24、修学旅行開始
誰もが休み、家に一年ありがとうと感謝しつつ綺麗に掃除する行事、大晦日。
自分の部屋を掃除し終えた大路は、昼11時の澄み切った青空を二階のベランダにて眺める。
肌寒い風が全身を包み、大路を身震いさせようとしたところで、母親に呼ばれて下のリビングに下りる。
降りるとおせちを作っている最中の母親がおり、どうやら足りない材料を買って来て欲しいとの事だった。大路は快諾して、貰ったお金と自転車に乗りながら近くのスーパーまで向かった。
スーパーは大晦日、正月がやってくるとあって色々なフェアが開催されていた。
目当ての物を探してフラフラとスーパーの中を闊歩していると、伊達を見つけた。大路はバレないようにゆっくり近づき、伊達が驚く姿を想像しながら声をかけた。
「だぁっ!」
「あぁっ!?」
大路の叫び声にびっくりして危うく見ていた商品を落としそうになったが、何とかそれは防ぐ事ができた。
「びっくりしたぁ〜...誰かと思った」
「買い物?」
「そう、親に頼まれて。大路さんも?」
「うん、かぼちゃを」
「かぼちゃ、美味しいよね。煮物にすると何とも言えないちょうど良い甘味」
「分かる。でも苦手という人をよく見る」
「そうなの?嘆かわしい」
かぼちゃの可能性について語る間にお互い目的のものを手に取り、同じレジに並ぶ。
「冬休み終わったら修学旅行だね」
「そだね」
「班決めとか、迷うよね」
「そだね」
「大路さんは決まってるの?誰と一緒になろうとか」
「決まってないけど」
「そか...」
伊達は大路と一緒に回る為、勇気を振り絞り一緒の班に誘おうと口を開いた。
「あのさ...」
「一緒になろっか」
「...え?」
「班。どーせ学校で話すの伊達くんと羽島くんくらいだし」
「あ...うん、なろう」
「じゃあそういう事で」
振り絞った勇気が無駄に終わったが、結果的に満足のいく展開になったので良しとした。
大路とはその日以来会わなかった。早く冬休みが終わって大路に会いたい気持ちと、休みは休みで終わって欲しくないジレンマに苛まれながら、二年三学期始まりの日を迎えた。
「始まったなぁ〜、いや終わったなぁ〜冬休み。冬休みって本当に終わるんだなぁ〜」
「どっちかというと夏休みに抱く感想じゃない?そんな事より修学旅行の班、大路さんと僕と良二の三人で良い?」
「おん、良いんじゃね」
「どーも」
「...っくりしたぁ...。急に後ろ立たんでくれや」
良二と伊達が二人で話していると、いつの間にか後ろにいた大路に驚く。
「三人で回れたっけ?」
「部屋の班ならアレかも知らんが、ただ回るだけならいけたはず」
「どこ回るとか決める?」
「どうせ計画なんて立てたって上手くいかねーよ。現地で考えようぜ」
「私は賛成」
「僕も。一応何があるかは調べとくけど」
「そんくらいで良い」
旅行に関しては三人とも同じ価値観だった様で、大して計画を立てずに向うことになった。
迎えた修学旅行初日、三人共使っている最寄駅が同じなので、一緒に空港へ向うことにした。
まだ朝5時半。まだまだ朝日が顔を出さない時間帯に、駅に一番近い良二の家に集合する。大路が真っ黒なダウンを着ながらも震えていると、良二と伊達が一緒に出てきた。
「先に来てたんだ」
「んーん、泊まった」
「私も泊まれば良かった」
「かもな」
「寒いから早く行こう」
三人は並んで誰もいない駅までの道を歩く。
駅のホームには一体どれだけ遠くから通っているのか問いたいくらい早くからスーツを着て出勤しているサラリーマンがちらほらいる。恐らく終電を逃したのだろうと自身で納得した。
「こんな朝早くから行く必要あるか?」
