25、自販機前の約束
「それではぁ、今からバスに乗ってパイナップル食いに行きまーす」
現地について担任の指示によりバスに乗ってパイナップル園に向かう。
バスに揺られる事30分ほどでパイナップル園に着き、良二と伊達と大路の三人は一緒に回ることになった。
中はこれでもかというほどパイナップルを推して来ており、入口から出口までの間にパイナップル一房分食べたのではないかと錯覚するほど試食させられた。
「こういうところで何も買わないのは罪悪感があるね」
「俺は別にパイナップル好きじゃねぇし、なんとも思わねー」
「私も」
「そか...。僕も荷物になりそうだし、バスに戻ってようかな」
伊達がバスに戻ると言うので、二人もそれに着いていき三人だけの空間になった。
「そういや、旅館に露天風呂があるらしいぞ」
「良いね」
「そうなんだ」
「女子風呂覗きに行って良いか?」
「二人なら良いよ」
「良いわけないでしょ」
「自由時間どうしようか」
「伊達くんが回りたいところあるんだよね」
「そうなの?どこ?」
「結構山奥の神社。滝とかもあるみたいで、行ってみたいなぁと思ってて」
「へぇ、良いんじゃね?行くか」
「良かった」
「つか、何でこんな直前に言うんだよ。前々から言えたろ」
「結構面倒な場所にあるから、面倒臭がりの良二は嫌がるかなと思って...」
「でも、羽島くんが行きたくないってなったら、二人で行くことになってたけど」
「あー...そか」
良二はそんな返事をして窓の外を見る。すると、他の生徒たちが戻って来た事に気づき、そろそろ出発である事を二人に伝えた。
次に向かったのは世界最大級の水槽があると言われている水族館だった。観光客がたくさんいたが、それでもごった返している様に見えない程水族館は大きかった。
「でっけぇな〜」
「速く泳ぐことって出来るのかな」
「出来るんじゃない?」
「小さな魚食べられんじゃねーか?」
「大丈夫でしょ流石に」
世界最大級の水槽の中には大きな魚と小さな魚たちが混在している。良二は小さい魚が食べられないか心配しているが、生態系的にそこの心配はいらないようである。
「私クラゲ見たい」
「僕も」
「俺はもうちょいここにいる」
大路と伊達がクラゲを見に行きたいと言ってクラゲコーナーに向かう。良二はまだサメのコーナーを見ていたいというので残る事にした。
「綺麗だね」
「うん」
大路と伊達はクラゲのために薄暗くしたエリアを二人きりで歩いていく。
「あれちっちゃくて可愛い」
「そうだね、大きいのは嫌い?」
「綺麗なのは、好き」
「........そか」
「どうしたの」
「何でもないよ」
水槽に釘付けだった大路が、わざわざ伊達の方を向いて好きと言うので、伊達は思わず赤面する。周りが暗くなっていることに感謝する事になった。
「伊達くんは魚、何が好き?」
「鮭」
「鮭?どして?」
「美味しいじゃん」
「伊達くん、水族館でも海鮮丼普通に食べるタイプ?」
「積極的に食べるタイプ」
少しふざけた会話を挟みつつどんどん回っていくと、いつしかクラゲコーナーも終わってしまい、二人は良二の元へ戻る事にした。
良二は休憩がてら水族館の中にあるフードコートでお茶をしていた。その中に大路と伊達は合流する。
「お待たせ」
「ただいま」
「楽しかったか?」
「うん、とても」
「なら良かった、飯食ったら集合の時間になるだろうから、さっさと食おうぜ」
「うん」
三人でご飯を頼み、集合の時間まで駄弁る事にした。大路以外は海鮮丼を頼んだ。
一日目は自由時間で個人的にどこかへ行ける機会はほとんど無く、学校側が決めた観光地を回って、宿へ向かう。
これから友達と長い夜が始まると思うとワクワクが止まらない。
しかし、
「疲れた...」
「まだ夕方だけどもう寝たい」
「すごく分かる」
元々インドアで、たまに外に出ても目的を果たしたらすぐに帰路に着く三人には、一日中移動していた一日目はとても疲れたようだ。
宿に着いたらすぐにお風呂に入らないといけないらしく、部屋に着いてすぐにお風呂に入る準備をする。
「あ、DJ洗顔持ってる?」
「持ってるよ、忘れた?」
「そう、貸してくれると助かる」
「良いよ」
二人は着替えを持って大浴場の方へ向かう。すると道すがら大路に会った。女子も同じ時間に入るらしい。
