28、そして二人はいつまでも
「先輩、化学の話は得意ですか?」
「別に苦手では無いな」
「共有結合という原子間の結合を知っていますか?」
「あーどういうもんかは忘れた」
「原子同士がお互いの電子を共有し合って結合している事を言います。そしてそれはお互いが居ないと安定しない、お互い依存し合っている結合というわけです」
「はぁ、そんなんだったっけ?」
「そして結合の中で『最も強く結合している』とされているらしいです。天然に作られた物の中で最も硬いとされているダイヤモンドが、まさにその共有結合です」
「へぇ〜それはまた、勉強になるな」
「私達もきっとそうです。私と先輩は共有結合していると言えるでしょう」
「ロマンチックに言ってくれて申し訳ないが、俺は別にお前が居なくても生きてはいける」
「そんな強がりを言って」
「そんで、お前も俺が居なくても生きていける。俺と別れりゃもっと良い男がいるかも知れないのに勿体ねー」
「またまた、先輩が私を手放すわけないじゃないですか。分かりきったご冗談がお好きなんですね」
「つーかそもそも何だその話は。化学の話をしてんのに、結局化学じゃ説明し切れない恋愛の話じゃねぇか」
「先輩知らないんですか?化学、科学、心理学、様々な分野で恋は図れるんですよ?」
「形として存在しないのにか?」
「形として存在しないからこそ、研究するのでは?」
「どうかね、俺にとってはどうでも良い話だ」
「どうでもよくありませんよ、少なくとも先輩は今私と恋をしているのですから。渦中にいますよ、ど真ん中ですよ」
「恋愛だなんだしなくても良い事をして時間の浪費とは...俺の人生が可哀想だ」
「自分で自分を哀れんではいけません」
「じゃあ誰が俺を哀れんでくれるんですかぃ」
「それはもちろんこの私めが」
「最悪だな、自分でやった方がまだいい」
「私だったら哀れむだけでは飽き足らず、愛してあげますよ」
「愛する必要はあるか?」
「哀れむと愛するの音読みは一緒ですよ、先輩」
「だから何だ、中国のお偉いさんにでも漢字のレビューを送れば良いのか?」
「音読みが一緒で思いだしました。金と命、よく天秤に掛けられがちなこの二つ、ある共通点があります」
「なんだよ」
「画数が同じです」
「.................あ、本当だ」
「ちなみに、パソコンで調べてみると『金』の方が早く習う漢字ですし、漢検でも低い級で出てきます」
「へぇ〜それは知らなかった。...いやだから何だ?」
「先輩はお金と命、どちらを取りますか?」
「んー金かな。金がねぇと生きていけねーし」
「ですが、「「命が無いとお金が稼げません」」
「言うと思った、常套句だな」
「私いつも思うんです。そう分かっているのなら、では何故その二つを天秤にかけるんでしょう?」
「人間性を見たいが為じゃないか?」
「人間性と言いますと?」
「金って答えりゃ薄情者で、浅ましい人間に捉えられ、命と答えれば勤勉で、頑張り屋さんと捉えられる」
「そういうものでしょうか?」
「薄っぺらいテストだけどな。それなら世に蔓延ってるバーナム効果ゴリゴリの心理テストの方がまだ信用出来る。それで?お前は?」
「お前は?」
「お前は金と命、どっちが大事だよ」
「天秤に掛けるべきでは無いとはっきり言いましたよ私。んー...命ですね」
「へぇ、俺とは合わねーな」
「いえ、先輩が金と答えたので合わせて命と答えさせて頂きましたよ」
「そこは同じ価値観であるべきじゃね?まぁ俺に合わせた時点でお前の価値観の元答えられてねーけど」
「先輩がお金を大事にしてくださるなら、私は先輩の命を大事にしようかなと」
「それお前が俺と一生を添い遂げる事が前提に聞こえるんだけど」
「何も間違ってないですよ」
「何も間違ってないってのはどうだお前」
「あ、同じ価値観で思い出しました。先輩子供は何人欲しいですか?」
「一クラス分」
「結婚相手孕み死ぬんじゃないですか?」
「何だ孕み死ぬって、腹上死だろ言うなら」
「まぁでも先輩が言うなら一クラス分くらいパパッと...」
「やめてくれ」
「あら、何だかんだ言って優しいですね。心配して下さるなんて」
「いや、『俺と』っていう妄想をやめてくれっていう意味な」
「なーんだ」
「子供かぁ、想像出来ねーな。なぜなら俺がまだ子供だから」
「自分を子供と自覚した時点で、大人の一歩を踏み出しているんですよ」
「何人欲しいんだろうなぁ、よく野球チームが作れるくらいって人はいるな」
「野球チームは九人でしたっけ。バスケチームの方がまだ希望はありそうですね、この少子化の時代の中では」
「作ろうと思えば作れるんだろうが、これもまた金の問題だな。金が無ければ子供の人数も制限される。国に金はあるんだろうが、それは高齢者に使われたりと結局給料的な面には届かねーってな」