「団体行動を重んじてるんじゃない」
「学年トップ3のマイペース三人だからなぁ」
「大体学生時代の団体行動が、独りである事が悪いことだっていう風潮を後押ししてる気がする」
「分かるわぁ」
「別に独りでやったって凄いものは出来るしね」
「足引っ張られても迷惑だしな」
「これで私たち三人遅刻したら特大ブーメランだけどね」
「フラグ回収はちゃんとしなきゃな」
「捨てとこうよ」
やがて電車がやって来て、道中世間話に花を咲かせていると空港に着いた。
やはり空港に近づくに連れて、周りに顔見知りが増えてきた。もちろん誰にも話しかけない受け身三人衆であった。
空港に着くと、外国人、スーツ姿で電話をするサラリーマン、親子など様々な人が往来していた。
担任が校章がプリントされている旗を振って集合地点はここだと示してくれたので、担任の元へ行って点呼を取った。
チケットを担任が取っている間生徒は暇なので先にトイレを済ませたり、今から行く場所の話や、夜何をするかなどの話で盛り上がっている。
「良二電話鳴ってない?」
「ん?あ、あいつか」
「九条さん?」
「そ、昨日空港着いたら電話しましょうとか言われたから。...ちょっと出てくる」
「うん」
「呼ばれたら合図する」
「助かる」
良二は電話に出るため少しだけみんなから離れた場所で理沙からの着信に応じた。
その間、二人きりになった伊達と大路はこの後最初に向かう観光地の話になった。
「冬でも暖かいって言うから、薄着の物しか持ってこなかったや。一応上着はあるけど」
「三日間はずっと晴れだから涼しいんじゃない?」
「だと良いなぁ。自由行動楽しみだね」
「行きたいところでもあるの?」
「一応あるけど、でも連れて行くのは忍びない所だから」
「どこ?」
「山奥にある神社。森とかに囲まれてて、すごい綺麗なところらしくて」
「ふーん、じゃあ行こうよ一緒に」
「でも、結構悪路らしいよ?」
「私もクリスマス付き合って貰ったし、そのお返し」
「良二が良いって言うかなぁ...」
「言わなかったら二人で行けば良い」
「...二人でいいの?」
「別に」
大路は大きな窓から飛び立つ飛行機を見ながらそう言った。
「それとも着いていっちゃいけない?」
しかし次は伊達の方を目だけ向けながら、少し恥ずかしそうに言った。
伊達は嬉しくて、少し挙動不審になってしまう。
「や...んーん、全然」
「そ、良かった」
話が終わったところで理沙との話を終えた良二が帰って来て、程なくして飛行機に搭乗した。
初めての飛行機に大抵の人間は楽しみにして窓から外を眺めたり、落ちないかという不安に苛まれギュッと縮こまったりしているが、良二と伊達はずっと飛行機のサービスの映画で何を観るかを話し合っていた。ちなみに大路は後ろの席で寝ている。
飛び立ってからはみんな自由に席を立ち話したい人間と話している。大路は相変わらず寝ているが、良二も映画を観ているうちに寝てしまい、伊達の周りに起きている人間はいなかった。無理もない、朝早かったし眠る時間も飛行機に乗っている間くらいしか無い。
伊達は一人暇を持て余し、持って来た小説を音楽を聴きながら黙読していると、いつの間にか起きていた大路に上からポンポンと軽く頭を叩かれた。
「おはよう」
「おはよ、何読んでるの」
「昨日から読み始めた本で、ある旅商人の話」
「面白い?」
「話術が上手くて引き込まれる。僕もこれくらい上手かったらって思う」
「伊達くんの話、私は好きだよ」
「え...そう?」
「だって楽しいもん」
大路は少しだけ口角を上げたあと、スルッと自分の席に座り直した。
伊達は着く間の時間、その言葉が頭の中で繰り返されたという。




