26、その『星』を観た者よ
ファンタジー要素のある話です
修学旅行二日目、大路と伊達はホテルのロビーで集まる約束をしていた。
「おはよう伊達くん」
「おはよ、早いね」
大路は既に伊達よりも早くホテルのロビーのソファに座って待っており、伊達が後ろから声をかけると、コテンッと首だけ上を向いて返事をする
大路の顔はまだ眠たいといった顔をしていた。
「眠い?」
「うん、でも早く行ってみたい」
「じゃあ行こ」
「うん」
少し眠たそうな大路を連れて、伊達は目的の山奥の神社へと向かった。
しかし、
「え、無い?」
「その場所はあるけど、そこに神社なんて聞いた事ないぜ」
「地元の人が知らないなんて事ある?」
「行きたきゃ別に行っても良いけど、気を付けて...お前らどうやって行く気だ?」
地元民の30代くらいの男性は、二人の装いを見てそう言った。
どうやらここら辺からその山まで行くバスは通っていないらしく、車無しではかなり遠い場所にあるらしい。
「しゃあねーな、俺のトラック乗っていきな」
「え、良いんですか」
「見たとこ学生で修学旅行中だろ、あんな辺鄙なところ行きたい学生なんざ珍しいし、それに危ないしな」
「ありがとうございます」
「ます」
伊達は男性の助手席に、大路は本人たっての希望で荷台に乗り込んだ。
荷台で揺られる大路を心配しながら、車は目的地へやってきた。
「こんな所に本当にあんのか?」
「道はありますし」
「いやハイキングには来るだろうけど...まぁ気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます」
帰りも車を回そうかと言われたが、その山から少し歩いたところにはバスがあり、そこから二日目のホテルに行けるらしいので、丁重にお断りした。
「じゃあいこっか」
「ねぇ何か怪しくない?」
「確かに、あそこまで地元の人が知らないっていうのは何だかおかしい」
「登るだけ登って何もなかったらどうしよ」
「それは是非避けたいね」
そんな話をしながら、二人は山を歩いていく。舗装された歩きやすい道だったので、運動神経の良い体力もそれなりにある伊達はずんずん登っていくが、女子の大路にはとてもでは無いが辛い道のりだった。
「大丈夫?休憩する?」
「大丈夫、置いてっても良いから」
「しないよそんな事、二人で来たんだから」
伊達は何を馬鹿な事をと言いたげに大路の手を取る。大路も伊達に引っ張られながら山を歩いていく。
(手...繋いでしまった...)
二人はどんどん歩いて行き、山を登り始めて1時間が経過した頃、階段を登った先に神社の屋根が見えた。
「あった」
伊達と大路は二人でその神社の前に立った。伊達の読んでいた小説では文字だけでの説明で、モデルになった神社は複数該当していて、果たして本当に目の前の神社がモデルになったのか定かでは無いが、伊達は満足そうにその神社を見つめる。
「何か、趣があるね」
「いとをかし」
「まぁでも良かったね、ちゃんと有って」
大路は境内に登って手を合わせお参りした。
「伊達くんもお参り...あれ?」
お参りし終えた大路が後ろを振り向くと、そこには伊達の姿は無かった。
辺りを見渡してみても、伊達の姿が見えない。
「伊達くん?どこ行ったの?」
境内から降りて、神社の周辺を歩いて回って探したが見つからない。先に降りてしまったのかと神社の前に戻ってくると、鳥居の側に伊達は立っていた。
「どこ行ったのかと思った」
「................」
伊達はジッと大路の顔を見つめる。その目はいつもの優しい目ではなく、少し冷たい、まるで別人のような目つきだった。
「...どうしたの?」
「...何でもないよ」
「そう?もう満足したなら降りよう。羽島くんと合流して三人でどこか行こ」
「嫌だ、こっちが良い」
そう言って伊達は大路の手を強く引っ張り、神社の奥にあった歩きやすいとは言えない道を進む。
「ちょっ...腕痛いんだけど」
「................」
大路の言葉に一切耳を貸さない伊達は、ただ黙々と道を突き進んでいく。
すると、少し開けた場所に出たかと思えば、大きな大きな池がそこにはあった。
そこは木々が生い茂っており、池の真上を枝葉が覆い隠し、日差しが木漏れ日から辛うじて刺している、それはまるで星空の様に見える。
「昼星」
「え?」
「俺たちはそう呼んでる」
「そうなんだ...綺麗だね」
大路は池の近くまで歩き、池の中を覗く。中には綺麗に輝く石が点々としていた。
「綺麗な石が見える」