「世知辛い話ですね。少子化対策というのなら、子供をたくさん作っても問題ないくらいお金を下さいって話です」
「俺は別に子供たくさん欲しいわけじゃないから良いけどな」
「さっき一クラス分って言ったじゃないですか」
「冗談に決まってんだろ」
「リアルなところで言うと何人くらいですか?」
「一人でも良いけど、男と女で二人は欲しいな」
「なるほど」
「つかお前結婚願望なんてあったんだな」
「そりゃありますよ、ウェディングドレスは女の子の夢ですから」
「マジ?俺プ○キュアだと思ってた」
「それは確かに夢ですけど...特に初代は」
「初代はマジですげーよな」
「見てたんですか?」
「見てたよ。初代のあの拳でぶん殴ってくスタイル超好きだった」
「変にファンタジーなビームとかあまり使って無い感じが良かったですよね」
「まぁよく覚えてないけど」
「覚えてないんですか」
「女の子じゃねぇしな。ウェディングドレスねぇ、そんな良いもんか?」
「良いものですよ〜。着てみます?」
「着てたまるか」
「似合いそうですけど」
「似合ってたまるか」
「それにしても結婚ですか、人に寄りますけどやはり幸せなものなんでしょうね」
「結婚は人生の墓場らしいぞ。ずっと一緒にいるって、案外嫌な所が見えて来て破綻していくんだってよ」
「だから結婚の決め手は生半可なものではいけないんです。それこそ何年もかけて、相手の事を見定めなければ」
「例えばカップルで旅行なんて最長でも一週間じゃねぇか。一週間程度なら一緒に居ても隠し通せる気がするけどな」
「そうですね、なのでそこで第二段!同棲です」
「同棲ね、だいたいのカップルはここで別れるぜ」
「まぁ最短でも三ヶ月は同棲して決めるべきだと私は思うんですよ、三ヶ月もあれば相手のプライベートは粗方把握出来るでしょう?」
「良い決め手にはなるかもな。例えばそこでダメだったらどうすんだ?」
「ダメだったら、直してもらいます」
「別れないんかーい」
「そんなすぐに別れるわけないじゃないですか」
「同棲してダメだってなったんだろ?別にそいつと生涯を共にしなきゃいけないって決まってるわけじゃねぇんだから」
「冷た過ぎやしませんか?」
「お前が言ってる事はアレだぞ?高速道路の料金所で、ETCで行けんのに現金で...」
「いや分かりにくいですわ、何でそれで腑に落としてやろうと思ったんですか」
「じゃあ俺に直して欲しかった事ってあるか?例えば」
「例えばですか?んー...ゴミ捨てでたまにプラスチックゴミを燃えるゴミに入れるのやめて欲しいですね」
「いやあれゴミ箱が隣り合ってるしさ、色一緒だし間違えるだろ」
「だから私ちゃんとプラスチックゴミか燃えるゴミか分かるようにシール付けたじゃないですか。そしたら先輩が『こんなシールが無いと分からない様な馬鹿と思われるからやめろ』とか言って外したんじゃないですか」
「あんなポップでファニーな柄じゃなくて良いだろ!横にクマさんがプリントされていたよ!」
「良いじゃないですかポップでファニー。二代目のキング・オブ・ポップですよ」
「キング・オブ・ポップってそういう意味じゃねぇよ!」
「あまりに間違えるから引っ越そうかと思いましたよ、分別の無い街へ」
「深刻過ぎる...。それは確かに俺が悪いな、ごめん」
「良いですよ、それくらい私がカバーしますし」
「他は?何かねーの?」
「んー...後は、私が仕事から帰ってきても、ハグして迎えてくれない事ですかね」
「それは俺悪くねーな」
「先輩の問題ですよ、先輩の問題オブザイヤーですよ」
「何だよ帰って来てハグって...アメリカだってやんねーよ。何だ、じゃあゴミの分別くらいじゃねーか、俺の悪いとこ」
「いえいえ、私からしたらゴミ捨て以上に由々しき事態ですよハグは」
「お前の価値基準グッチャグチャだな」
「なにを大事にするか、それは私が決める事です」
「ま、それもそっか」
「あ、先輩そろそろ時間ですよ。式場へ急ぎましょう」
「へいへい、てかお前その先輩呼びはいつまで続けんだ?」
「それはもちろん、今日でお終いです」
「あっそ、じゃあ行こうぜ。遅れたらDJに怒られる」
「良二さん、私のこともちゃんと名前で呼びましょうね?」
「え〜」
「私だって呼び慣れない良二さん呼びしてるんですよ!」
「ちっ、もっと早く矯正していれば良かった...。じゃ行こうぜ、理沙」
「は〜い。楽しみですねぇ、伊達先輩たちの子供見るの」
「先週退院したみたいだしなぁ大路さん。あ、もう大路さんじゃねぇのか」
「可愛いんだろうなぁ、私たちの子もきっと可愛いですよ」
「当たり前だろ」
「あはは!親バカになりそうですね〜」
「ならないわけねーだろ」
「あはははは!そういえば〜........」
ありがとうございました




