」
「あ、そうなの?じゃあ行くか」
「あ、先輩...」
「何?」
「あー...いえ、何でもないです」
「あそ、じゃーな」
良二は伊達と一緒に視聴覚室へ向かった。
「彼女?」
「まさか、ただの後輩だよ」
「あっちもそう思ってる?」
「当たり前じゃん」
「ふーん」
「何」
「良二は、カッコいいからね」
「DJほどじゃないよ」
二人は傷の舐め合いの様な会話をしながら視聴覚室へ入った。