27、赤いバレンタイン
修学旅行最終日は、良二を含めた三人で観光地らしい観光地を巡った。食べ歩きもたくさんして、あっと言う間に帰りの時間になってしまった。
「楽しかったね、色々あったけど」
「ほんとに」
「俺は疲れた」
「もしもさ、大学とか進学してもまだ関係が続いてたら、また来ようよ。九条さんも連れて」
「あー良いかもな。いちいち電話すんの面倒だったし」
「私も行きたいな」
三人は空港のベンチでそんな約束をする。
程なくして飛行機に乗り込み、辺りが夕陽に包まれてきた頃、飛行機は飛び立った。
機内では行きと同じ様に大盛況ではあったが、流石にみんな疲れていたのか後半の方では寝始める者が多かった。
そんな中、良二と大路は自分の席から窓の外に見える夜景を楽しんでいた。
「羽島くん、寝ないの?」
「別に眠かねぇからな。大路さんは?」
「私も、さっきコーヒー貰ったから」
「二日目は、大変そうだったな」
「迷惑も心配も掛けておきながら申し訳ないけど、楽しかった」
「なら良かった、DJは心配してたぞ。もし大路さんに嫌われてたらどうしようって」
「嫌わないよ」
「俺もそう言ったんだが、目を離してしまった自分も悪いって責めててさ。うるさいから一発殴ったけど」
「殴らないであげて、私も悪かったんだから」
大路と良二は前後の席で、お互いの顔を見ずに会話する。
件の伊達は良二の隣で気持ち良さそうに寝ていた。
「大路さんさ、DJの事どう思ってる?」
「え、何急に」
「いやさ、最近大路さん変わったから」
「どこが」
「ただ仲良くなっただけって言えばそれでお終いだけど、DJや俺、ひいてはクラスの人間にも愛想良くなってる気がして」
「そうかな...」
「自覚無いのか。まぁ、そうなったのもDJと仲良くなってからだからさ」
「あー...もしそう思うなら、そうだと思う。私も、最近学校が楽しいから」
「へぇ〜。DJの事好きなんじゃね」
「どうだろ、羽島くんと話すのも楽しいもの」
「そりゃ嬉しいけど、多分俺らには大きな差異があると思うぞ」
良二は会話を終えて、伊達と一緒に眠りに着いてしまった。
(伊達くんを好き...?私が...?考えた事もなかった)
大路は結局空港に着くまでの間、ずっと伊達の事を考えていた。
着いた瞬間に、出発時のあの寒さを思い出す。
マフラーを急いで巻いて、三人はさっさと電車に乗って帰宅した。三人とも同じ駅で降り、お互いの家まで送り合うという流れになった。
「楽しかったなぁ〜」
「そだね」
「プライベートビーチのダンス部は凄かった」
「プロみたいだったねぇ」
三人で暗い夜道を歩きながら、寒い冬の風を受ける。
思い出話に花を咲かせていると、良二の家が見えた。すると、良二の家の前に誰かが立っていた。
「先輩!」
そこにいたのは理沙だった。
どうやら良二と何時に帰ってくるのか連絡を取り合っていたらしい。
「遅いですよ」
「遅くはねぇだろ」
「おかえりなさい」
「おう、ただいま」
理沙はとても嬉しそうに、良二も嬉しそうだが表情がそこまで変わっていないので分かりにくい。
「じゃあまたね」
「はい、お疲れ様でした」
「ばいばい羽島くん」
「おう」
良二たちと別れ、大路と伊達は二人でまた帰路を歩いていく。
少しだけ静かになった二人の会話、良二がいなくなったせいなのか、二人の距離は近くなっていき、やがて手が触れ合った。
「................」
「................」
お互い黙ったまま、触れ合った手を握り合う。
手を握り合って10秒で、大路の家に着いてしまった。スルッと手を解き、何事も無かったかのように伊達に別れを告げる。
「じゃあ、また学校で」
「うん、バイバイ」
伊達もその流れで普通に挨拶をして帰っていった。
しばらく歩いた後、伊達はその場で蹲み込んだ。
「...っくりしたぁ...」
伊達は大路の手を握った右手をそっと握り締め、おでこに当てる。
そして大路も、部屋に入ってすぐにドアにもたれ掛かり、左手をギュッと右手で握りしめる。
(もうダメだな...)