「あれ、女子って部屋にシャワーあるんじゃねぇの」
「どっちでも良いんだって。私はせっかくだから温泉入ろうかと」
「あっそ」
「露天風呂壁一枚だから気を付けてね」
「そんな分かりやすく馬鹿やる人いないでしょ」
男女に分かれて、タオル一枚手に持って温泉に浸かる。
一日中歩き回って疲れ切った身体を、温泉がジワジワ暖めてくれる。毛細血管が広がっていくのが分かった。
「あぁ〜〜良い湯だ」
「最っ高」
「効能にさ、リウマチってあるけど、未だ何の病気か分かんねーよな」
「調べる気にもならないから結局死ぬまで分からなかったりするパターン」
「100%あり得る」
良い感じに暖まった身体のまま、外にある露天風呂に入りにいく。暖かい土地といっても冬である事に変わりないので、やはり寒い。しかしポカポカの身体には涼しくちょうど良かった。
冬独特の香りを感じながら、肩まで露天風呂に浸かる。外に出てくる生徒はおらず、二人だけで広々としていた。
「もうちょっと暗くなったら星見えるかもよ良二」
「確かにな」
「二日目に備えて今日は早く寝たいね」
「結構歩くのか?」
「うん、みたい」
「マジか〜」
少し暗くなってきた空を見上げ、白い息を出しながら話をしていると一つ高い竹の壁を挟んだ向こうから大路の声がした。
「伊達くん?」
「え...大路さん?」
「良かった、伊達くんだ」
「大路さんそっちいんのか」
「羽島くんも居た。二人だけ?」
「今んとこ俺らしか居なくなったな」
良二は周りを見ながらそう言った。
どうやら女子風呂の方も大路一人しか居ないらしく、竹の壁越しに会話する。
「疲れたね今日は」
「そうだね、これからご飯も楽しみ」「美味しいのかな」
「名物食べてみたい」
「学生用のホテルに名物なんざ出さねーだろ」
「それもそっか」
三人で喋っていると、先生から催促されお風呂から出る事になってしまった。
お風呂から出てしばらくしてから、生徒は大食堂に集められ六人から七人ほど座れる丸テーブルを囲んで夕食にする。
「意外に美味いな」
「うん、美味しい」
「大路さんとこ行ってくれば?」
「...どして?」
「一緒に食べたいかと思って」
「いや、流石にこの中では...」
大食堂では仲の良い者同士で食べているので、大体男女で分かれて食べている。
大路のいるテーブルは近くもなく遠くもない場所にあり、もう少しみんながバラけていけば同じテーブルに行ける筈なのだが、伊達はこの中では話そうと思っていない様だった。
「明日...さ、山行くんだっけ」
「うん、そうだけど」
「俺、あいつから海の写真撮ってきてって言われてんだ」
「九条さんに?そうなんだ」
「だから明日、二人で行ってこい」
「え...オッケーしてくれるかな」
「一回クリスマスで二人きりでどっか行ったんだろ?なら大丈夫だべ」
夕食も終わり、消灯までの自由時間、伊達は自販機で飲み物を買いにロビーまで降りて行った。すると、ちょうど自販機で飲み物を買いに来た大路と出会した。
「あ、伊達くんだ。こんばんは」
「こんばんは...こんばんは?」
「何となく」
「飲み物買いに来たの?」
「うん、伊達くんは売店で買わないの?」
「買うのお茶だけだし、売店はみんながいてうるさいから」
「ふっ、私も」
大路は口角を上げて同意した。自販機の明るい照明が飲み物を選ぶ大路を照らす。その横顔はとても綺麗で、しかし飲み物は何にしようか少し迷っている表情が少し面白かった。
「そういえば明日さ」
「うん、神社行くんだっけ」
「それなんだけど、良二が彼女さんに頼まれて海の写真を撮りたいんだって」
「うん」
「で、他にも撮りたい物とか見たい物があるって言って、二人で行ってきてって言われちゃって...」
「あーそうなんだ、それはしょうがないね」
大路はあっさりとそう言って買った飲み物を一口飲む。
「じゃあ二人で行こっか」
「え...良いの?」
「だってそういう話だったし。羽島くんが行けなくなっても二人で行こうって」
「そうだけど、本当に良いんだと思っちゃって...」
「クリスマス付き合ってもらったし、そのお礼」
「そ...っか、じゃあ、また明日」
「ん、また明日」
大路と伊達は明日の約束をしてお互いに部屋へ帰っていった。