「欲しい?」
「んーん、いらない」
「何故?」
「あの石は池のものだし」
「池に意志なんてない」
「上手いこと言うね。ここまで綺麗に光っていられるのは池の中にあるからで、私の手の中じゃただの石になっちゃうよ」
「...意味分からない」
「そうだね、そうかも。私もたまに自分が分からないな」
「全てに意味は無く、一つ一つがある様にあるだけ」
「面白いこと言う。でも私はたまに自分にも意味があったんだなぁと思う時があるよ」
「何」
「伊達くんが、私と話してて笑ってくれる時」
「................」
「私と話してる時、あんなに楽しそうにしてくれる人はいなかった。話していくうちに、仲良くなるにつれて、こう返したらどう思うだろう?こう言ったら彼は笑ってくれるだろうか、そんな事を考える様になった。どころか自分から話題を振ったりもした、そんなの初めてだ」
大路はとても楽しそうに話している。
「だから、真似するならもう少し上手く真似してね。どこかの誰かさん」
「.........!」
大路がそう言って池の水を手ですくって伊達の顔に掛けた。すると、フッと辺りは暗くなって、しゃがんでいる大路の目の前には小さな水溜りがあるだけだった。
辺りはすっかり真っ暗になっていたので、携帯のライトを使って、歩いて来た道を進んでいくと、やがて最初に居た神社の境内前にたどり着いた。
すると、向こうの方から伊達が見えて、伊達も大路を見つけてすぐに走り寄ってきた。
「大路さん」
「伊達く...ぶっ!」
伊達は大路をギュッと抱きしめ、そのまま地面に倒れ込んだ。大路は仰向けに、伊達はうつ伏せで大路の肩に顔を埋めて顔が見えない。
大路はゆっくり伊達の後頭部に手を回して、優しく撫でる。
「ごめんね、ちょっと迷子になっちゃった」
「心配したっ...。すごく...!」
「うん、ごめん。私も会いたかった」
しばらくして落ち着いて、大路はもう一度伊達に誤ってから山を降りた。
山を降りた瞬間に、伊達の携帯が鳴り始めた。見ると良二からとんでもない量の連絡が来ていた。
『やっと出た!DJ今どこにいんだ!?』
「大路さんを見失ってずっと探してた。でも見つかったから今からホテル向かうよ」
『良かった...何かあったのかと...』
「いや何かはあったよ」
『先生カチ切れてっけど、帰って来たら謝れよ』
「うん。あ、大路さんに変わる」
電話を切ろうとしたら、大路が手を差し伸べて良二と話したそうにしていたので変わってあげる。
「もしもし羽島くん?」
『おう、大丈夫か?怪我してねぇか』
「うん、大丈夫だよ、ありがとう。心配かけてごめんなさい」
『無事なら良いよ。早よ帰ってこい』
「うん」
大路は電話を切って、伊達と一緒にホテルへ戻った。
担任、教育指導の先生たちからこってり怒られた二人は、反省文を書いた後ようやく自由になり、ホテルのロビーのソファに座り込んでいた。
「怒られたね」
「そうだね」
「ごめんね、私が迷子になっちゃったせいだ」
「うーん...大路さん。迷子だったの?」
伊達は大路の『迷子』を疑った。
「どうしてそう思うの?」
「なんだか、迷子って感じじゃ無かった。境内に登ってお参りしてる大路さんを見てて、一瞬だけ目を離してもう一度大路さんのいる方を見たら消えた様に居なくなってたからさ」
「私も、お参りして振り返ったら伊達くんが居なかったよ」
「不思議だね」
「...ねぇ、伊達くんあの神社をモデルにした本、今持ってる?」
「あるけど、部屋だ。取ってくる?」
「よかったらお願い」
「分かった、ちょっと待ってて」
伊達はそう言って気前よく本を取りに部屋へ戻った。しばらくして戻って来て、大路はお礼と共に本の最後にある作者のコメントを読んだ。
「...やっぱり」
「何?」
「この作者も、私と同じ様な体験してる」
「え?」
「私、本当はずっと伊達くんと一緒に居たんだ。正確には伊達くんの真似をしてる誰かさんだけど」
「え?僕?」
「伊達くんと姿形は一緒だけど、全然違ったからすぐにアレ?と思ったけど。綺麗な星を見たの、昼星っていうの」
「昼星...?昼間だったんでしょ?」
「うん、綺麗だった。池もあってね、その中には光る石もあって...。って、信じないか」
「ううん、信じるよ。大路さんが言うんだから」
「ふふっ、ありがと」
大路は初めて伊達の前で屈託のない笑顔を見せた。
二人はしばらくその話をして、気付けば消灯時間になっていたので各自部屋に戻って、不思議に満ちた修学旅行二日目を終えた。