心の中でそう言って、携帯電話を取り出した。
修学旅行休みが終わり、いつもと同じ学校生活が始まる。
修学旅行が終わって一ヶ月が経った頃、周りの女子が色めき立ち、男子がソワソワしてくる時期、バレンタイン。
そんな中、大路は悩んでいた。
「あ?DJがチョコ好きか?」
「うん」
大路は伊達にチョコを渡したいのだが、伊達が甘いのが苦手では無いかを良二に確認していた。
「あー別に嫌いじゃなかったはずだぞ。食ってる所何回か見た事あるし」
「そ」
「何、送んの?」
「...まぁ、いつもの御礼って事で」
「へぇ〜」
「何」
「いや、良いんじゃねーの」
そう言う良二の顔はとてもニヤついており、大路はそんな良二の顔に若干イラついた。
「作んの?」
「いや、買うかも」
「あそ、まぁどっちにしたって喜ぶよあいつは」
「あそ」
精一杯の強がりなのか大路は興味なさげにそう言った。
学校が終わり、大路は伊達の席に向かう。
「伊達くん、これから時間ある?」
「うん、今日は何もないよ」
「じゃあ18時に私の家に来て」
「え?何故?」
「良いから」
それだけ言って大路はそそくさと家に帰って行き、伊達は一人疑問符を頭の上に浮かべながら固まったままになってしまった。
後から良二がやって来て、固まっている伊達に声をかけた。
「おい、何呆けてんだ」
「何か...大路さんの家に行く事になった」
「...あっそぉ、良かったじゃん」
「何か用があるって事だよね?」
「だろうな」
「何があるんだろう」
「今日が何の日か考えりゃ分かんじゃね?」
「あ...」
「ハッピーバレンタインですセンパーイ!」
「ぐふっ...!?」
良二と伊達が話している最中に、理沙が乱入して来た。良二と伊達以外の生徒がいなくなった事を確認して来たので、かなりハイテンションだ。
「伊達先輩もハッピーバレンタインッ!」
「...yeah」
「テンション低いですね、どうしたんですか?」
「お前が...高いだけだろうが!」
いつまでも抱きついて来ている理沙を良二は振り解く。そして伊達は先ほどの大路について、理沙の考えを聞く事にした。
「あ〜それは完全にバレンティヌスの力を使おうとしていますね」
「バレンタインって普通に言えねぇのか」
「え、でもそんな素振り一切見せなかったけど...」
「大路先輩の事ですし、まずは伊達先輩が甘いもの好きかどうかを確かめてから臨むべきだと思ったんじゃないですか?」
「まぁそれだったら事前に聞いとけよって思うけどな」
「忘れてたんでしょうねぇ」
ちょっとした会議を終えた三人は、兎にも角にも帰宅する事にした。
悶々と大路の意図を考えている間に約束の時間になってしまった。
大路の家にやって来ると、エプロンを着た大路が玄関から出て来て、中に入るように促される。
「いらっしゃい、中入って」
「お、お邪魔します...」
大路の家には誰もおらず、静かだった。甘い匂いが部屋中にしており、チョコを用意してくれているのだと期待してしまう。
「座ってて」
「あ、はい」
テーブル前の柔らかいカーペットに座り、大路の手作りチョコを待つ。
すると、突然パチンっという音がした後、周りがフッと暗くなった。どうやら大路が電気を消したらしい。
「何?何をする気?」
テーブルに何かを置く音がして、パッと電気が着くと目の前にチョコフォンデュの機械があった。
「ハッピーバレンタイン」
大路はいつものテンションと真顔で伊達に言い放つ。伊達は今何が起こっているのか分からず、何も反応出来なくなってしまっている。
「...え、何これ」
「チョコフォンデュ」
「あ、そうだね...」
「今日買って来た」
「買ったんだ?」
「色々お店回ったけど、この段々になってるやつを見つけるのに手間取っちゃって...。約束の時間に間に合わないと思っちゃった」
「あ、うん...良かった...間に合って」
大路がたんたんと話すもんだから、伊達は現状の処理が追いついていないながらも頑張って会話をする。
「あのー...いや嬉しいんだけど、何故チョコフォンデュ?」
「甘いの好きって聞いたから、じゃあ後は楽しい事しようと思って」
「へ、へぇ...」
「楽しくない?手作りのクッキーとかの方が良かった?」
「いやっ...!楽しい、凄い楽しいよ。ただちょっと想像を遥かに超えてったから、驚いてるだけ」
基本今までのバレンタインでは手作りのものを受け取っていた伊達だが、まさか家の呼び出され目の前で上から下に流れるチョコを見る事になるとは想像もしていなかった様だ。
「食べよ、実は私もチョコフォンデュをするのは初めてだから」
「だろうね」
二人でマシュマロやフルーツを串に刺して流れるチョコに潜らせ、チョコが垂れそうなのを手で受け皿を作りながら食べていく。味はもちろん美味しいので、会話をしつつ進めていった。
「美味しいね」
「うん、楽しい」
「良かった」
食べ終わったので、大路はチョコフォンデュの機械や、フルーツを切ったナイフなどを洗っていく。伊達も何もしないのは悪いと、食器を拭いたり片付けたりと手伝いを進んで行った。
「今日は楽しかった」
「うん、それは良かった」
「でも良いの?彼氏いるのに、ただの友達にこんな盛大に...」
「.................」
伊達がそう言うと、大路は洗い物を終え、拭いていた手を止めた。
「...ただの友達じゃないよ」
「え...?」
「ただの友達じゃない」
大路は真剣な顔で伊達に向かってそう言った。
エプロンを脱ぎ、大路は一歩一歩伊達に近付き、もう手を伸ばせば届く距離まで近付いてから足を止める。
「私、彼氏とは別れてる」
「え、そうなの...?」
「うん、修学旅行から帰ってきた時に、電話で私から別れを告げた」
「そう...なんだ...」
「あっさり『分かった』とだけ言って電話を切られた。元々お互い好きじゃなかったんだ。きっと」
大路は俯きながら淡々と話していく。伊達は大路が悲しそうな顔をしているかと思って覗き込んでみるが、身長差があるせいで見えない。
「どうして別れたんだろう?どうして神社で伊達くんに抱きしめられて嫌じゃなかったんだろう?どうしてこんな面倒なイベントの為に学校から早く帰って来て街中を自転車で走り回ってまで機械を買いに行ったんだろう?どうして伊達くんと喋ると、こんなに楽しいんだろう?いっぱい、たくさん考えた...」
「.................」
「答えなんて分かっているのに、分からないフリをして、気付かないフリをして、でもそんな毎日を楽しんでいる自分がいて...。悩んでいながら、楽しいなんて変だ」
「...変じゃないよ」
「変だよ、こんな私は変だ。変人だ。今までこんな事無かったのに!」
「大路さん落ち着いて...」
声が少しずつ大きくなってきている大路を宥める伊達。咄嗟に掴んだ大路の肩は少し熱かった。
「伊達くん...私ね、バレンタインなんて初めて意識したよ」
「................」
「機械を買った時、伊達くんの笑った顔を想像してニヤけそうになって、必死で口の中を噛んでポーカーフェイス気取って...気持ち悪い。でも、伊達くんに振られるのが嫌だから、今日はこんな事言わないって決めてたのに...」
「気持ち悪くなんかないよ」
「ごめんね、こんな事一気に言われても分かんないし、伊達くんは私と友達で居たいのにね...。ごめん、明日からは、羽島くんと九条さんと一緒にいて?私の事は構わないで良いk...」
大路の一方的な言葉の数々を黙らせるように、伊達は大路の事を優しく抱きしめた。
ポンポンと優しく背中を叩き、落ち着く様に促す。
「大路さん、ごめんね。俺が意気地なしで、いつまでも好きって伝えなかったから、大路さんを悩ませる事になった」
「伊達くん...も、私の事好き...だったの?」
「うん、大路さんよりもずっと前から。一眼見た時から、この人は他の女子とは違うなって思って、話してみたら凄い面白い人で、ずっと一緒にいたいって思ってた」
「そんな事...」
「だから大路さんに好きって伝えてもらって嬉しかった。ありがと、僕も好きだ」
伊達は大路に向かってニコッと笑って見せる。
「...チョコ、ほっぺに付いてる」
「え?本当?どこ?」
「取ってあげる」
そう言うと大路は伊達の頭を両手で優しく包んだかと思うと、グイっと自分の方に引き寄せ、伊達の頬にチュッとキスをした。
「んふふ、嘘」
「...あ、...びっくりした...あはは」
「ちゃんと言葉で伝えてなかった」
「何を?」
大路はキスをした後の赤い顔をしっかり伊達に見せつけ、その言葉を告げた。
「好きだよ、私と付き合って下さい」




